第28話 あたいのところに

おいら そんで、今はどんな感じなんだ?

  文字をお母さんに書いてもらってるっていうけど、

    もしかして右手も動かなくなってるのか?


あたい そのもしか、大正解!

   体も段々不自由になってきちゃった。

    あちこち動かなくなって来てるの。

  お医者さんは、石になっちゃう病気だって言ってる。

   体が硬くなってきちゃうんだって。

  あたい、夢にも思わなかった、あたいが石になるなんて。

  変なことになっちゃった。

    家族や親戚は全然そんな人いないんだよ。

   不思議だよね。


おいら そんな病気聞いたことないぜ。

  ヤブ医者の言うことなんて信用するな。


あたい お母さんとおしゃべりは出来るのよ。

    おしゃべりするの楽しい。

  お母さんとおしゃべり出来てるから、こうしておいらとも日記を続けて

    いられるし。


おいら おいら、お見舞いしたい。

    今、家にいるの?

    病院にいるの?

   いますぐ、そこに行って、あたいに会いたい。


あたい そんなのダメよ。

    おいらが、今のあたいの姿を見たら、

    あたいのこと嫌いになっちゃうから。

    絶対に教えない。


おいら そんなこと言ってる場合じゃないだろ。

  おいらに出来ることならなんでもしてあげたいんだ。

  あたいは、女の子だから、男のおいらに出来ることは少ししかないかもし

    れないけど。

    出来ることはなんでもしたいんだ。

    そして、なにより今すぐあたいの顔が見たいよ。

    今すぐに。


あたい あたいとおいらは会ってるじゃない。

    毎日、こうして。


おいら こんなの全然会ってないよ。

    会ってることにならないし、おいら寂しいし、

   それにそれにすっごくすっごく、寂しい。

    遠くに行っちゃいそうで、居ても立っても居られない。


あたい あたいのそばにはいつも、おいらがいるよ。

  いつもあたいの側にいるのよ。いつもあたいの側に来てるでしょ。

   いつもあたい、おいらが来てるの分かるよ。

    あたいのすぐそばであたいの顔をにっこり見てるのよ。


おいら おいら、そこの場所も分からないのに、そんなところに行けるわけないよ。

  そんなこと言わないで教えてくれよ。

   おいら、すぐにでも偉いお医者さん連れてそこに行くから。

  偉いお医者さんがいなかったら、おいら一杯いっぱい勉強して、あたいの

    病気をすぐに治しに行くから。

    そうだ、おいら医者になる。


あたい 大人になって、立派なお医者さんになったら絶対来てね。


おいら 大人にならなくても、大人になる前に一生懸命勉強して、子供のままでも

    あたいのところに行くから。絶対にあたいのことを治しにいくから。


あたい ダメよ。子供のお医者さんなんて聞いたことないもの。

  ちゃんと経験積んで、心も体も頭も立派な人になってね。

  大人にならないと分からないこと一杯あるみたいだから。

    お母さんがよく言ってる。広い視野を持ちなさいって。

   お医者さんが家に閉じこもりっきりで、ゲームばっかりしてる人だと、

    診てもらう人も怖いでしょ。


おいら 広い視野か・・。

    広い視野はどうしたら持てるようになるんだ?。

    背が高くなれば、確かに遠く方まで見えるようになるよな。

    満員電車でも、人が一杯のお祭りでも、背が高いと遠くまで良く見えるし。

    おいら、まだちっちゃいから、大人のおなかや胸しか見えないし。

    

あたい そういう視野じゃないの。


おいら なんで子供だといけねえんだよ。

    待ってろよ。おいら、早く大人になりたい。子供って、なんだが不自由だ。

    どうして、あたいのところに行けないんだよ。


   あたいのライトが消える。

   おいら、ポッケから別の紙を取り出し書き始める。

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