第114話 一蓮托生

「仲間……だと……」


 笑顔で革命の協力を求めるガイオンに、動揺を隠しきれずイオラが硬直した。


 騎士団がユーリたちに打ち負かされた時、ジュダムーアから部下を守るため、ガイオンは迷うことなく自分の魔石を差し出した。それを間近で見ていたイオラは、何もできない自分に悔しさを感じながら、同時にガイオンに尊敬の念をいだいていた。


 友であり、目標であり、ライバルである幼馴染。

 いつかはこの男を超えたい。


 そう思い、騎士団から抜けたガイオンの穴を埋めるべく、今日まで走り回って来た。

 それなのに今度は、共に国を混乱におとしいれろと言う。


 現実を受け入れられないイオラは、思わず自分の耳を否定した。


「聞き間違ったか。私を革命の仲間に誘ったように聞こえたぞ」

「間違いじゃない」


 期待を裏切る返答に、イオラがテーブルを殴りつけた。


「ふざけるな! この国を……いや、自らの手で部下を傷つけろと言うのか! お前は、魔石と共にイルカーダの誇りさえも失ったのか!」


 イオラの言葉に、ガイオンが表情を引き締め、真剣に話し始めた。


「俺は、自分の魔石を捧げたことは間違いじゃないと思っている。だが、このままジュダムーアに国を任せていれば、俺の次に魔石を失うのは現騎士団長のお前かもしれない。俺はこの国のためにも、イオラのためにも、ジュダムーアの独裁に終止符を打つ。そのために、ユーリたちと革命を起こすんだ」


 目をつぶって腕を組んでいる父が、静かに息子の決断を聞いている。


 革命の裏に隠されたガイオンの想いに、イオラの気持ちが揺れ始めた。


「おぬしは、自分の元部下たちと戦うことになっても良いのか」

「……あいつらを傷つけないためにも、お前が絶対に必要なんだよ。また、俺と一緒に戦ってくれ」

「……ガイオン」


 信頼のこもる眼差しでガイオンが放った「一緒」という言葉。

 自分がいれば、犠牲無くこの国の悲しい運命を変えられると言いたいのだろう。

 そう感じたイオラの中で、ガイオンと共に駆け抜けてきた日々がよみがえる。


 誰にも負けないよう、月の光のもと武芸にはげんだ幼少のころ。

 自分の力を試すため、異国の地へと赴いた日。

 そして戦場でどんな敵もなぎ倒してきた、二人の阿吽の呼吸。


 ガイオンがいなくなってから、一人の力がちっぽけなものだと痛感しているイオラは、ガイオンとの一蓮托生いちれんたくしょうの運命を受け入れざるを得なかった。

 背中を預けられるのはこの男しかいないのだ、と。


「何か考えがあるようだな」


 椅子の背もたれに寄りかかったイオラを見て、協力を得られそうだと確信するガイオンがニッと笑った。


「逆賊をおとりに使う」

「逆賊? それで今日みたいに騎士を引き付けようというわけか。まさか、このユーリとやらを使う気ではあるまいな。我らが本気を出せば、ライオットなど三分もたたずに死ぬぞ」

「こいつはお前が思ってるより強いぞ」


 ガイオンの言葉にベルタが頷き、それをイオラが横目で見る。


「それに、俺たちにはまだ仲間がいる」


 眉毛を上げるイオラに、子どものように目を輝かせたガイオンが告げた。


「伝説の鬼神、アイザック将軍だ!」

「なっ……アイザック将軍だと⁉ まさか生きているのか⁉」


 名を聞いたイオラが再び驚愕した。

 アイザックはかつて、シルバーでありながらガーネットに引けを取らない程の魔力を持ち、世界中の軍隊の頂点に立っていた男だ。

 十四年前に突然姿をくらまし、大捜索でも発見できず死んだものとされていたのだが。


「ああ。あの時、城を襲った逆賊の一人だ」

「……っ! あの氷の壁は、アイザック将軍の氷瀑か!」

「そうなんだよ! 俺たち、氷に飲み込まれて手も足も出なかっただろ。めちゃくちゃかっこよかったよなぁ! 伝説の鬼神は健在なんだよ!」


 少年のころからあこがれていた鬼神の、現役と変わらぬ姿を思い出し、思わずガイオンが興奮する。

 顔には出さないが、イオラも密かに胸を躍らせていた。


「だからあの時、嬉しそうに氷を割って出て来たのか」


 ハラハラしながら二人のやり取りを見守っていたユーリは、分厚い氷の壁を砕きながら出てくる筋肉隆々のガイオンを想像した。


「イオラだって、エルディグタールがこのままでいいとは思ってないだろ? この機会を逃したら、俺たちだけじゃなくこれからもずっと悲劇が続くぞ。だから、俺の手を取れ。イオラ!」


 呆れてため息をつくイオラに、ガイオンが再び手を差し出した。


「……まさか、イルカーダ出身の我らがエルディグタールで革命を策略するなんて思わなかったな」


 イオラがガイオンの分厚い手を取った。


「この革命のかなめはシエラなんだ。俺たちと別れた後どうなったのか、イオラが知っていることを教えてほしい」

「分かった。しかし、良い報告ができるとは限らないぞ」

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