現世・残骸・業務用のトイレ⇒学園モノ

腹が痛い。


昨日喰った鍋が当たったのか。それともアイスか。はたまた今日の弁当か…思い当たるフシはゴマンとある。そしてそれを追及した所で意味がない事も分かっている。原因が解明出来れば体調が良くなるなら全国の医師はとっくに廃業しているだろう。


そんな事を思いつつ昨日今日の行動のどこかに責任の所在を見つけようとする自分の脳活動は止まることがなかった。思うにこれは人類の本能に基づく物だろう。人類は絶えず他の人間・環境からフィードバックを得て自分の行動を改善してきた。


それは現代社会でも同じ。腹の痛みが止むたびに自己を省みる事を辞めればまた明日同じ苦しみを背負うことになるのだ。これは未来への投資。QOLの上昇。人類の発展…ようやくトイレが見えてきた。便意を我慢するには便意以外の事で脳を埋め尽くすのが一番。古事記にもそう書いてある。


周りに人がいないことを確認しトイレに入った。小学生男子にとって大の現場を抑えられることすなわち学生生活の終わりを意味する。級友からはうんこマンなる1mmの捻りも無い別称で呼ばれ連鎖的に女子から毛嫌いされスクールカーストを加速度的に転げ落ちることになる。斜面を転がる雪玉の様に。


便器を開ける。和式。和式。和式。大当たり。777。じゃないんだよ。何でgoogleやらamazonやらがブイブイ言わせてる21世紀ハイテク社会でヤンキー座りしながらうんこする必要があるんだよ。こんなんトイレじゃないやん。


昔見たラーメン漫画で業務用スープ使ってたラーメン屋が主人公に「こんなのラーメンじゃねえ!」ってディスられてたの思い出した。気持ち。とても。分かる。トイレはトイレが出来るだけじゃトイレじゃないの。こんなん業務用トイレじゃん。業務用トイレ。画一的。創造性も進歩性も感じられない。思考停止。負の遺産。


なんか泣けてきた。俺は太ももを鍛える為にうんこしてるんじゃないんだよ。うんこの為にうんこしてるの。うんこforうんこ。おわかり?


とは言ったものの背に腹は代えられない。うんこをすることにした。うんこをした。太ももが痛い。紙を取る。紙が無い。fuck。痛む太もも。止まる思考。加速しすぎた物体は止まって見える。しかし俺の思考は本当に止まっている。0。K点。-273。静止。死…。


「YO」


0。K点。-273。静止。死…。


「YO」


0。K点。-273。静止。死…。


「YO!」


「うわびっくりした。誰だおまえ」


「よく聞いてくれた!我が名はウンコマン!うんこの亡霊さ!成仏するために現世で徳を積んでるよ!」


トイレと亡霊・徳の言葉の温度差がすごい。


「なんで亡霊になったんすか」


「貴様にチャンスをやろう」


聞けよ。


「選択肢は2つ。1つ。このサラ金の広告が入ったポケットティッシュでケツを拭いて怒羅子ちゃんに告白する。2つ。ケツを拭かずにウンコまみれ・ズボンで今日一日過ごす。3つ。他の子が来るまでこの中腰で待って紙を貰う」


3つじゃねえか。


「あんたなぜ俺が怒羅子ちゃんを好きだって知ってるんだ⁉」


「ウンコマンだからさ!」


締まらねえ。ウンコだけに。


「でも…勇気が…」


「じゃあこのポケットティッシュとはお別れだな」


そう言うとウンコマンは便器にポケットティッシュを投げ捨てようとした。


「ちょ、ちょっと待った!分かった!分かったよ!」


「ほう、何が分かったんだ」ウンコマンが不敵な笑みを浮かべながら呟く。


「自分の羞恥心なんざウンコケツにくっつけたまま一日過ごしたり級友にティッシュもらってウンバレしたりする事に比べたらクソみてーなもんって事が…だよ!ウンコだけにな!」


「少年…!」


「ティッシュありがとう!行ってくる!」


少年は去った。走り去った。脱兎の如く。99%の爽快感と1%の羞恥心を抱えて。後にはポケットティッシュの残骸(外のビニール)とサラ金広告の厚紙だけが残った。


「やはり若者が成長する姿は何時見ても目頭が熱くなる…亡霊冥利に尽きるという物よ」


こうしてウンコマンはまた一組のカップルの恋のキューピッドになった。成仏できる日は何時来るのだろうか。もしかしたら一生来ないかもしれない。だがそれでいい。ウンコマンはいつしか自分の業務を誇りに感じていた。


次にウンコマンに狙われるのは、あなたかもしれないーーー








おしまい(学園モノ…?)

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