つまらない動画
ある動画が公開された。
その動画の長さは約3分程度。ただひたすらに何処の国かすら分からない文字の本を撮影者がめくり続ける…という動画だった。勿論編集等の加工は一切行われていない。
その動画を見た男はその余りのつまらなさ・またこんな動画で時間をドブに捨てた事それ自体に酷く憤った。
イライラが収まらなかった彼はSNSにこう書き込んだ。「↑この動画クソつまらなかった。見る価値無し」
それを見た他の人間は「世の中にそんなにつまらない動画があるのか。見てみよう」と考えた。
そして動画を見た人間もそのつまらなさ・時間をドブに捨てた事に酷く憤った。
そしてイライラした人間はSNSにこう書き込んだ。「↑この動画クソつまらなかった。見る価値無し」
それを見た人間が興味を持ち動画を見て後悔しSNSで非難した。そんな事が続いていく内にその動画は100万再生を達成した。
巷にはその動画の考察記事・考察動画・非難の声諸々が溢れていた。とにかく皆があの動画を非難していた。
非難の声が大きくなるにつれ再生回数も増加する。その動画は遂に1000万回再生を達成した。
ここまで来るともはや社会現象である。本をめくり続けるだけの動画が1ヶ月で1000万回再生。その話題性・インパクトは凄まじく各メディアがこぞってこの動画を特集した。
「近頃話題!?世界一『つまらない』動画」「なぜ本をめくるだけの動画が1000万回再生!?」「あの本は一体!?専門家に聞いてみた」…凄い反響だった。今やあの動画について話せば視聴率もアクセス数もうなぎ登りといった状態であった。
それにつれ非難の声もさらに大きくなった。巷ではこの動画に時間を奪われた人間が集まり小規模デモを行っているといった有様であった。
それに比例して再生回数も増加した。メディアの影響は凄まじく再生回数はゆうに一億回を超えた。そしてその影響は生活にも及んだ。
「田中~あの動画見た?あのクソつまらん動画」
「え~と…見てない」
「あ~マジか~…それなら絶対見ない方が良いぜ。あんな動画見るだけ時間の無駄だからな」
「分かる~。マジ時間返せって感じ」
「世界一つまらない動画の異名は伊達じゃないな」
「ソウナンダ…ハハハ…」
田中があの動画を見た事は言うまでも無い。
この様にあの動画は「潰しの効く雑談ネタ」としてその地位を確立した。あの動画を非難すれば盛り上がれる。共通の話題が減少する現代においてこれ程ありがたい存在は無かった。
その傾向はあの動画を見ていない人間への疎外感を引き起こす。第二・第三の田中が登場し再生回数がまた上昇した。そしてあの動画はとうとう十億回再生を達成した。全人類があの動画を見る日もそう遠くはないだろう…
ある宇宙船の中。
「ヒヒヒ…大成功ですな」
「全くだ。地球人に見せるだけで洗脳出来る本を開発したは良いものの全人類に本を見せるなんて手間が凄すぎる。そう考えていた時期もあった」
「動画サイトに上げるしか無いけど普通では黙殺されるのがオチ。そう考えてつまらなさに特化した作戦が見事に当たりましたね」
「私達宇宙人が地球人全員に気に入られる動画を作るのは不可能だからな。だが全員に嫌われる動画を作るのは非常に簡単だ」
「ただ手を加えなければ良いだけですからね。SNSでちょいと背中を押してやれば盤石です」
「機は熟した。では地球を侵略しに行くか。逆らう者の誰一人いない地球へ」
「アイアイサー」
おしまい
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