オンライン授業

オンライン授業が普及してから十数年。


もはや校舎はその用を為しておらず都会の校舎はカフェ保育園諸々が教室毎にある小規模ショッピングセンターと化し田舎の校舎は手入れする予算も無い為打ち棄てられ廃墟になりつつあった。





「タカシ!起きなさい!」


「分かった分かった」


高校二年生であるところのタカシは朝に弱い。今日も学校開始5分前に起き上半身だけ制服を着替えカメラの前に立った。昔だったら絶対に遅刻していた所だ。良い時代になった。


「よし。全員揃ってるな」


担任のキヨシが画面を見渡し点呼を取る。タカシと目が合う。


「おいタカシ、ちょっと立ってみろ」


「え、何でですか」「いいから」


渋々立つ。パジャマ姿の下半身がカメラにでかでかと映し出される。画面上に一斉に笑い声が響く。


「夏休みボケで制服の着方まで忘れたか」


また笑い声。しかし何も言い返せない。渋々画面外でパジャマから制服に着替える。


「夏休みはもう終わったんだ。気合を入れ直せ」


前言撤回。なんて時代だ。





「~であるからして…ここは…」


数学の訳分からん授業が頭の上を通り過ぎていく。寝たいが寝るとまた何か言われかねないので渋々起きる。生徒全員が一画面に表示されるので教師の目を盗むのは難しい。寝るなどもっての他である。


オンライン授業の増加に伴いサボタージュを防ぐ為視線等を感知するセンサーやら一時的なネット使用制限やら諸々が続々導入された。プライバシーの問題等もあったが公教育の効率化推進というお題目の前には全てが無に帰した。


という訳で昔より授業態度へのそれは物凄く厳しくなった。カメラが一台しか無いのがまだ救いだが。流石に授業用PC以外のカメラを部屋に付けるのは世間様が許さなかった様だ。いやしかし、なんて時代だ。





今日のオンライン課題をこなし一段落付く。文字を書くとか言う非効率な事柄をやる必要が無いのがまだ救いか。そう考えていると友人からメッセージが送られて来た。バーチャルテニスをやろうとの事。勿論快諾。VR眼鏡をかけ電源を付ける。


目の前には一面のテニスコート。友人がコート奥にいる。VR眼鏡と先述したセンサーを使う事で部屋の中でもスポーツを楽しめる様になった。体育の授業もこのシステムを使って行われている。玉を拾う必要もラケットを買う必要も無い。良い時代になった。


テニス終わり。友人が話す。「授業を完璧にサボれるソフトが裏で取引されてるんだってよ。興味ないか」勿論興味ありまくりである。


友人曰くそのソフトを使えばセンサーやらネット使用制限やら諸々を全部誤魔化せるらしい。カメラの姿からも絶対ばれないとか。値段を聞いて躊躇したが毎日遊んで過ごせる事を考えれば安い買い物だ。即決で買う事にした。





ソフトをインストールして起動。担任の点呼をカメラの死角から見守る。


「よし。全員揃ってるな」


思わずガッツポーズをした。これで毎日遊んで過ごせる。ソフトの代金を支払う必要があるがバイトでもすれば十分まかなえる。なんせ時間は無限にあるのだから。バラ色の未来が広がるのを感じる。


まったく、良い時代になった。





「まったく、良い時代になりましたな」


南の島で担任と数学教師が話している。


「授業の完全自動化によって私達が毎日あくせく授業をする必要もなくなった。生徒も真面目に授業を受けてくれますしな」


「生徒にもまだバレてないみたいですしね。勿論夏休み明けだからという所もあるでしょうが」


「そしてコレですよ」


数学教師がノートPCを広げながら続ける。


「授業を完璧にサボれるソフト。こいつの売り上げも莫大。笑いが止まりませんな」


「そんなソフトあるわけないでしょ。私達教師があえて見逃してやってるだけだってのに。全く滑稽という物」


「私達は金がもらえる。生徒は授業をサボれる。これがWIN-WINって奴ですな」


「公教育の最適化の一形態ですかね。授業なんざ受けたい奴が受ければ良い。受けたくない奴は金払って他の事をすれば良い。授業内容を最適化させるより余程効率的」


「おかげで我々もこうしてバカンスを楽しめる訳ですしな」


「いやもうその通り。オンライン授業様々ですな」


「「まったく、良い時代になりましたな!!!」」











おしまい

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