第3話 鼓動の高鳴り

朝、あの笑顔を2日ぶりに拝めて、気分が上昇していく。

「何、ニヤニヤしているの?」

また、直樹がからかってくる。

「はい、はい。」

学校へ向かう坂を歩き出す。

「今日、学校が終わっても働いているのかな?」

「知らない」

そんなことわかるはずもない。居てほしい気持ちは大いにある。


学校の授業が終わって坂を下り、カフェ『憩いの間』に行くと、結局、目的の姿がなかった。

テーブルに着くと、直樹が

「いないみたいだね」

気にしないように、必死になっていたのに、痛いところを突いてくる。

「そうだな」

「誰かお探しですか?」

岳が座っていたテーブルに、男性の店員さんがやって来ていた。

「いえ~」

話をそらそうとしたのに、

直樹は「ああ、いつも朝にこの店で働いている女性に会いたくて」

「玲奈ちゃんのことかな?彼女は昼で帰ったよ。あの子が目的で来る人ってホント多いよね」

「そうなんですか」

岳は黙って、2人の会話をただ聞いていた。玲奈って名前か。可愛らしい名前だな。ただ、目的で来る人が多いのか。

「注文は何にしますか?」

「カツサンドと、アイティー。岳は何にするの?」

「じゃあ、コーラとツナサンドで」

「かしこまりました」店員は注文を取って、厨房に去って行った。

「残念だよね。あの笑顔はやっぱり、皆すきだよね」

「そうだな」

直樹の茶化してくることに腹が立ってくるが、残念なのは正解だった。


「失礼します」

先ほどの注文した商品がテーブルに置かれる。焼かれたパン生地に挟まれたツナが美味しそうな香りを漂わせている。

「注文は以上となりますがよろしいでしょうか。」

「はい」

直樹が答えると、テーブルに伝票を置いて

「あと、玲奈ちゃんなら、来週の火曜日は午後シフト入っているらしいですよ。快適な時間をお過ごし下さい」と言って、男性の店員はテーブルから離れて行った。

「いい情報だな。顔が歪んでいるぞ」

「そうかもな」

来週の火曜も直樹とくることになってしまった。


火曜日までの日々は、楽しい日々が続いた。木曜と金曜は朝の通学であの笑顔を見ることができた。

月曜もあの笑顔は見られたが、火曜日の朝はいなかった。午後から働くのだろう。

「楽しみだな」

ほんと、嫌みに男だな、直樹は。現実に戻された。


学校の帰り、『憩いの間』に行くと、いつも朝、外から眺めていた笑顔が目の前にあった。

「2名様ですか?お好きな席にどうぞ」と案内されて、

「窓際に座ろうぜ」と直樹に引っ張れるように席に連れて行かれた。

「岳、テンパりすぎ、落ち着けよ。彼女は逃げないから」

それはわかってるが、目の前にすると、凄くあの笑顔にやられてしまう。

彼女が「ご注文はいかがにしますか?」と注文を取りに来た。

「えっと、カツサンドとツナサンドと、コーラ2つで。岳、それでいいよな?」

「ああ」

「かしこましました」彼女は少し戸惑いながら、テーブルから離れて行った。それに、直樹が勝手に注文をしてしまって、同意してしまった。彼女が居た時間は数秒だった。

直樹は笑っている。

「なんだよ」

「岳って、ピュアだね」


「失礼します」

「僕がカツサンドとコーラです」

直樹がそう答えると、彼女は直樹の前に、丁寧に置いていた。そして、岳の前に、ツナサンドとコーラが置かれた。

「注文は以上でよろしかったでしょうか?」

「はい」

それで終わりだ。

店員と客であれば、こんなものだと分かっていたはずだ。何を望んでいたのだろうか。

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