何も知らない君に、教えたくないこと

ぺんなす

第1話 音に導かれて

ある日、俺は彼女の演奏に引き寄せられた。

俺は、音が聞こえるたびに音楽室へ行くようになった。


そんな時を過ごすこと数日…。



登校中の出来事だった。

突然歩行速度が遅くなった。

後ろを振り向くと、制服を掴んでいる人物がいた。

その人物はピアノ少女だった。



「ねぇー…学校まで連れてってー」


ただ見ているだけの存在だった彼女からのお願いを俺は断らなかった。


彼女と歩き始めて数分。

沈黙と疑問に耐えられず俺は言葉を発した。


「あのさ、なんで俺に頼んだの?」

よく考えてみれば最初の質問としてはおかしかった。


「んんー?なんでって…いつも音楽室、いるでしょー?だからだよー」

「気がついていたんだ…。俺のこと」

「うーん…気づいてたっていうかー、知らないうちに…いつもいるから…覚えてた~。あっそうだー聞いてみたかったのー。なんでいつもいるの~?」

「えっと…」

突然の質問にとっさに答えを出せなかった。


「私の演奏…気に入ってるのー?」

こんなにも直球に聞かれるとなんというか、素直に言葉にするのは恥ずかしい。

だが、そんな考えなど気にもしていない彼女のまっすぐな瞳を前にして、言葉を発さざるをえなかった。


「ああ。気に入ってるっていうか…その…すごい綺麗な音だなって思って、聞き入ってしまうというか…」

「ふーん。じゃあもっといいの聞かせてあげるー」


そんな会話をしているといつの間にか学校へ到着していた。

彼女は先ほどの言葉を残し教室ではなく保健室のほうへと向かって行ってしまった。

そういえば一番聞くべきであろう質問をするのを忘れた…。

一つの疑問が解消されたと思ったら彼女は二つの疑問を俺に残した。



放課後。今日は音が聞こえてこなかったので帰ることにした。

すると、昇降口を出たあたりで再び歩行速度が低下した。

それと同時に

「あ…居たー」

そんな声が聞こえてきた。

振り向くと朝と同じくあの子がいた。


「一緒にかえろー」

そう言いながらスマホ片手に俺の手を引く彼女。

彼女は、立ち止まりスマホを見て何かを言いながら進む。

を繰り返していた。

声が小さかったので何を発していたかはわからないけど気づけば彼女の目的地に到着していたらしい。


「到着~」

「えっと…ここは?」

「んー?私の家ー」

そう言いながら彼女は俺の手を引いたまま家へと入っていった。


「ここー私の部屋~」

そう言われて視界に入ってきた部屋は、完全に真っ暗なわけではなくパソコンの光だけがある部屋だった。


予想外の部屋に軽い呆然状態に陥っていると、聞き覚えしかない曲が突然流れてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

何も知らない君に、教えたくないこと ぺんなす @feka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ