第3話 理解者

ドアが開いた時に彼はとっさに京也を離した。



やばい

見られたか!?




『久しぶりだね!やっほー元気だった?永遠!背大っきくなったね!』


見知らぬ女性が喫煙所に入ってきた。



誰だ?

今確実に俺の名前を・・・

それより見られてないな

良かった。



崩れたスーツを直しながら京也が彼女に声をかけた。


『タイミング良いね、奈々なな!もうちょっとで永遠のことクビにしてたわ。』



ナナ?

京也と俺が知っているナナ、、、

ナナって奈々か?

綿貫わたぬき 奈々ななか!?

だとしても何で奈々がここに?!



『でしょー!クビにならなくて良かったね!』


笑いながら言った彼女の笑顔には見覚えがあった。

化粧もしてるし、当時より長かったの髪が短くなって印象は変わっているが間違いない。

綿貫 奈々だ。

口角がしっかりと上がり、目が細くなり

見てるこっちまで笑顔になりそうなくらいの

まぶしい笑顔

当時からそれは何も変わらなかった。


京也の携帯が鳴る。


『部長からだ。ちょっと電話してくるわ。すぐ戻るから2人で話してて。』




このタイミングで2人って

マジかよ。

アイツはタイミングわりーな。




『一応聞くが、綿貫か?』


『そうだよ。分からなかった?』

『なんでいんの?』

『ワタシ今日からソコの売店でバイトするのよ。』


そう言って彼女は喫煙所の外にある売店を指さした。

その手には結婚指輪があった。


『なんでまた、このビルなんだよ?』

『そんなの決まってるじゃん!永遠がいるって聞いたからだよ。』



その言葉を聞いて全てが分かった。

京也が現れ

わざわざ朝の一服の誘い

昔話

視察の話

噂のことを言われ

奈々が現れ

同じビルでバイト

彼の中で確信に変わった。



京也の奴

俺に会わせるために、朝から話してきたのか。

昔話まで引っ張り出してきやがって

あー、クッソ気分わりー

京也だけでも大変なのに奈々まで....

もうダメだな、辞めるか。



『バイト始めんのは自由だけど余計なことすんなよ?あと、もう話しかけんな。俺は先に戻る。京也に言っといて。』

『ちょっと待ってよ!酷すぎるでしょ?久々に会ったのに、なんでそんなこと・・・・

『うるせーな!俺に何を求めてるのか知らねーけど、お前らが知ってるような昔の俺じゃないんだよ!俺は俺で今の日常を平凡に生きてんだよ。じゃあな。』


『・・・ダッサ・・・そうやって逃げるんだ?友達と話すこともできないぐらいに弱くなったの!?』




"友達か"

俺にはもう、いらない存在だな。



彼女は、まだ何か言っていたが彼はその場から立ち去りオフィスに向かった。


『わりー、お待たせ。あれ?永遠戻ったの?』

『先戻るってさ。』

『なんかごめん。2人にして。アイツと話せた?』

『大丈夫だけど、なんか永遠じゃあないみたいだった。』

『だよなー。アイツ感情あるのか?ってぐらい淡々と喋るよな。』


『これは当分京也に任せるしかないかも。ごめんチカラになれなくて。』

『良いよ!その為に俺はここに来たからね。俺だけじゃない。奈々も。も。』


『とりあえず、また昼にくるわ。バイトがんば!』

『オッケー!またね!』


オフィスに戻る前に京也は、身なりを整える為にトイレに寄った。



さて、とりあえず奈々には会わせたが。

これで少しは変わると良いけど・・・

本来のアイツなら支社のヒラなんかより、本社で部長クラスになってるはずだよな。

そんなアイツがここでヒラをやっていて、しかもノーナシとまで言われ怖がられている。


実際、課長になって来てみたけど噂は本当みたいだし、永遠も性格変わってるし、これはスムーズにはいかないな。


ん?

首、赤くなってね?

マジでそんなに嫌だったのか?昔の話.....


いやー、っていうかこれ隠せないしなぁ

これみんなになんて言おう・・・



オフィスに戻ると社員たちがザワついていた。

よく見ると部長と永遠が話している。



なになに、今度はどうした?

とりあえず誰かに聞いてみますか。


『おはよう。○○君どうしたの?』

『あ、課長おはようございます。なんか絆多が退職か別の支社の異動を志願したらしくて・・・』

『・・・ん?退職?口頭で?今?』

『はい。それで少しモメてるですよ。』

『了解。ありがとう。』



冗談じゃない!やっと見つけたんだ!

この際、社内で問題になろうとどうでもいい。

逃さねぇ。

部長がなんと言おうとゼッテー止める!



『部長。どうしましたか?』

『やっと来てくれたか。月城君。少し手助けしてくれないか?絆多君がね・・・』

『その事ですが、一旦私に預けてもらって、朝のMTGが終わった後に絆多と2人で話しても構わないでしょうか?』


『課長。何勝手に決めてるんですか?僕は部長に話をして・・・』

『絆多!知ってるか?俺の許可が無いと部長が許しても退職も異動も出来ない。分かったならMTGが終わっ後に大人しくミーティングルームに来い!』

『・・・』


部長『それで良いかな?絆多君?』


『分かりました。』



とりあえず、良かったー!

課長で良かったー!

みんなの雰囲気がちょっと悪いけど、また永遠と2人で話せるし結果オーライだな。

しかも部長の許可もおりてるし、合法的に仕事をサボれる!

ラッキー。

だけど永遠と話すこと考えないとな。

まあ、理由としては俺。トドメで奈々。

今まで永遠のことを知らない人しかいない環境の中に知っている俺が来たんだから当たり前か。


とにかく今の永遠を理解してやらなきゃな。

そして、発言を撤回させるか

最悪は期限を設ける。

せめてが来るまでは残ってもらわないとな。



会議が終わり、京也は先にミーティングルームに向かった。

ビルが管理しているレンタルスペースだから確保しなければならないのと、自販機で缶コーヒーを買いたかったからだ。

準備が終わり、ミーティングルームに入って永遠と話す内容を考える。

どうすれば、彼は変われるのか?

そもそも何で彼は変わったのか?

心当たりが無いわけではないが、正直京也にはソレだけじゃない気がしていた。

トラウマや、苦しい思い出、悲しい思い出、、、

生きていればこれらは嫌というほど経験するだろう。

その度に人は乗り越えて生きていく。


それに、どんなに辛いトラウマとはいえ永遠みたいなやつを周りの友人が放っておくはずがないと思っていた。

何かがあった。

京也はそう確信していた。



どんな過去でも受け止めよう。

そして味方になろう。

昔の永遠が俺にしてくれたように俺も今度は永遠を支えたい。

中3の時みたいな同じ過ちは、もうしない・・・



10分ほど考えていると、永遠が入ってきた。


『よう、問題児。とりあえず座って。コーヒー飲んで良いよ。』

『俺ブラック飲めない。』

『じゃあ俺のと交換しよう。微糖なら飲める?』

『まぁ、微糖なら。』


『そういえば永遠は昔っから甘党だったもんな!でもブラック飲めねーとかダセーな!』


重い空気を明るくする為に京也は笑いながら言った。


『そんな話をする為に、わざわざ呼んだんですか?話が進まないので僕からもう一度話します。』

『あーー!分かってる、分かってる。退職か異動かの話だろ。その前に・・・』


そう言って立ち上がり京也は永遠の隣に座った。


『ちょっと俺の話をしようよ?どうして俺がここにきたのか、どうやって永遠が居るって知ったのか・・・』



第3話 理解者 終





〜作者より〜


いつもご愛読いただき、ありがとうございます。


早くも奈々ちゃん登場です!

これで仲良し4人組から3人が登場しました。

あと1人はいつになるか、、、


3話のメインは、ほぼ京也君でしたがカッコいいねー!

誰かの為に真剣になるって良いですよね。


次回は、京也が大宮支社に来た成り行きが分かる回になります。

引き続き皆様のおうち時間の役に立てば幸いでございます。お楽しみに!!


TEAM ノーナシ

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