Character
「一体何だってんだ」
刑事は近頃ある事件に悩まされていた。といっても殺人・強盗といった物騒な事件ではない。というか事件と呼べるかさえ怪しい。何しろその当事者は「何もしていない」のだから。
全く考えれば考える程妙な事件だ。そう思い事件の捜査メモを読み返す。
・同時間内で複数個所のマクドナルドに同一人物とみられる女子高生(?)二人組の目撃情報が見られた。写真有。黒髪ロング・茶髪ショート。中背。
・東京23区内に同一制服の高校存在せず。捜査範囲拡大予定。
・マクドナルド近辺で聞き込み。手掛かりなし。捜索範囲拡大予定。
証拠が無ければ都市伝説の類として聞き流していた所だ。しかし写真があり複数人からの証言を得ている以上無視する訳にもいかない。そこで窓際族の俺にお鉢が回って来たという訳だ。
まあ何処で使われるのかも分からん書類作るよかまだマシか。そう自分に言い聞かせ恐らく徒労に終わるであろう聞き込みに向かう事にした。
「いらっしゃいませ~」
店員の明るい声が閑散とした店内に響く。客は一人もいない。平日の朝9時ともなればこんな物だろう。
「メニューはどちらになさいますか?」
「いや客じゃないんだ。この娘達を探していてね」
刑事はそう言って写真を取り出した。
「少々ピンボケしているが…どうかな」
「あ、はい。この娘達なら今二階にいますよ」
「本当か。ありがとう」
こんなにアッサリと見つかるとは。正に天の助けと言った所。はやる気持ちを抑え早足で二階へ向かった。
二階は一階よりさらに閑散としている。辺りを見渡すと…いた。二人組の女子高生。黒髪ロングに茶髪ショート。制服・背格好共に写真の特徴と完全に一致している。
更に近付く。話が聞こえる。「やっぱ男で年収1500万越えてないとちょっとね」「だよね~精子濃度が…」後は専門用語だろうか。全く分からない。それにしても近頃のJKは何時からこんなインテリになったのか。
話が変わる。「選出・プレイングとかは対戦の中で分かる部分が大きいよね」「うんうん。だけど構築は唯一経験を積んだ人と同じ土俵に勝てるからガンガンパクった方が得だよね」何の話をしているんだ。全く分からない。
また変わる。「アティマクの演習問題を解かない数学徒に人権は無いよね」「わかる~」アティマク?ゲームのキャラか何かか?
変わる。「入金漏らすやつはどうせうんこも漏らすよね」「わかる~」わからない。てかJKがうんことか言うんじゃないよ全く。
「この会話の内容はtwitterで検索して話題のツイートから適当に引っ張った物であり作者の主張とは一切関係ありません」
何か幻聴も聞こえた気がする…。気のせいか。
「ちょっといいかな」
声をかける。これ以上あの脈絡の無い会話を聞いていたら頭がどうかしてしまいそうだ。
「「何ですか?」」
返事がダブった。少々驚いたが話を続ける。
「こういう者だけど」警察手帳を見せる。
「君達、学校は?見た所女子高生だよね」
「えーと、何て言えば良いんでしょうか」
「私達はJKであってJKでないってゆーか…」
説明が要領を得ない。更に続ける。
「名前を教えてくれるかな。学生証とか身分証があれば見せてくれると有り難いんだけど」
「名前…。名前ですか」
「『マックのJK』って呼ばれる事が多いかな」
マックのJK?そんなふざけた名前があってたまるか。それに学生証も身分証も一向に見せようとしない。相当後ろ暗い事情があるのか。
「ふざけてるのかな。どこから来たの?家は?学校は?いつまでもそんな態度取ってると家族と学校に連絡するよ」
「どこから来たか…中々難しい質問ですね」
「私達は『信心』から生まれたんだ。だから強いて言うなら心から来たって事になるのかな?」
「幽霊が結構近いですかね。幽霊は元々ただのホラ話だったんです。でも本当にいると信じる人が一定以上に達したので『実体化』したんです」
「でそれを見た人がまた信じて…って感じでどんどん信じる人が増えてその分幽霊も増えていったってワケ。流石に今はキツいけど」
「有名な都市伝説はほぼ例外なくホラ話⇒信心⇒実体化⇒信心増加⇒実体増加…という過程を踏んでいます。私達もその一つですね」
「この時に実体化される情報は信じる人が持つ共通のイメージだけ。だから私達には名前も家も学校も無いって訳」
ヤクでもキメてんのかこいつら。これ以上話していると本当に頭がおかしくなりそうだ。
「はいはい分かった。続きは署で聞くから」
そう言って黒髪ロングの手を取る。取れない。よく見ると黒髪ロングの手が透けていた。いや体全体が透けている。慌ててのけぞる。
「「あーやっぱり」」
またダブった。いやそれ所ではない。
「一体全体何が起こってるんだ」
「この物語の役者は私達・貴方・マックの店員だけ。貴方の信心がマイナスになって信心が全体の過半数を割ったから消える。それだけです」
「信心が足りなければ消える。幽霊と同じよ」
「私達が私達の存在を信じる事は出来ませんからね」
相変わらず意味不明だが目の前の状況が状況である。信じない訳にはいくまい。
「信心を上げるにはどうすれば良いんだ。物語って何だ」
「それは無理。一度サンタを否定した人間はもうサンタを信じられない」
「物語は今の役者がいる世界。役者は作者によって操作される操り人形みたいな物。あとは自分で考えて」
そう言い残して二人とも消えてしまった。
しばらく茫然としていた。出来事が余りにも常軌を逸しすぎている。信心・実体化・物語…訳が分からない。
茶髪Jkの言葉が耳に残る。「物語は今の役者がいる世界。役者は作者によって操作される操り人形」…か。それが本当なら俺は今もその作者とやらに操られているって訳か。馬鹿らしい話だ。
と考えた所で腹が鳴った。そういえば今日はまだ何も食べていなかったか。何か食べてから署に戻ろう。そう考え一階の受付に戻った。
「いらっしゃいませー。メニューはどちらになさいますか?」
店員の明るい声が響く。出来るだけ安く済ませたいしチーズバーガーにするか。チーズバーガー下さい…と言おうとしたが口が動かない。
「チ」と言おうとしてイの形に変化した口が強力な力によってオの形に変えられていく。何故だろう。これから私が言おうとしている言葉は途轍もなく不吉な物であるように感じた。
必死に抵抗するが指一本動かせない。そして私の口から物語の役者が最も忌むべきあの言葉が発せられた。
「おしまい」
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