ひょうたん

ひょうたんが、落ちていた。


いやもっと正確に言えばひょうたんの入れ物…?である。へたの所に蓋が付いている。蓋を開けて中を除くが何も見えない。叩くと良い音が鳴る。どうやら中は空洞であるようだ。珍しいので持って帰る事にした。




水を入れてひょうたんを逆さにするが何も落ちてこない。穴が開いている訳でも無い。全く訳が分からない。何なんだこれは全く…思索にふけっていると母からゴミ出しの命を食らった。ボーッとしてるなら動けとの事。


崇高な思索を寸断した挙げ句ボーッとしてるとまで言われた事に軽い怒りを覚えつつゴミ捨て場に行く。ゴミを捨てる。…ついでにひょうたんも捨ててしまおうか。使い道も思いつかないしなにより邪魔である。インテリアとしても少々頂けない。


蓋はどうも金属らしいので分別する。そういう事にはそこそこうるさいタチである。そしてひょうたんを燃えるゴミに捨てる。「ゴミにするには勿体無いけどな」。まだひょうたんに未練があったのか。自分の言葉に自分で驚く。


その瞬間。ゴミが、消えた。ゴミ捨て場にあったゴミが全部、である。目の錯覚で無ければひょうたんの口にゴミが吸い込まれた様に見えた。ゴミ捨て場に残された蓋とひょうたんを拾い上げる。振る。何も出てこない。鳩が豆鉄砲を食らったような顔とはこのような顔を指すのだろう。




色々考えた所どうやら蓋を開けた状態で物の名前を言うと言った物を吸い込むらしい。いや正確には持ち主であるワタシがその名前と対応していると考えている物を吸い込む様だ。「紙」であれば全ての紙類製品を、「ゴミ」であれば自分がゴミだと思う物体を…といった具合である。


そこからワタシはあらゆるゴミを吸い込んだ。ひょうたんと対象物の間の距離がある程度近くなければ効果が出ない為あらゆる所に行った。様々な物を見た。


近くのゴミ捨て場で済んだ内はまだ良かった。ゴミ処理場・埋め立て地・放射性廃棄物・死体…そういった処理に困るゴミを片っ端から吸い込んだ。跡形も無く、である。


ゴミの近くに行ってひょうたんを持って「ゴミ」と言うだけの簡単な仕事。食うには困らない所か余り過ぎる程の謝礼。しかし貯まり続ける金とは裏腹にワタシの心はどんどん荒んでいった。




ゴミ問題を解決した人類は飛躍的な発展を遂げついに宇宙進出を果たした。しかし宇宙のゴミ問題…所謂スペースデブリ…は効率的な回収システムが確立されておらずそのリスクの甚大さと共に宇宙開発団体の頭痛の種になった。


そこで団体はひょうたんに救いを求めた。破格の報酬を出した。人生100回分は遊んで暮らせる額である。ワタシは承諾した。その目にはもはや何の感情も漂っていなかった。いや強いて言えば世界への憐憫…そのような物がかすかに存在していた。


宇宙に行く。宇宙ステーションの皆が見守る。宇宙のゴミ問題が魔法のように解決される瞬間を。人類はその歴史的瞬間を見届けようと我も我もと宇宙ステーションの一区画…宇宙ステーション内最大のドーム…に殺到した。


満願の歓声に迎えられステージに上がる。ひょうたんを取り出す。蓋を開ける。ひょうたんを掲げる。ワタシが呟く。「ゴミ」






ドーム内の全ての人間が消えた。








おしまい

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