鬼太郎

むかしむかしある島に、大きい体をした鬼たちが住んでいました。


鬼たちが住んでいる島は植物が育ちづらく、周りを海に囲まれているので飲み水すら足りない状態でした。


そのため鬼たちはいつもお腹を空かしており、喉を乾かしておりました。


鬼太郎と鬼次郎も例外ではありませんでした。


「ああ、はらがへったなあ」


「ぼくも三日間飲まず食わずさ。がまんしようぜ」


「そういえばきいたかい。向かいの鬼子さんがえいようしっちょうで死んじまったんだってよ」


「なんてこった。でもぼくもそのうちそうなるね」


鬼太郎は鬼次郎のやつれた顔を見てひどく悲しくなりました。




「そんなこと言うなよ。面白い話があるんだ」


「なんだいなんだい」


「海の向こうにはおいしい植物がたくさん生えてて、飲める水がたくさん流れてるカワってのがあるみたい」


「そんなのおとぎ話だよ」


「いってみなきゃわからないじゃないか」


鬼次郎はひどくおどろいた顔をしました。


「たしかにそうだ。このまましぬよりはいい」


「よし。じゃあいかだを作って出発しよう」


ふたりの鬼兄弟はみごとな手際で島の倉庫からなけなしの木と食料をかすめ取り、りっぱないかだを作りました。


「よしいこう」「うん」




ふたりはひさしぶりの食糧の味に舌鼓を打ちました。


「うまい」「うん、こりゃうまい」


「明日の分も残しておくんだぞ」


「わかってるわかってる」


「水もそんなにないからな」


「わかってるって」




夜。


「おい起きろ、起きろって」


「うーん、もうたべられないよ」


「起きろって!」


「なんだよ、うるさいなあ…うわっ!」


海は大荒れ。いかだは今にもひっくり返ってしまいそうです。


「しっかりいかだにつかまってろよ」


「うんわかっ…うわあああ!」


とても大きな波がふたりを襲いました。ふたりは海に投げ出されてしまいました。




朝。


「おい、だいじょうぶか」


「うーん…ここは?」


「いかだの上さ。運よくしがみつけた」


「あれ、食料と水は?」


「ぜんぶなくなった。けど大丈夫。生きていればなんとかなるさ」




3日後。


「ああ、はらがへったなあ」


「ぼくも三日間飲まず食わずさ。がまんしようぜ」


返事がありません。


「どうした、鬼次郎」


「きもち…わるい」


汗がたくさん出て意識がもうろうとしているようです。


鬼太郎は鬼次郎のやまいが良くなるよう、そして海のむこうに辿り着けるよう鬼神様にお願いするしかありませんでした。




4日後。


「おい鬼次郎、しっかりしろ」


「うーん…うーん…」


「陸が見えた。おいしゃさまに治してもらおう」


「あとすこしのしんぼうだ。がんばれ鬼次郎」


鬼太郎は自分の空腹をがまんして鬼次郎に呼びかけ続けました。


「ほら。陸についたぞ」


「うーん…うーん…」




鬼太郎は近くにいた人に話しかけました。


「あのー、すいません」


「うわぁっ!化け物!」


一目散に逃げられてしまいました。


あたりを見回すと誰もいません。みんな逃げてしまったようです。


鬼次郎の容態はさらに悪くなっていきます。


「どうすれば…しかたない。近くの民家を借りよう」


鬼太郎は鬼次郎を近くの民家まで運び込み、家にあった水と食料を鬼次郎に食べさせました。


「これで治ってくれるといいんだが」


そう言って鬼太郎はぱたりと眠ってしまいました。




「起きよ!起きよ!」


聞き慣れない声で目を覚ますと、鬼太郎は手足を縛られ奇妙な格好をした人に囲まれていました。


「えーと、ここはどこですか」


ムチの音。背中がじんじん痛みます。


「しゃべるな!」


周りから石を投げられました。傷だらけになりました。


「貴様を窃盗罪で逮捕する!」


「え


ムチの音。背中がじんじん痛みます。


「しゃべるな!」


周りから石を投げられました。傷だらけになりました。


「連れていけ!」




鬼太郎は50年間おりに閉じ込められました。


閉じ込められている間鬼太郎は鬼次郎が心配で仕方がありませんでした。


「鬼次郎だけでも生きて


ムチの音。背中がじんじん痛みます。


「しゃべるな!」「死ね!」「豚に食われて死んじまえ!」「それ以上喋ったらその角ヤスリで削り落とすぞ!」




釈放された鬼太郎は鬼だとばれないように顔を隠し情報を集める事にしました。


「もうし、そこの老人」


「はいはいなんでしょう」


「鬼次郎について何か知らんかね」


そういうと老人は途端に顔をしかめました。


「なぜそんな事を聞きなさるんで」


「昔の話に興味があってね」


何か言いたげでしたが諦めて話し始めました。




「鬼次郎なら死にましたよ」


「ムチで打たれても石投げられても鬼太郎はどこだ鬼太郎はどこだって言い続けたからちょいと激しくしたらそのままコロリですよ。この目で見てたからよく覚えてまさあ」


「やっぱり鬼なんて異形の末路はそうあってしかるべきってモンですよ。アンタ桃太郎の話聞きました?こいつがまたスカッとする話なんですよ」


鬼太郎は体の震えが止まりませんでした。


「いや…続けてくれ」




「10歳かそこらの子供が犬とサルとキジを引き連れて鬼ヶ島を見つけてそこの鬼を皆殺しにしたんです」


子供にそんな事させて良心が痛まないのか。


「屈強な鬼をバッタバッタとなぎ倒して」


嘘だ。食料水不足でフラフラしている所を一方的に殺したんだろう。


「で金銀財宝も取って来たと」


島にそんな財宝は無い。


「人間に盾突くからこうなるんですよ」


島の鬼は海の向こうに世界がある事すら知らない。


「…わかった。ありがとう」


「いえいえ。こんな話で良ければいくらでも」


そう言って老人は去っていきました。






めでたしめでたし

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