第129話 カウントダウン 6 計画

 サミュエルのベッドの枕元にある、大きな鳥かご。その中のポッケが、レタスの葉っぱをおいしそうにモシャモシャ食べている。

 朝食を運びに来た私は、ポッケの横にいるサミュエルと並んで、腰を下ろした。


 ドキドキしながらカイトからもらったソラマメを装着して耳を澄ます。


「あー、テステス。こちらチームラボ。聞こえてますか、どうぞー」


 はきはきした芽衣紗の声に応答すると、私たちの無事を喜ぶユーリ、アイザック、ガイオン、シルビアの声が聞こえてきた。地下からこっそり参加しているカイトのひそひそ声もする。


 ……良かった、みんなも元気そう!


 音声だけだがみんなとの再会が嬉しく、隣に座っているサミュエルと顔を見合わせて喜ぶ。このまま久しぶりの会話を楽しみたいが、残念ながら今は時間がない。

 挨拶もそこそこに本題に入った。


 芽衣紗たちはイオラからある程度の情報を得ていたので、私はラボチームが知らない龍人の情報を伝える。


 龍人が城で過ごすうちに、ジュダムーアをほっとけなくなってしまったこと。

 カトリーナから譲り受けた魔石を使い、私に生前贈与をさせてジュダムーアの寿命を延ばそうとしていること。

 そして私とジュダムーアの結婚は、龍人の計画に必ず必要だということ。


「うーん、それだけ聞くと一見ジュダムーアのために聞こえるけど……」

「やっぱり私の推測が合っているんじゃないのか?」


 芽衣紗の唸り声と、アイザックの声がソラマメから聞こえてきた。


「アイザックの推測?」


 私が聞くと、アイザックのかわりに芽衣紗が答える。


「お兄ちゃんの意図がまだはっきりつかめないんだけど、アイザックの読みでは、お兄ちゃんはあえてジュダムーアという過酷な環境にシエラちゃんを置いて、タイミングよく自分の優しさを見せてシエラちゃんを物にしようとしてるんじゃないかって。……まさかとは思うけどシエラちゃん、すでにお兄ちゃんが好きになったとか言わないよね」

「へっ⁉ 私が龍人を⁉」


 目を泳がせながら昨日の紳士な龍人を思い出していると、お姫様と呼ばれた時の恥ずかしさもよみがえって顔が熱くなってきた。

 確かに昨日、女の子として扱われてキュンとしちゃったけど、あれはそう言う好きとは違うんじゃないかな……。


「えーっと……、うーんと……」


 恋なんてしたことがない私は、なんと説明すれば正しいのか考えて言葉に詰まる。

 もごもご言いながら頬を赤らめる私の様子を見て、サミュエルがショックで固まり、状況を察した芽衣紗が心底嫌そうに言った。


「げ、マジ?」


 ソラマメから、「だから言っただろう」とアイザックの声が聞こえてくる。


「ち、違うよ! あれはそういうんじゃないってば!」

「分かった。落ちる前に終わらせよう。他には何か言ってた?」


 なんだか誤解されていそうな気がするが、サミュエルがお葬式みたいに暗くなってるし、これ以上詳しく追及されても誤解が誤解を生みそうだ。

 私は話題を変えるために他のこと、一番重要なことを伝えた。


「私、六日後にジュダムーアと婚約することになっちゃた。その後、みんなと二度と会えないように、どこか別の場所に連れていかれるみたい。婚約したら、サミュエルも解放するって」

「なんだと……⁉」


 ソラマメから聞こえるアイザックの悲鳴と同じくらい、隣にいるサミュエルが驚いた。突然の大きい声に、慌てた私がサミュエルに向けて「シーッ」と注意した時、バーデラックの「だから私はなにも知らないんですって」という泣き言が聞こえてきた。


「そうか。お兄ちゃん、日にちを絞ってきたな。あとは何かある?」

「昨日龍人に、『エルディグタール城が崩壊していたとしても婚約はできる』って言われたよ。なんでお城が崩壊するのかまでは言ってなかったけど、ヒントになるかな?」

「ふうん。やっぱりお見通しってわけか。でもやるしかないね」


 納得するように芽衣紗が話す。

 思い当たる節があるようだ。


「これから実行する私たちの計画は、二つの案がある。一つはシエラちゃんとサミュエルを救出、もう一つは救出プラス打倒ジュダムーア。でも、イオラの話じゃ包囲網が厳しそうだから、どちらにしても争いは避けられない。だとしたら、後者一択だと思うんだよね。また次回となったら、さらに危険が増すし、どうせいつかやらなきゃいけないから、一回で一気に終わらせたい」

「イオラってガイオンのあとの騎士団長だろ? 味方につけたのか?」


 状況を確認するため、サミュエルが聞いた。

 すると、すぐにガイオンの豪快な声が聞こえてくる。


「イオラは俺の幼馴染なんだ。ジュダムーアの生前贈与を止めるって言ったら、俺たちに協力してくれるってよ」


 話したことは無いけど、きっとあのガイオンと似た髪の色の女性騎士だろう。

 遠巻きに見た姿を思い出しながら、私が思い付きを口にする。


「それなら、騎士団ごと説得してこっちの仲間にできるんじゃない?」

「それができるならいいんだが、騎士団は全部で五千人くらいいるんだ。その中には、ひいきにしてるガーネットがいたり、他の国とつながりがある奴がいると考えた方が良い。情報が洩れれば国の混乱に乗じて攻め込んでこないとも限らんし、裏切られたらイオラが暗殺される可能性もある。残念だが、百パーセント全員を信じるのは厳しいんだ」


 難しい話はいつも子守唄にするガイオンだが、戦略の話なら眠くならないようだ。むしろ生き生きして饒舌じょうぜつにしゃべる。

 ガイオンの後に芽衣紗が補足した。


「っていうこと。全員とはいかなくても、ある程度の騎士は革命後の私たちの力にもなるだろうし、こっちも無駄な力を割かなくて済むように、騎士団はできるだけ外に誘導して被害を最小限にしたいの。その点は騎士団の気をひく何かを用意しようと思ってる。お城の中に残ってしまったらやむを得ないから戦うけど、あくまでとどめはささないこと。分かった? サミュエル」

「………………………………心がけよう」

「分かってないな。後はシエラちゃん頼む」

「えっ!」


 芽衣紗に大変なことを頼まれた気がするが、時間が無いので話は次に進んでいく。


 騎士団に加え、下働きの人たちへの被害も最小限にしたい。その辺はカイトが上手くやってくれたようだ。


「下働きの説得はもう終わっている。シエラがみんなの信頼を得てくれてたから、俺が説明したらすぐに信じてくれたよ。分け隔てなく接してくれる様子がシルビア様そっくりだって、みんな言ってた」


 ユーリが「やるな、シエラ!」と褒めてくれた。

 本当にすごいのはシルビアなんだけど、母親と一緒に褒められた気分になって、私は誇らしい気持ちになった。


「良し。そろそろ時間がないからまとめるよ。決行はタイムリミットの六日後、婚約の前日。それまでに準備を整えておく。暗くなってからの方が良いから、シエラちゃんが夕食をサミュエルに運ぶ時間にしよう。私たちは騎士を外におびきだして、軟禁部屋にいるシエラちゃんとサミュエルを救出。そして一気にジュダムーアの討伐をする」


 今日一番楽しそうな芽衣紗の声が、ソラマメから聞こえた。


「芽衣紗様のテクノロジーの結晶をお見舞いしてやる!」





作者:田中龍人

https://kakuyomu.jp/works/16816452219517599517/episodes/16816452219942826075

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