第169話 王位継承
戦いが終わってから二か月後。
革命家に襲われて負傷した、と言う設定の、残虐の王ジュダムーア。
その復活のニュースとともに招集をかけられたエルディグタールのガーネットが、ぞろぞろと城に集まってきた。
綺麗に修復されたエントランスをくぐり、騎士団が整列してる廊下を通り抜け、向かうのはジュダムーアが待つ、王の間。
復活した王に、「次は自分が生前贈与を迫られるのではないか」と、一同ビクビクしながら集結する。
王の間の祭壇には、騎士団長に復職したガイオン、副騎士団長のイオラ、そして騎士たちが守りを固めている。
ジュダムーアに生前贈与を行って退職したガイオンだが、昨日、大人になったジュダムーアが魔石の返還を行い、額に魔石が光っている。
しかし、それを知らないガーネットが、魔石のついたガイオンのヘッドドレスを見てひそひそと噂話を始めていた。
「おい、あれ……」
「まさか、騎士団まで生前贈与を始めたのか?」
「あり得るぞ。革命家に襲われて、もっと魔力を強化する方針にしたのかも」
「困るなぁ、うちの召使いのレムナントはもう三人しかいないんだぞ。これ以上生贄にされてはたまらん」
「それよりも、今度は私たちが狙われるかもしれないぞ!」
ジュダムーアが魔石の返還を行うとは考えられないガーネットが、さらに恐怖でおののいた。
ガーネットがそろったところで、副騎士団長のイオラが前に出る。
「ご静粛に! これから国王陛下がおなりになります!」
私は控室の幕をほんのちょっとだけ開けて、こっそり外の様子をのぞいた。
たくさんのガーネットがこちらを見ている。
「うわぁ……たくさんいる。こんな中に出ていくの?」
「このくらいたいしたことないよ。じゃあ、そろそろ行ってくるね、ママ」
集まったガーネットたちが静まりかえる中、大人になったジュダムーアが微笑みを残して控室を後にした。
「……さすが王様だね」
感心する私の横で、サミュエルが「俺は無理だ」と苦い顔をした。その後ろで龍人が「その言葉、覚えておいてね」と何やら
「ほらシエラ、始まるぞ」
ユーリにつつかれ、私はジュダムーアの晴れ姿に注目した。
先程までのにこやかな表情と違い、キリッと目元が引き締まっているジュダムーアが、二ヶ月前の革命家の襲撃について上手いこと説明を始めた。
そして、最後の一言で王の間が騒然となる。
「ガーネットによる王位継承を廃止するだと⁉」
「どういうことだ!」
「城が襲撃されて頭がおかしくなったのか⁉」
「しっ! 聞かれたら殺されるぞ!」
混乱するガーネットの騒ぎがおさまらない。
「静粛に!」
側に控えるガイオンの、吠えるような大声で静寂を取り戻す。
ジュダムーアが以前のように冷たくガーネットを見下ろし、再び演説を再開した。
「この件は、第二位王位継承権を持つカトリーナを含め、以下、王位継承権を持つ全ての者が了承済だ。私とカトリーナ、そしてその夫は、革命家の襲撃で大量の魔力を消費した。意味することは言わずとも分かると思うので割愛する。だが……」
王位継承権を持つ人間が三人、もうすぐ死ぬ。
王の間を見渡して、全員がそう理解したことを確認したジュダムーアが、さらに説明を加える。
「我らの寿命は短縮しておらず、それどころか二十五年という年月を超えて生存することが可能となった」
「なんだと⁉」
「そんなわけがない!」
再び王の間が騒然となり、ガイオンの咆哮が轟いた。
「信じられぬのも当然であろう。これは常識を超えた、神の祝福だからだ。ここから先に見ること、聞くことは、他言無用。いらぬ戦争を引き起こす可能性がある故、エルディグタールだけの秘密に留めておくように。それが守れぬものは、エルディグタール王位継承権を持つ者、騎士団全てを敵に回すと思え」
落ち着きなく顔を見合わせるガーネットをよそに、凛としたジュダムーアが控え室を見た。
「シルビア」
ジュダムーアがシルビアを呼ぶと、ガーネットたちは今日一番のざわめきを見せた。
シルビアは地下に幽閉されていただけなのだが、事情を知らないガーネットたちはとっくに死んだと思い込んでいる。劣悪な環境の中、寿命をこえて生きているなんて考えられないからだ。
ガーネットたちも、ジュダムーアの視線を追ってこちらを見る。
「お……お母さん!」
「大丈夫よ、シエラ」
シルビアが安心させるように、カチコチになっている私の頬を撫でた。
全員が注目する中、淡いブルーのドレスをなびかせたシルビアが、美しく歩いて出て行った。
「本当に……シルビアだ!」
「まさか、あり得ない!」
生きているシルビアを見て、ガーネットたちがジュダムーアの言葉を信用し始めた。
その様子を見ていた私の心臓が破裂しそうになる。
……次に呼ばれるの私だ。途中で転んだりしたらどうしよう!
これから、私が国王になることを宣言される。
王位継承はほかの人にしてほしいと再び交渉をしてみたが、他の人を王にするのであれば、私と結婚をする前提じゃないとだめだと言われてしまった。
結婚相手なんてまだ考えられない私は、ジュダムーアがこのまま王になっていればいいとも言ってみた。
しかし、過去の行いを深く反省したジュダムーアは、悲痛な面持ちで「是非シエラママが王になってほしい」と強く願い出た。あまりに辛そうな顔をするので、それ以上は頼むことができなかったのだ。
それでも私が渋っていると、今度は誰が夫になるかで喧嘩が始まりそうになる始末。
結局私が王となる以外の方法が見つからず今日にいたってしまった。
人目を避けて孤児院でひっそりと暮らしていた私は、こんなに沢山の知らない人の前に出るのは初めてだ。もうドキドキしすぎて死にそうだ。
緊張で目をぐるぐるさせていると、冷たくなった私の手に温もりが触れた。
「うひゃぁ、シエラの手、氷みたいだな。緊張しすぎだろ」
振り向くと、ユーリが笑っていた。
ユーリの後ろからひょっこり龍人が顔を出す。
「もし上手くいかなくても、別の案もあるから大丈夫だよ」
優しく笑う龍人が表情を変え、「奴らがノーと言えない状況を作ってあげるから」と怪しい微笑みを浮かべた。
今度はサミュエルが「文句を言うやつは俺が全員締め上げてやる」と物騒なことを言い、イーヴォは「かわりに僕が行こうか?」と私に姿を変える。
「あははっ、みんな……」
……そうだ、私には仲間がついている。私は私らしく頑張ろう!
みんなの顔を見たら、自然に笑顔と勇気が湧いてきた。
「ありがとう。私、行ってくる!」
「頑張れ! ……うーん、でも、ジャウロンの杖はいらないだろ」
「だって、これがあった方がヒーローみたいでカッコいいんだもん」
ユーリが苦笑した時、ジュダムーアの声が聞こえてきた。
「奇跡を起こした少女、シエラ」
私は「よしっ」と気合を入れ、ジャウロンの杖に姿を変えたポッケを握り背筋を伸ばす。
そして、手と足を同時に出しながら、シルビアとジュダムーアの元へ歩いて行った。
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