第43話 龍子とサーシャ
トライアングルラボに到着した翌日。
私たちは
コンパニオンとは、お客さんにお酒をついだりする女の人のことらしい。
なので、未成年の私とユーリは雑用係で参加だ。コンパニオンは、トワ、龍人、サミュエルの三人に任せた。
宴会まであと2時間。
コンパニオン組みが準備をしている間、他のメンバーはフロアーでお茶を飲みながら待機していた。
「おまたせ♪」
男性陣の目が龍人に釘付けになる。
「うわ、マジ? 本当に龍人か?」
「ほう、これは見事だ」
「うわぁぁ、すっご! 声まで変わって、どうなってるの?」
「
現れた龍人は完璧に女装をこなし、龍子になっていた。
緩く編んで耳の上で止めた前髪。こめかみから下がるおくれ毛が、曲線を描き女性らしさを演出している。それに、太ももまで切れ目の入った、体の線を際立たせるワンピース。ちょっと動けば足が丸出しだ。
身のこなしまで柔らかくなっているのは、見た目が変わったせいか、それとも普段からやり慣れているのか。
最初から龍人だと知らなければ、女性にしか見えない。
「うふふふ! すごいでしょ。声帯にちょっと注射をして声を高くしたの。ついでに鼻も。このくらいならすぐにできるのよ。この衣装も素敵でしょ。チャイナドレスって言うの」
そう言って龍子がくるりとその場で一回転した。
男性陣から感嘆のため息が漏れる。
これは……。
女装ってこんなに変わるものなの?
龍子でこれなら、サミュエルは一体どうなっているのだろう。
私の予想をはるかに上回る龍子の出来栄えに、恐ろしいもの見たさで好奇心が掻き立てられる。
すると、私の期待にこたえるかのように、トワともう一人別の女性の声が聞こえてきた。
「ほーらっ。サーシャちゃん。可愛くできたんだからみんなに見てもらいに行きましょうよ」
「いーやーだっ! 誰がサーシャだ! もぉぉぉぉぉ、だからここには来たくなかったんだよ……」
二人がしばらく廊下で押し問答をしている。
……サミュエルッッ! どうなったのか早く見たいっ!
とうとう問答に勝ったと思われるトワが、ヒラヒラしたドレスに身を包んであらわれた。その後ろには、トワに無理やり引っ張られたサミュ……、サーシャちゃんもついてくる。
がっくりとうつむいたまま引きずられてきたサーシャだが、もう逃げられないと悟ったのか、一度大きく深呼吸をすると意を決したようにキッと前を睨みながら赤い顔を上げた。
サーシャはきれいな黒髪を横分けにして、後ろでふんわり団子にまとめていた。うなじに流れるおくれ毛がとても色っぽい。
か……かわいい!
サミュエルってこんな感じだったっけ⁉
確かに、この三人なら正体がバレずにうまく潜入できるかも!
「あーん! かーわーうぃうぃーっ! サーシャたん一緒に記念写真とりましょうよ!」
「…………」
上機嫌な龍子が、手のひらサイズの箱を自分達に向け、パシャパシャと何かをし始めた。あきらめて死んだ目をするサーシャは、もう抵抗すらしていない。
そして、上機嫌の龍子が、私たちに衣装の説明を始めた。
「うふふ! サーシャの衣装も可愛いでしょ。和服って言うのよ。私の国の民族衣装♪ 絶対似合うと思ったんだぁ。これなら体系も隠しやすいから、細マッチョのサーシャにピッタリ」
始めて見る民族衣装だったが、鮮やかな青色の生地に、色とりどりの花模様が沢山
「素敵な民族衣装! 目はどうやって色を変えたの?」
「片方だけ色が違うと目立つから、サーシャの左目に合わせて茶色のコンタクトをつけてるのよ」
「コンタクト?」
「ええ、目の中にレンズを入れるの」
目の中にレンズ⁉
こわっ
龍子の言葉に、目の中に何かが入った感触を想像し、目がしぱしぱする。
「さ、そろそろ行きましょうか」
私が目を瞬いていると、満足しきった顔の龍子とトワが、サーシャを挟み込むように腕を組んで出て行こうとした。
「ちょっと待って、私とユーリは何をしたらいいの?」
「シエラちゃんとユーリ君は、現場のスタッフの指示に従って料理を運んだりしてくれればいいから、特に難しいことは無いと思うわ。敵の情報を探るのは、私たちに任せて!」
振り返った龍子が、ノリノリでウィンクした。
「現場の指示に従えばいいのね。それなら何とか大丈夫そう!」
コンパニオンの三人には、ぜひ頑張って有力な情報をゲットしてきてもらいたい。そのためにも、今日は裏方を頑張ろう。
……それにしても、龍子は黙っていれば普通に美人だけど、ひょんなことで「ジィィザァァス」とか叫ばないよね。ちょっと心配なんだよなぁ。
私がブツブツ言いながらラボを後にしようとすると、イーヴォの見張りを任されたアイザックが声をかけてきた。
「ユーリ君、シエラを頼んだよ」
「分かった! まかせとけ!」
手を振るアイザックに、ユーリが元気いっぱいこぶしを振り上げて答えた。
アイザックとイーヴォの見送りを受け、私たち一向は龍子を先頭に、すっかり暗くなっているダイバーシティの町へと繰り出した。
「さあ、おもいっきり楽しんでくるわよぉ♪」
「はい! 龍子様!」
「俺をはさんでスキップするな!」
ピクニックにでも行くかのような龍子とトワに、私の隣でユーリが苦笑いをしている。
「今日って敵の情報を探ってくるのが目的だよね」
「……そうだな」
前を歩く三人の背中を、私は不安な気持ちで追いかけた。
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