第1話 望まない再会

2021年4月5日

7時00分



アラームが鳴る。

何も変わらない、いつもと同じ朝だ。

いつも通り身支度をして

いつも通り朝食を済ませ

いつも通りの時間に家を出て会社に向かう。


何も変わらない、いつもと同じ絆多はんだ 永遠とわの日常。

ただ、いつもと違うところがあるとすれば、冬から春になり、過ごしやすい陽気が続くようになった。

そのせいか、自宅近くの桜は花を咲かせていた。


4月

世間は新年度

休みが終わり、友人同士で笑顔で登校する子供達

真新しい制服を着て緊張気味の学生

衣替えをして軽快に歩くサラリーマンやOL

気持ちよさそうに散歩をする老人

曇りの無い、どこまでも続く青空

ただ春になったというだけだが、絆多はこの季節が好きだ。

寒いのが苦手というのもあるが、なぜか新鮮さを感じ、町の人は自然と笑顔になり、足取りが軽くなる。

気温が暖かくなれば、自分の心も暖かく

青空を見上げれば、気持ちよく感じ清々しく思える。

そんな春が好きだ。

それと

明らかに変わっている街並みを見ると、変化をしている世界の中に自分もいる実感が持てるから。

自分の住む世界が止まってないんだと安心できる。


株式会社SK商事 大宮支社

ここに来るまでは……


いつも通りの入り口を通り

いつも通りのエレベーターに乗り

いつも通りのオフィスに入り、デスクに座る


『おはようございます。』

『え?あ、はい、おはようございます・・・』


『おはよう!ねぇ、アカリ今もしかして絆多さんに喋りかけられた?』

『おはよう、サヤカ!うん。普通に挨拶されたよ。怖かったー。』

『マジ⁉︎朝から怖くない?』

『なんかねー、暗いっていうか、感情が無いっていうか・・なんかある訳では無いんだけどね。』


女性社員が小声で自分の事を話しているのが聞こえる。



はぁー、またか。本当この社内の雰囲気は変わらないな。

いつも勝手に悪く言いやがって

ただ挨拶をした。人として普通のことだろ

まあ仕方ないか、いつも通り仕事をしよう。



ただ、目が合ったから挨拶をした。なのに陰口を言われる。

入社して6年

今までコミュニケーションを取ってこなかった自分も悪いが、喜怒哀楽を表に出さない自分に対して社内では良くない噂が広まっていて怖がられたり、気味悪がられていた。


学生時代からそうだった。

いつからか人付き合いが苦手になり、周囲から敬遠されて、気付けば周りには誰もいなかった。

近づけば離れていき、話し掛ければ怖がられ、イジメこそなかったがいつも1人だった。

大人になってもそれは変わらず、社内では誰も話し掛けようとはしない。

上司も最初は良く話してきたが、今では気味悪がって仕事の事以外で多くは話し掛けてこなくなった。


通勤途中は変わっていく季節、止まらない時間の中の一部になって、町の人々の仲間になれている気がしていたのに会社に来ると絆多はいつも1人で取り残され、自分だけが止まっているような感覚になっていた。

そんな空間に慣れている訳じゃない。

ただ、何も考えず、周りを気にせず、感情を殺し、仕事に集中する。



これで良い。いつもと同じだ。

このまま時間が過ぎて、何事も無く、今日が終わってくれればそれで良い。

とにかく平和に...1日が終わってくれれば...



9時00分になり、朝のMTGが始まった。

部長『皆さん、おはようございます。新年度早々、急ではありますが青木課長が7月に家庭の事情で退職することになりました。えー、それに伴って東京本社から新たな課長として月城つきしろ君がウチの支社に来てくれることになりました。じゃあ月城つきしろ君自己紹介を』



ツキシロ?

珍しいな、アイツと一緒か

本社からって言ってるし、東京じゃ意外と多いのかもな



『大宮支社の皆さん。初めまして。東京本社から人事異動により本日付で課長職に就きました月城つきしろ 京也きょうやと申します。よろしくお願い致します。』



…ん!?今なんて言った!?

ツキシロキョウヤ?

まさか、あのツキシロか?

同じ会社で、しかも今日から上司!?

おいおい、勘弁してくれよ!


いや、同姓同名だな

あの頃とはだいぶ雰囲気違うし、背も高くなり過ぎてる



『ねぇねぇ、ちょっとカッコよくない?』

『イケメンだよね、眼鏡がクールっぽくて良い感じ!』

『本社からだってよ!エリートじゃん』

『ウチも今後ノルマ厳しくなるのかねー』


社員達がざわめく



第一印象バッチリだな

自己紹介で、こうも変わるもんなんか

俺もしっかりやっとけば今頃変わったのかな....

ま、もう、おせーか



『えっとー、因みに、そこの絆多君とは幼馴染で小さい頃は良く一緒に遊んでました。中学に上がるときに絆多君の引っ越しで疎遠になってしまいましたが、この大宮支社で仕事の相棒として、時には上司と部下としてまた仲良く出来たらと思っています。皆さんとも絆多君を通じてコミュニケーションを取りたいと思ってますので、よろしくお願いします。と言う事で、よろしくな!永遠!』



は!?え?

ありえねー

マジかよ、コイツ、京也かよ!

俺を通じてコミュニケーション!?!?

そんなん無理だ!

コイツ、会社で俺がどんな立場か知らないだろ!



『今もしかして絆多さんと幼馴染って言った?』

『人違いでしょ?絆多さん返事してないし』

『いや、でも永遠って呼んだよ!?友達いたの!?』

『あの人と友達だってよ!』

『まさか、脅されて言わされてるんじゃねーの?』



こうして絆多の平和は崩れ去った。

たった1人

月城京也おさななじみが現れ、今まで積み上げてきた絆多 永遠という人間が変わっていく事になる。


ここから永遠の止まっていた時間は動き出す。

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