第4話
勇作は面倒くさがりだが、効率重視で行動するわけではない。それが例え、非効率でも無意味なことでも、その時の気分で考え、行動する。
だからこうして夜に一人で歩くなんて、よくあることだった。
葵はご飯を作ると、いつもより早めに帰ってしまい、母親も今日はかなり遅くなるとメールがあった。
別に一人が寂しくなったわけではない。別に暇潰しならいくらでもできるし、幼い頃からこの生活だったから、もう慣れているのだ。
それに今は彼女である葵がよく家にやって来てくれる。ご飯を作って、話し相手になってくれて、誰かと一緒にいる時間も増えた。
だからこそ、思うのだ。葵との出会いは奇跡的だったと。あんなにいい彼女は他にいない。そもそも俺みたいな奴と付き合ってくれる女子が他にいない。
葵がいなかったら、今頃もっと自堕落な生活を過ごしていただろう。今よりも、もっとつまらない時間が続いていただろう。
そう考えると、酷く怖くなる。
ここ最近、葵はより忙しくしている。二年生になり、生徒会にも入って書記としての仕事が山積みになっているのだ。勇作のためにご飯を作ってくれるものの、早めに家に帰る日がもう一週間ほど続いていた。
世話焼きな葵はどうも頼まれ事を断れない性格をしている。だから生徒会にも推薦されると、そのまま承諾した。そして今は仕事に追われているという、勇作からすれば損な役回りだ。
もちろん「俺にできる事は?」と本気で訊ねたものの「大丈夫だよ」と言われた。「大丈夫」と言われれば、勇作はやらない。やらなくて済むのだからやらない。だが、本当に大変な時に頼られないのは、それはそれで悲しいものだ。
もう一度言うが、寂しくはない。別に会えないわけでもないから。
ただ、退屈だと感じてしまう。
「あ、やっぱりここにいた」
その声は帰ったはずの葵の声だった。やや頬を膨らませながらも、呆れたように溜息を洩らす。
「なんで……」
「今日はなんか元気がなかったから。ちょっと気になったの」
そう言って葵は勇作の隣に腰を落とした。小さな公園で、遊具はなくて街灯といくつかベンチがあるだけの広場。
「俺、何も言ってないのに」
「それは私が聞いてないからでしょ」
「あ、そうか」
訊ねられれば、素直に答えてくれるだろうが、あえてそれをしなかった。
「もしかして寂しくなった?」
少し意地悪な顔で訊ねる。
「いいや。なんか……暇だなって。つまんないなって」
「えー、それって寂しいんじゃないの?」
「そうなのか? これは寂しいのか?」
「私に訊かれても分かんないって」
「そっか」
「……」
「…………」
静かな時間が流れる。普段から会話が続く方ではない。だからこうして無言の間でも二人は気にしない。むしろ、この時間も大切だと感じる。
「はぁー……」
大きく息を吐くのは葵の方。
「えいっ!」
それから動き出す葵に顔を向けた瞬間、視界が真っ暗になった。頭の後ろに腕が回って、温かくなる。
「顔上げないでよ。恥ずかしいんだから」
「うん」
「これで我慢して。もう少しで、生徒会の仕事も落ち着くから。そしたら、一緒にデートに行こ」
「うん」
「どこがいい?」
「遠くなくて、人が少ないところ」
「それ、すごく難しいんだから。たまには勇作が考えてよね」
「……分かった」
「え?」
勇作の最後の言葉はあまりに小さくて、うまく聞き取れない。
もう一度訊ねようとするが、それより先に勇作が続ける。
「だから、もう少しこのままでいて」
力を緩める葵の代わりに勇作が放さない。
お腹の辺りに勇作の顔が当たって、くすぐったい。
「仕方ないなぁ。もう少しだけね」
やけに今日は甘えん坊な勇作だった。
ダメ人間の俺は頼りになる彼女に甘える。 花枯 @hanakare
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