第2話:謝罪

「誠に申し訳ありません、聖女様。

 本来ならば直ぐにお帰り頂くところなのですが、情けない事に、帰還の魔術を行うだけの魔力がないのでございます。

 大魔術室の全魔晶石に魔力を蓄えるには、どれほど頑張っても一年はかかります。

 その間に皇国にできる限りのお詫びを準備させていただきますので、どうかご容赦願います」


 皇帝は、いや、全員が本気で後悔し詫びていた。

 彼らの世界では、守備力の関係で、狭い城壁内に多くの人間が住んでいた。

 でいるだけ火事を防ぐために、石造りの家を建ててはいたが、支柱として使っているのは材木だった。

 だかこそ、狭い城内で火事が広がった時の被害は、身に染みて知っていた。

 神から授かった大魔術を使って、勇者聖女の世界に火事を引き起こす。

 その罪がどれだけ重いのか、想像するだけで恐ろしかった。


「取り返しのつかない失敗を、何時までも攻めてもどうしようもないわね。

 絶対にできない事をやれと言うのも無理な話だし、いいわ、分かったわ。

 で、どんな償いをしてくれるの?」


 一年は絶対に帰れないと言われたミネルバは、早々に次の事を考えていた。

 まず一番にやらなければいけないのは、元の世界に、日本に帰った時に火事を引き起こしていた時の賠償問題だ。

 もし即座に行き来できるのだったら、今直ぐ戻って火を止めれば問題ない。


 もし自分にとてつもない力が授かっていたり、一年後に力が強まっていたりして、即座に日本と異世界を往復できるようになっていたら、火事が起きたのか確認してから賠償を請求すればいいのだが、今の時点では何も分からない。

 だから、契約社会に生まれ育ったミネルバは、今のうちに、きちっと賠償問題を解決しておかなければ、聖女として何もできないと考えたのだ。


「聖女様の世界で何が大切にされているのか、なにに価値があるのが分かりませんが、この世界で一番価値がある物といえば、聖金と聖銀と魔晶石でございます。

 ただ聖金と聖銀と魔晶石は、魔獣や魔人を斃すためにどうしても必要な物ですので、できれば一般的に通貨として使われている金銀や、宝飾品として価値が認められている、宝石にしていただければ助かります」


 ミネルバは王冠を頭にのせている男の話を聞いて、心から安心した。

 この世界この国でも、普通に金銀財宝に価値があるようなので、それをもらえれば何の問題もない。

 この世界でも、小説やマンガのように貴重な武器の素材である、聖金や聖銀や魔晶石を要求するつもりはなかった。


「分かったわ、火事の賠償は金銀財宝で構わないわ。

 ただ私の世界とこの世界の金銀財宝が同じモノか確認させてちょうだい」

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