ほのぼの系百合(人肉食)

「おはよ」

『おう』

「元気ないね」

『今から死のうって時に元気に挨拶する奴居ないっしょ』

「それまた急な。どしたの」

『私生まれてすぐ両親死んだじゃん。で前の学校の友達も酷い怪我して。で昨日叔母さんも体悪くしてさ。こりゃどう考えても私が原因だって事で死ぬ事にしたの』

「なるほど。偶然って可能性は?」

『無いね。ちょっと腕見てて』

「りょーかい」


スパッ


『今カッターで腕切ったんだけどさ。血出んのよ。傷口も塞がった』

「ほーん。で?」

『いや察し悪。私が不死身で周りから生命力吸い取ってるって事』

「まあそうなるわな」

『じゃそゆ事で。とりあえず屋上行くわ』

「やり残した事とかないんすか」

『なんで敬語。うーむ。特に何も…』

『いや。部屋に食べかけのポテチ置いとった。アレなかなか旨いんよね。堅揚げの奴』

「じゃ食ってこいや」

『そーするわ。じゃ』




『なんでついて来てんの』

「暇だから」

『なるほど』

『…さて。ポテチも食ったし逝きますか』

「どうやって」

『自殺といえば飛び降りっしょ。常識常識』

「飛び降りは掃除が大変だから辞めた方が良い」

『なるほど。じゃ首吊りで』

「アレ糞尿垂れ流しながら死ぬんだよ。掃除大変だから辞めて」

『掃除業者への感情移入が凄い…じゃ樹海で』

「りょーかい」




『…なんでついて来てんの』

「そこに樹海があるから」

『樹海マニア…?』

『…お。看板。両親兄弟子供の事考えろって』

「常套句ですな」

『いや私居るだけで両親兄弟子供死ぬんだが…という』

「完全論破だ」

『敗北を知りたい』




『さて。ここら辺で良いか。後は座して死を待つのみ』

「じゃ隣失礼」

『おう…ってオイ。観光客は帰りな』

「ところがどっこいこっちが本命」

『お前もか…死にたそうには見えんけど』

「死にたい奴は死にたそうな顔せんて」

『両親兄弟子供の事考えろってさっきの看板が言ってたぞ』

「私の自由意志には到底勝てんねえ」

『そうかい』




『…腹減った』

「今から死ぬ奴が空腹で愚痴るんじゃないよ」

『それはそう』

「よければ私でも食べませんか」

『斬新すぎるプロポーズかな?』

「50点」

『まさかの記述式』

『うーむ…食べる(物理的に)って事か』

「100点」

『待て。どうした』

「世の中にはそういう性癖もあるのだよ」

『…性癖の否定は戦争の種。受け入れよう』




「理解が早くて助かる。ちょっと待ってて」

ガリガリ…ブチブチ…ブチッ

「ハイ人差し指。噛み切ったから断面は汚いけど」

『製造過程の画が凄い』

「豚の解剖なんかこの十倍はグロいて。我慢我慢」

『生命の本質はグロなんやなって』

「なんならケチャップかけよっか」

『血をケチャップだと思い込ませられる上に味付けも出来る一石二鳥の作戦!…じゃなくて』

『いや流石に生肉は衛生面が不安すぎる』

「今から死ぬ奴が衛生面気にするんじゃないよ。火起こすから待ってて」




『…旨い。案外イケる』

「ポテチとどっちが旨い?」

『ポテチ』

「即答」

『まあでも空腹加味すりゃこっちかな。空腹は最高の調味料』

「取って付けたフォロー有難う」

「薬指も小指もあるからじゃんじゃん食べて」

『肉の部位みたいなテンションで言うやん』

「養豚場の豚の感情が分かった気がする」

『豚への風評被害が凄い』




「…私も腹減った」

『結局腕一本喰っちまった。すまんね』

「良いの良いの。美味しく食べてくれるのが作り手の一番のご褒美ってね」

『オカン…?』

『あ。腹減ったんなら私の腕やるで。一腕一飯の恩義』

「何その熟語…でもマジで嬉しい。夢みたい」

『そりゃ良かった。じゃいくで』

ブチブチブチブチブチブチブチブチブチ…ゴトン

『はいよ。一丁上がり』

「見る側に回ると滅茶苦茶痛々しい」

『能力ですぐ生えるからそんな気にしなくてもええで』

「腕への価値観が違いすぎる」




「はー旨かった…最高…死んでも良い…」

『死にに来た奴が何言ってんだか』

「私の目的は貴方に私を食べさせる事。死ぬのはついで」

『お出かけついでの寄り道みたいなテンションで死ぬやん』

「死なんてそんなもんだって。生きててもやること無いし」

『そーゆーもんかね』

「そーゆーもんよ」




「眠くなってきた…おやすみ」

『私も…おやすみ』

「…………………」

『…………………』




おしまい

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