召喚聖女は、家庭料理で引きこもり皇太子の胃袋を掴む。

克全

第1話:異世界召喚

 ミネルバは丁度料理を作っている途中だった。

 幼いころから憧れていた、日本への留学を両親に認めてもらって七年、大学を卒業したら一度は国に戻らなければいけないと悩んでいた。

 ミネルバとしては、このまま大学に残って、料理の研究を続けたかった。

 管理栄養士としての視点だけではなく、農業やケアマネジメントとも連携した、ライフサイクルという視点からも、料理を探求したかった。

 特に、日本の伝統的な食材についてもっと研究したかった。


「聖女様、我らの召還に応じていただき、感謝の言葉もありません」


 ミネルバの前には、ズラッと人が並んでいた。

 王冠をした者もいるので、国王も立ち会っていたのだろう。

 ミネルバも日本好きだから、マンガやアニメも嗜んでいる。

 これが定番の異世界召喚である事は直ぐに分かったが、問題があった。

 これがいい召喚なのか悪い召喚なのかで、対応を変えなければならない。

 もし悪い召喚ならば、即座に逃げなければ命にかかわってくる。

 本来ならばここは慎重に対応すべきところなのだが……


「誰が快く召喚に応じただと、人が気分よく料理しているところを、何の承諾もなく呼び出しやがって、舐めてたら叩きのめすぞ!」


 ミネルバは少し気が強く喧嘩早い性格をしていたのだ。

 弱い者苛めをするような性格ではないのだが、手が早い事では有名だった。

 今でこそ料理に夢中だが、幼い頃には格闘技に夢中だったのだ。

 まあ、それも、日本の格闘マンガの影響だったりするのだが……


「おお、これは申し訳ない事ををいたしました、聖女様。

 決して無理矢理召喚する心算ではなかったのです。

 神から授けられた、勇者聖女召喚の大魔術が、勇者様や聖女様を無理矢理呼び出すモノとは、考えもしていなかったのでございます」


 王冠をした男が深々と頭を下げると、その場にいた全員が頭を下げた。

 騎士や徒士であろう、鎧を着た者は、それぞれの階級に応じた礼をとっている。

 ミネルバにも彼らが本気で詫びているのが伝わった。

 真摯に過ちを詫びる人間に文句を言い続けるミネルバではない。

 同時にこれが悪い召喚ではない事が確認できて、少し安心もしていた。

 だからといって、いい召喚だとも言い切れないのだが……


「分かった、詫びは受け入れよう、だが問題はまだある。

 私は家で料理を作っていたのだが、元に世界に戻る時には、同じ時に戻れるのか?

 下手に時間が遅れたりすると、火事になってしまう。

 そんな事になったら、私の家だけではなく、近隣まで火事が広がり、死傷者まで出てしまうかもしれない。

 その点はどうなっているのだ?」

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