第19話 となりのあたい

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  あたいへのスポットがゆっくり消え、おいらひとりの灯りに戻る。


おいら  ねえ、あたい。


     おいらは毎日、隣のあたいの席の椅子を引いて、あたいの姿を想像してい

     たら、その姿が本当のあたいなんだと勘違いすることがあるよ。


     ほんとに小さな黒い粒々が集まって、あたいの姿がぼうっと浮かびあがる

     んだ。


     いつも方杖をついて、窓の外を見ているよ。


     あたいは空の景色が気になってるみたいだ。


     今日はどんな空が現れているのか、空がどんなふうに変わっていくのか

     じっと見てる。


     それがさあ、楽しそうに見てるんだよ。


     顔の表情まではさすがに見えないけど、楽しそうにしているのが分かる。


     人の感情って背中を見てると一番よく分かるんだぜ。


     顔も見たいんだけど、こっちを絶対見てくれねえんだよ。


     おいらが想像してるのに、おいらの言う通りに動いてくれねえんだよ。


     あたいは、やっぱり頑固なんだな。


     こっち向け、こっち向け、こっち向け、って思ってると、

     いつも、臭えタオルが顔面に命中すんだ。


     1日平均2回位あるね。


     いてえのもあるけど、臭えんだよ。


     だんだん臭さが増してってるぜ。


     臭えタオル洗えっつーの。


     だから結婚出来ねーんだよ。


     あたいには申し訳ないけど、一回センコーのタオル、洗ってやってくん

     ない?


     おいらが洗ってやってもいいけど、おいらが話しかけると逆に面白がっ

     て、洗わない気がすんだよ。


     どう、頼まれてくれない?


     おいらさあ、あたい学校休んでるけど、全然休んでる気がしないんだ。

     いっつも横にいる気がする。


     授業中、本当に横に座ってる気がするんだ。


     窓を開けてると外から風が入って来て、あたいの髪の毛がゆらゆらあたい

     のほっぺたを撫でているのが見えるし、あたいの匂いもおいらのところま

     で届いてくるんだぜ。


     それもコロッケの匂い。


     あたい、コロッケ食べ過ぎだよ。


     と言うか、あたい、コロッケ一杯食べないと元気になれないぜ。


     ・・・だから、おいらは大丈夫なんだよ。


  おいら、ひとりピンスポットの中、上手からあたいの声。


あたい   おい!! おいら!!


おいら  わあああ!(ビックリする)


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