空・残骸・新しい城⇒ミステリー

「これで…完成だ!」


隙城が名古屋城完全再現1/100プラモデルの屋根のシャチホコを巧みな手腕で付け終わった時。時計は午前1時を回ろうとしていた。


「やりましたね!隙城先輩!」


半任のねぎらいの言葉が染みる。全国城研究会ただ一人の部員。そして紅一点。他は全員幽霊部員。こんなトチ狂った活動に良く着いて来てくれたものだ。彼女の献身的協力がなければこの城は確実に完成しなかったと言っていい。


「ああ。ありがとう。半任もお疲れ。こんなバカに付き合わせてしまって…すまなかったな」


「いえいえ!先輩の為なら!それにこやつは文化祭展示品の目玉ですからね!部員が協力するのはトーゼンですっ!」


そう。明日…いや今日は文化祭。我々全国城研究会の活動は城見学という名の自費旅行と城にまつわる映像鑑賞とこの文化祭展示。この3点しか存在しないと言っていい。あまりにも薄すぎる活動内容に生徒会からも目を付けられている。最もここまで見逃されていたこと自体が奇跡的なのだが。


「そう言ってくれると有り難い」


改めて展示城を見渡す。出来立てホヤホヤの真新しい城。心なしか木材や漆の香りまで立ち昇る様だ。愛着…愛おしい…そんな言葉で表せる様な些細な感情ではない。子供を持つとこんな気分になるのかもしれない。千年前城が出来上がった時の建築士もこんなことを考えていたのだろうか。


「先輩…本当に城が好きなんですね」


しまった。つい自分の世界に。


「ああ、すまない。つい浸ってしまった」


「いえいえ~!明日の展示会頑張りましょうね!お客さん沢山入れてあのイヤミったらしい生徒会の鼻を明かしてやりましょう!」


「そうだな。所で…俺は学校に泊まるつもりだが。半任はどうする?」


「え?何の話です?」


「文化祭開始までどうするかって話。学校で泊まるか、家帰って寝るか」


「成程。ふむむ。そりゃ家帰りますよ。先輩と一緒に寝たら何されるか分かんないし」


「いや何もしないが。城見学旅行で散々一緒に泊まってるだろ」


「…。そっか。そうですね。じゃ私帰りますね~。風邪ひかないように気を付けて!それでは!」


そう言い残し半任は家に帰っていった。


「さて。俺も寝るか」






当日。


「暇だな」


「暇…ですね」


受付カウンターで売店のフライドポテトをほうばりながら教室のど真ん中に鎮座する名古屋城完全再現1/100プラモデルを見つめる。時間の流れが遅い。粘ついている。暇すぎて名古屋城屋根の瓦の数を数える。暇だ。


「大体他の展示品が貧弱すぎるんですよ。なんですか大阪城パンフレットって。アレを単体の展示品として出す先輩の度胸に驚きますね」


「半任こそ何だアレ。大阪城にいた猫の写真て。城じゃないやん。生物やん。もはや生物部になってるやん」


「エセ関西弁やめて下さい。大体城の写真なんてプロがいくらでも良い写真撮ってるじゃないですか。私は城と生活の関係を新しい着眼点からですね…」


ガラガラガラ


「「いらっしゃ~い!…あっ…生徒会長…」」


「息の合った挨拶有難う。所でボクが先週言った事…覚えてるよね?」


「文化祭展示で結果が出なかったら廃部…ですよね」


「その通り。で…今日の客は?」


「えと…5人です」


「え~⁉良く聞こえなかったな~‼1日で⁉何人⁉」


「1日で…5人です…」


「廃部「待って下さい!」「そこをなんとか!」


「人の喋りに被せるんじゃないよ‼ダメなもんはダメ‼今すぐこんな展示放り出して部室帰って荷造りでもするんだな‼ハッハ~‼」


ガラガラガラ


「あんのクソ会長が…なんであんなのが生徒会長になれるんだ」


「まあ頭はキレますからね~。性格はクソだけど。大体展示場所が悪いんですよ。校舎の隅っこですよココ」


「まあ上等な場所はサッカー部やら何やらに占領されてるからな。弱小部活にはこんな教室がお似合いって事だ」


「そんなスネないで下さいよ先輩~!明日も文化祭はあるんだし!そこでお客が沢山来るかもですよ!元気出しましょ!」


「そうか…そうだな」


後輩に励まされてしまうとは。情けない。しかし案外ここらが潮時かもしれないな。俺が引退したら半任が独りでこの部を回す事になる。正直新しい部員も入るとは思えない。そんな形で自然消滅させる位ならいっそ自分の手で…。そんな思考が脳裏をかすめた。






2日目。


少し遅れてしまった。全国城研究会の今後について考えていたら全然眠れなかった。猛ダッシュで校舎の隅の展示室に向かう。何とか開始時間には間に合ったか。


「半任おは…うわあっ⁉どうした⁉」


半任がドアを開けるなり猛然と抱き着いてきた。あまりに突然の事過ぎて脳が処理しきれない。どうした。血迷ったか。


「城隙先輩…城が…城が…」


「城…?う、ウワアアアアアア!!!」


城が。燃えていた。いや燃え尽きていた。名古屋城完全再現1/100プラモデルが。炭に。消し炭に。残骸が。一面に。一面。一面の残骸。消し炭。一面の残骸。残骸。炭。消し炭。一面の残骸。残骸。炭。消し炭…


「…輩。先輩!」


「…半任か。ここは?」


「保健室ですよ。急に倒れるんですもん。ビックリしちゃいました」


「そうか。悪いな、いつも迷惑かけて」


「なんでそんな悲しいこと言うんですか!持ちつ持たれつってヤツですよ!先輩にはいつも助けられてますからね!この位屁のカッパです!」


相変わらずだ。この明るさ、奔放さに何度助けられて来ただろう。それに比べて自分は先輩らしい事を全然…。おっといけない。自己嫌悪になるな。今は後輩のエネルギーを素直に受け取ろう。


「ありがとう。ところであの城は」


「どうやら昨日誰かがイタズラで燃やしたみたいです。現場にマッチ箱が落ちていたのでそれが火元だと思います」


成程。しかしなぜ。なぜ城が燃やされたんだ。いくら考えても分からない。今まで人の恨みを買うような行動は余り取っていないはずだが。もし恨まれていたとしても今回の犯行は過激すぎる。段階をスッ飛ばし過ぎだ。普通もっと陰湿な嫌がらせから始めるはず。となると…


「また自分の世界に浸ってますね」


「お、おお。すまん」


「別にいいですよ。先輩っぽさが戻って来たみたい。早く元気出して下さいね。それじゃ」


ガラガラガラ


「信じたくない。信じたくないが…」






後夜祭。外はお祭り騒ぎ。校舎の隅の展示室は静まり返っていた。名古屋城完全再現1/100プラモデルの残骸が燦然と佇む。その様から心なしかこれから起こる事柄を見届けようとする気迫を感じた。この事件の被害者として。いや被害城として。


ガラガラガラ


建て付けの悪いドアが開く。


「何ですか?用って」


「単刀直入に言う。城炎上事件の犯人、お前だろ」


「なんなんですか急に。証拠はあるんですか」


「無い。あのヘッポコクソ作者にそんな高尚な事柄を考える頭は無かった様だ。マッチ箱を云々して良さげなトリックを考えようとしたが思いつかなかった。許してくれ」


「ならしょうがないですね。そう。私が犯人です」


やはり…。しかしなぜ。


「なんでこんな真似をしたんだ」


「当ててみて下さい」


「…俺に恨みがあったのか」


「違いま~~~す。ザンネン!」


なんだと。じゃあ燃やす理由が無いじゃないか。なんだこいつ。サイコパスかなんかか。


「…降参だ。答えを教えてくれ」


「一つ。部存続の為。今回の事件で私達全国城研究会は一躍悲劇のヒロインになりました。そんな状況になっちゃ生徒会長も廃部を大声で叫ぶ訳には行かない。その位の分別は持っている人間です」


「一つ。好奇心。城というのはその性質上火災と共にある物です。城の究極の美。それが炎に包まれた城。それを間近で見たかった。それだけです。最もこの動機は私のキャラ付けには沿ってない気がしますがね」


「一つ。…」


急に言いよどんだ。作者が眠気と闘っているのか。しっかりしろ作者。負けるな作者。ここで寝たら俺たちの末路はどうなる。一生後夜祭に取り残されたままになっちまうぞ。おい。


「…それもいいかもしれませんね」


こいつ、心を…?


「ライターズハイです。ライター’s灰ってか。ハッハッハ。なんでもアリです。無法地帯なんですよ。ココは」


????????????????


「とにかく。私は先輩と一生後夜祭に取り残されたままになっちまう…という状況を酷く好ましく思っている。これがヒントです。最大のヒント」


「もしかして半任、お前…」


「その半任って名前も好きじゃないんですよね。ネーミングセンスとかそういう次元を超えてますよ。犯人に半任って付けるの頭おかしくないですか」


『わかる』


「誰だ今の」


「話を戻しましょう。そう!私!半任は!城隙!先輩を!愛しています!世界中の!誰よりも!好きです!大好きです!城を燃やしたのは!嫉妬です!城ばっか見てないで私を見て下さい!」


「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


エンダアアアアアアアアアアアアアアアイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアウィルオオオオオルウェイズラアアブユウウウウウウウウアアアアアアアアアアアアア


二人は幸せなキスをして終了








空がとてもきれいだった


おしまい

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