第3話 決裂② ~side horns tribe

「お前が言うな。」


頭一つ背が高いバスチェナに胸倉を引き上げらているような形になったラスベルは、『王』になるという男の不敵な笑みにカチン!と来るとバスチェナの胸倉を掴んでいた両手を突き出し距離を取った。


「フッ・・・図星を突かれてムキになったか?」


「クッ・・・いえ・・・・・ボクが許せないのはライトとルガタの死を持ち出した事です。」


ある程度力を込めて両拳を突き出したラスベルだったが、仰け反るどころかピクリとも動かないバスチェナに苛立った。しかし、さらに顎を上げて見下ろすような視線を向けてくるバスチェナを目にしたラスベルは、咄嗟に背を向けその挑発に乗らないよう自分を落ち着かせようと努める・・・が、


「それで言いたいことは分かったのか?」


『許せない』と言ったにもかかわらず謝罪の言葉ひとつ述べない男に気を落ち着けるどころではなくなった。


「ボクはあなたを『王』とは認めない!!!人の気持ちを逆なでし、理解しようとしないあなたなんかにボクたちを先導することなど出来ない!!!」


「そうだ!俺たちを馬鹿にしやがって!!!」


「オレもアンタを『王』とは認めない!!」


「俺もだ!!!」


振り返りながらバスチェナを拒絶するように左手を振り上げたラスベルが怒声を上げると、再び背後にいた殲滅派の面々がそれを後押しするように声を上げた。ラスベルは仲間たちの声に背中を押された気になり口の両端を上げてバスチェナを睨む。


「はぁ・・・だからお前らがそれを言うな。」


「・・・。」


「まぁ、お前らが俺を認めようが認めまいがどっちでもいいんだが・・・・・。」


バスチェナは面倒くさそうに額を掌で擦りながら『王に向いてないのは自分が一番よく分かっている。』と思っていた。しかし、それでも伝えねばならないと口を開くが・・・


「だが、事実あの男を倒せたとしても解決にはならんぞ?根本は・・「あの女神と名乗る偽物でしょう?」


「ほぉ。」


今度は自信ありげに顎を上げて口を挟んで来たラスベルに目を丸くした。


「分かってますよ。ですが・・・それでもボクはライトやルガタを殺されたまま黙っているわけにはいかない。」


「だが・・「あなたは以前、『お前らの正しいと思う事をすればいい。』と言いましたよね?」・・・・ああ、言ったな。」


分かっているなら・・・そう思った矢先の発言に口を開こうとするも、さらに口を挟み主導権を取ろうとしてくるラスベルに被りを振ったバスチェナだったが、次のラスベルの発言に口の片端を上げた。


殲滅派ボクたちは・・これまでと変わらずあの男を殺し、人族を滅ぼすために戦います。それがボクたちが思う正しい事です。それでも殲滅派ボクたちを『止める』と言うのであれば・・・・ボクがあなたの首を取って『王』になる。」


「ほぉ・・やってみろ。」


「くそ!!!待て待て!!」


ラスベルの発言に殲滅派の面々がどよめく中・・・スライスタンが2人の間に入った。


仲間たちの背中に隠れながら2人のやり取りを覗き見ていたスライスタンだったが、ラスベルがここまでバスチェナに噛みつくとは思いもしていなかった。さらにそれに対してバスチェナが『受けて立つ!!』というような態度に出るものだから慌てふためいた。


「なんでそうなる?角族同士オレたちが殺り合ってもアイツら(イヴァや人族)が喜ぶだけだぞ?」


「スライスタン・・・。」


「そんなバカみてぇな事は止めようぜ?な?」


「分かりました。」


「お?おお!!」


バスチェナの前に立ちラスベルの肩に手を置いて和解を試みたスライスタンは、ラスベルのその返事にホッと胸を撫で下ろすが、ラスベルはそんなスライスタンの手を払うと呆れたような視線を向ける。


「スライスタン。あなたはそっち側に寝返ったって事ですね・・・なるほど、まずはあの男の前に『王』になる方が先のようですね。」


「はぁ???なんでそうなる??」


ラスベルは本気でスライスタンが寝返ったとは思ったわけではない・・・だが、これ以上の問答は意味がないと思っていたラスベルは、スライスタンに乗っかろうとする者が出る前に自分を止めようとする者を排除する方向に話を進めたのだった。


「スライスタン、コイツはもう言葉では止まらない。」


ラスベルのその心境を読み取ったバスチェナは、『諦めろ』と言うようにスライスタンの肩に手を乗せ軽くポンポンと2度叩くと、スライスタンは一度バスチェナの方に視線を向け大きなため息を吐いて肩を落とすのだった。


「はぁあ・・・・・・・。」


「力づくでお前らを止める。」


「舐めないでいただけますか?ボクはあなたの首を取ると言ってるんです・・・・殺す気で来てください!!」


顔を引き締めバスチェナにそう言い放ったラスベルは、踵を返すと腕を組み出口に続くドアに寄りかかっているドイルに「あなたもですよ。」と口にして睨みつけた。口をへの字にしていたドイルは『どうする?』とバスチェナに視線を向けると、『通してやれ』と言うように顎をクイッと上げたバスチェナのジェスチャーに小さく息を吐いてドアから背を離した。


「・・・・・・では、行きましょう。」


「「「おお!」」」


黙ってドアから離れていくドイルを見ていたラスベルは、カクッ!と首を傾けて殲滅派の仲間たちに声を掛けると彼らを引き連れ足早に砦を後にした。


「やはりこうなってしまいました。フレドさん。」


ラスベルたちが去った後・・・クルッと振り返ったバスチェナはテーブルの奥に座っているフレドに声を掛けると、フレドの存在に気づいていなかったスライスタンはピクッと体を震わせると項垂れたままその視線をフレドの方に向けた。


「・・・。」


若造の挑発に乗ったこの男バスチェナに苦言の一つでも言ってくれよ・・・・・そう期待して目を向けていたスライスタンだったのだが、数回頷きながら椅子から立ったフレドのどこかこの状況を納得しているような表情に落胆の色を隠さなかった。


「そうだな・・・だが、何度も言うようにお前が立ち上がらなければ角族は滅びる。決意してくれて感謝しているよ。」


「担ぎ上げたんだから手伝ってくださいよ?」


「分かってるよ。」


そして、言葉を交わしニヤッ!と笑みを浮かべた2人にスライスタンはジトッとした視線を向けていた。


「何でそんなにやる気満々なんだよ・・・。」


「ん?そう見えるか??」


「そうとしか見えねぇよ・・・・はぁ・・・・




―王国歴前2年2月某日―




・・・・ったく、何でこうなっかなぁ・・・。」


迫り出た岩場に腰を下ろし立てた右膝に右肘を付け、眼下に姿を現わした同族たちを見下ろしながらスライスタンはぼやいていた。


「っつーか・・・強すぎんだけどあの人・・。」


しかし、彼らが戦いを始めるとスライスタンは思わず身を乗り出し息を呑んだ。






額の両端に2本の鋭い角を生やし、吊上がった目にはすべてを焼き尽くすような真赤な瞳が光っていた。


口の片端を上げ、踵まである漆黒の髪をなびかせながらゆっくりと歩みを進めるバスチェナに殲滅派の面々が襲い掛かるのだが・・・・バスチェナはまるで赤子の手をひねるかの如く次々とねじ伏せていくのであった。

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