第3話 後輩と保健室

午前の授業が終わり昼休みになる。

俺はいつも弁当ではなく親から金を受け取り、購買で買ったものを食べている。

今日もいつも通り購買に行こうと立ち上がったときだった。


「仰せんぱ~い!」

「げっ」

「げっ、はさすがに酷いです……。結構傷つきます」

「ごめんって」


こいつは高橋沙羅。1つ下の学年の高校2年生であり、俺の中学時代の部活であるサッカー部のマネージャーでもあった。

中学の頃は落ち着いた黒髪だったのだが、今では濃いめのピンクのインナーカラーが入っている。

なんかいかにも都会でキャピキャピやってそうな感じだ。

しっかりと美少女に分類されるであろう彼女だが、中学の時からやけに俺に絡んできていた。

こいつ曰く、


「仰先輩はイジった時の反応が面白いので」


とのことだ。

まぁ面倒だと言えば面倒なのだが、面白いのも事実である。

先輩後輩ではあるが友達のような気安い関係が俺たちにはあった。


「せんぱ~い。とりあえず購買行きましょ」

「はぁ、分かった分かった。だからとりあえず掴んでいる服を離そうな」

「はーい」


こいつは意外と素直であり、俺が本気で嫌がることはしようとしない。

だから拒絶しようにも拒絶出来ない。

まぁ元から拒絶する気はないんだけどな。


二人で購買まで歩く。

沙羅は何か良いことがあったのか、足取りが軽やかだ。

ペースもいつもより少し早めで、俺がやや後ろを歩くかたちになる。


そして階段に差し掛かったときだった。

沙羅が足を踏み外し、体が前のめりに倒れる。


「沙羅っ!」


俺は叫びながら必死に手を伸ばし、沙羅の細い腕を掴む。

そしてそのまま俺の方へ思いっきり引っ張った。

俺はその勢いのまま後ろに倒れ尻餅をつく。

そして俺に抱きつくように沙羅が倒れこんできたので受け止める。


「あっぶねー……」


なんとか助けることが出来た。

あまりのギリギリさに冷や汗が遅れて出てくる。


「仰先輩……、ごめんなさい……」


腕の中にいた沙羅が俯いたままそう呟く。

まあ理由は知らないが沙羅が浮かれていたのは確かなのだが、それを強く攻めるのは野暮というものだろう。

実際こいつの体は今も少し震えているし、教訓になったに違いない。


俺は沙羅の両頬を軽く摘まんで、俺と目線が合うように引っ張りあげる。


「まったく……あんま心配かけさせんなよ?」


俺はそう言って頭をポンポン撫でるようにしてやる。

なんだが俺の妹を思い出してしまい、いつもと同じように接してしまった。


「ほにゅ……」

「ん?って顔真っ赤じゃねーか!しかもこれ絶対熱あるだろ!」


急いで保健室まで運ぶ。

おんぶするとなんかアウトな気がするので、とりあえずお姫様だっこをする。

すれ違う人の好奇の視線が痛いが、今はそれを気にしている余裕はない。

保健室に駆け込み、養護の先生に事情を伝えベットに寝かせる。

そして俺が保健室を出ようとすると、


「青春ね~。ふふ」


養護の先生にそう声をかけられた。

俺が入学した年に新卒としてうちの高校に来たまだ若い先生である。

結構美人であり、男子生徒のアイドル的存在であったりする。


そして俺は先生の一言に返事をする。


「ただの先輩後輩、それだけですよ。それじゃあ沙羅をお願いします」


そうして俺は保健室を後にした。

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