会話ロボット

「おはよう」


「オハヨウ!」


「元気?」


「ゲンキ!」


「今日のあのドラマ見た?」


「ミタミタ!キムカルガデテタヤツネ!カッコヨカッタ!」


「何かハマってる音楽ある?」


「エートネ…ヨネコノ『MIKAN』ガスキカナ!」


「これ下さい」


「かしこまりました。税込99800円になります」




私が買ったのは会話ロボット「OUMU」。自動で会話をしてくれるロボットだ。小さめのオウムをかたどったシール状の見た目。首の後ろに貼りつけるタイプ。これを貼りつければ口パクしてるだけで話について行けるって訳。


色によって会話の内容が違う。私が買ったのはJK用のヤツ。会社員用とか主婦用になるともっと高い。セレブ用のは一億行くとか行かないとか。ウワサだけどね。


まあ99800円は高いけど会話が苦手な私が社会に適応する為の費用と考えれば全然安いわね。社会から疎外された時の損害は金でカバー出来る物じゃないし。能力を金で買えるなら買った方が良いわ。弱視の人の眼鏡みたいなもんね。多分。


声質を合わせて…これでヨシ!




「おはよ~」


「オハヨ~」


「顔色悪くない?大丈夫?」


「キノセイキノセイ!ゲンキダヨ!」


さすが99800円。捻った表現にもしっかり返してる。口パクをしながらOUMUの性能に感心しきっていた。


「ところでさ~。昨日のあのドラマ見た?」


「ミタミタ!キムカルガデテタヤツネ!カッコヨカッタ!」


「そ~そ~!あそこの○○がさ~…」


「ウンウン!××ダッタヨネ~…」


私の全く知らない情報がポンポンと交わされていく。相手の目が輝いているのが分かる。嬉しく感じると同時にこの機械を買ってなかったら…という想像が膨らみ背筋が少し寒くなった。


「じゃね!また話そうね!」


「ジャネ~」


完璧な会話だった。これがコミュニケーションか…と感心しきっていた。これさえあれば会話で悩まなくて済む!私はルンルンだった。




一か月後。授業でクラス内のランダムな女子とグループを組んで発表をする事になった。今日は初回。話し合いも早々に終わり暇な時間が出来た。「OUMU」の出番ね。コミュニケーションで親睦を深めましょう。


「暇になっちゃったね~」


「ソダネ~」


「大体先生が時間取り過ぎなんだよね~」


「ワカル~」


「そ~いえばさ~。ヨネコノ『MIKAN』聞いた~?」


「聞いた聞いた~」


「メッチャイイキョクダッタヨネ~」


「あそこのアレがさ~…」


共通項を通して自己発露を行い親睦を深める。これが会話のあるべき姿…と心酔し切っていた所である違和感を覚える。


このグループの人達最新の音楽について洒脱なキャラじゃないよね。どちらかというとサブカル。オタク。Geek。同族。匂いでわかる。なのにめちゃ詳しい。メジャー所を抑えてる。ガンガン話を盛り上げる。


それに対して隣の子。髪染めてるくせに最新の音楽の会話に入らない。会話が上手い奴がいわばホームの話題に参加せず自分から好感度を下げに行く。非合理的。私達が嫌いだったとしても表面上位合わせといた方が良い事位分かっているはず。あと心なしかオドオドしてる。




何故…?深まる疑問。髪染めは怖いのでとりあえずGeekの一人に話を聞いた。


するとどうも彼女も「OUMU」を使っているらしい。それ所か彼女によればあのグループの全員ひいてはクラスのほぼ全員が「OUMU」を使っているとか。


なんて事は無い。私達は「OUMU」同士で会話し合って安心感やら親近感やらを得ていたのだ。知らぬは私ばかりなり。人間の意思は消え去り鳥のさえずりが社会を支配していた訳だ。


最初は戸惑い憤慨もした。しかしこれで平和が保たれるのなら良いではないか。「OUMU」無しで生活し疎外感を得るよりこちらの方がずっとマシだ。そう思った。すると怒りもスルリと消え去った。そしていつもの生活に戻った。




ある日。


「おはよ~」


「オハヨ~」


「顔色悪くない?大丈夫?」


「キノセイキノセイ!ゲンキダヨ!」


いつもの会話。私が集団に所属している事を実感する。


「ところでさ~。昨日のカバディ見た?」


「ウ~ン、ミテナイナ~」


ん?


「う~ん、そっか~。じゃKong whoの『白米』聞いた~?」


「キイテナイナ~」


「そっか~。珍しいね」


それきり会話が止まってしまった。気まずい。嫌われたか。何故だ。故障か。原因はわからなかった。また気まずくなったらどうしよう。私は恐怖でその日丸一日喋れなかった。




帰りに「OUMU」を買った店に行った。


「月一の更新が必要です。新規データ取得には30000円必要です。契約書に書いてありますよ」


んな契約書の隅っこ見る奴がおるかボケが。暴利。暴利暴利暴利暴利。ヴォウリィィィ~~~。こんなん詐欺じゃんとも思ったがもはや私に「OUMU」無しの生活は考えられなかった。


自分で話題に付いて行き適切な発言を行うには酷く労力が要る。私は「OUMU」に付いて行くしか無い。突然髪染め女のオドオド顔が頭に浮かんだ。あの子も何らかの理由で「OUMU」を失って過ごしていたのだろう。


私はああはなりたくない。そう思った。




「オハヨ~」


「オハヨ~」


「カオイロワルクナイ?ダイジョウブ?」


「キノセイキノセイ!ゲンキダヨ!」


「キノウノゲートボールミタ~?」


「ミタミタ~。ヨシザワサンノパットガゼッピンダッタネ」


「ワカル~」


「ジャアレ。Pocket Murderカッタ~?ハヤッテルゲーム」


「カッタカッタ。ナカナカグロイヨネ~…」


今日も首裏から未知の情報が交わされていく。皆はそれを口パクするだけ。今日も明日も明後日も。しかしそれでいい。それでいいのだ。








おしまい

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