第18話 女神の心
ソーヴェルを担いで外に出てきたアルカスは、この集落を制圧した後にミューレル達と分かれて砦に戻る事になっていた。
その理由は己の意思で『捻じ曲げ』を抑えることが出来なかったからなのだが、この結果はミューレルの『女神の心を破壊する。』という意志をさらに強くしたものだった。
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『女神の心』はエストの予想通り魔力晶石だった。
そもそも女神イヴァが魔力晶石を知りえた理由には、身も心もすっかり洗脳されていた『力を司る神』であるスレイルにあるのだが、その存在は結界の中に引き籠ったイヴァにとって渡りに船だった。
魔力晶石の存在を知ったイヴァは、早速『神の間』に姿を現わし
『この世界にワタシの心そのものと成り得る綺麗な水晶があるのぉ。ねぇ、探してくれないかしらぁ。』
と笑みを浮かべ、呼び出したルアンドロに魔力晶石を持ってくるよう強請った。
無論、イヴァの望みを叶えたいルアンドロは「なんと!そんなものが!?はい、勿論でございます♥」と快く承諾してしまうのだが、それは予想以上に難しいお強請りだった。
何せイヴァはルアンドロにその晶石の内実を伝える事無く探させたのだからだ。
(いったいどのような水晶なのか・・・・?)
詳細が分からなかったルアンドロは、とりあえずこの世界にある『美しい』と言われる水晶をかき集め幾度もイヴァに献上してみたのだが
『あらぁ・・・これも違うようだわぁ。』
と、あっさり『違う』と言われては肩を落としたものだった。
困ったルアンドロは「もう少し詳しく教えていただけないでしょうか?」とイヴァに教えを乞うのだが、『ワタシも直接見た事が無いから分からないのよぉ。女神失格よねぇ。』と泣き伏せられてしまった。
その発言は、とても女神が発すべき言葉とは思えぬのだが、その際もイヴァにより上目遣いで『
しかし、女神のためと張り切ったルアンドロではあったが、
『違うわぁ。』
『あらぁ・・・残念。』
『これもただの石ねぇ。』
と、新たに発掘させた水晶を献上しても同じ結果が続き何度も何度も肩を落とした。
が、それ故に
『これよぉ!!!これこそワタシの心と成り得る水晶だわぁ!!!』
とイヴァの喜ぶ声を聞けた時の嬉しさはひとしおだった。そして、イヴァの嬉々とする声に高揚したルアンドロは、ニコニコしているイヴァに以前より考えていた石の呼び名を提案した。
「イヴァ様!この水晶の名を『女神の心』にしてはいかがでしょうか?」
『まぁ!素敵な名前ねぇ♥とても素晴らしいわぁ!この水晶の名を『女神の心』にしましょう。』
イヴァはその呼び名を大いに気に入ったらしく、妖艶な笑みを浮かべたまま実際には触れれぬもののツゥーーとルアンドロの頬を撫でるような仕草を見せた。
「ああ・・ありがたき幸せ!!」
イヴァに褒められ感嘆の声を上げたルアンドロは、恍惚の表情を浮かべては、天にも昇る気持ちにしばらく浸るのであった。
**
その後、イヴァは大小構わず『女神の心』をアルスト城の北側にある神たちの祠に献上させた。その理由は魔力晶石の存在をイヴァに教えたスレイルですら『魔法やスキルを込める事が出来る。』という事しか知り得ていなかったからだった。
イヴァは集まった魔力晶石で実験を開始した。スレイルにも協力させて魔力晶石がどんな能力を持ったものなのか確認していったのだ・・・・・が、そのため3人の勇者の召喚時に使い果たした神力を少し回復していたスレイルは、実験後に再び長い眠りに就いてしまう事になる。
しかし、そのスレイルの協力のおかげで、魔力晶石がどんなものなのか理解する事が出来た。
まず、魔力や魔法、スキルを込めなければただの石であり、一度水晶にスレイルのスキルを込めてしまえば、その後イヴァが何をしても自分のスキルを込める事が出来ない事が分かった。
また、その込められたスキルの効力は水晶が壊されない限り半永久的に発動するという事や、スキルを発動させるには何らかのトリガーが必要だという事が分かった。
トリガーは簡単な例で言えば『発動に必要な量の魔力を注入する。』などだ。(バスチェナが、エストに渡した魔力晶石のトリガーを『晶石を破壊する』事にしていたのは、そう何度も『時間停止』のスキルを使わせたくなかったからだった。)
そしてイヴァの最大の発見は、トリガーの数、、発動の条件を増やせば増やすほど晶石にその条件分の数だけ発動する内容を付加出来るという事だった。
そこでイヴァは教会に祀らせる『女神の心』に
①直接石に手を触れる事
②もう一つの対となる小さい晶石が傍になければならない事(各地にいる司祭が持つ杖の先についた晶石)
③誓いの言葉を唱える事
という3つの発動条件を設定した。
そしてそれにより発動する内容は
①その者の心に『
②女神イヴァに反意(類い含む)を持った際に『
③女神イヴァに反意(類い含む)を持つ者を見つけた際に『
の3つだった。
一見弱い内容に見えるものの、誓いの言葉を唱えさせる事がこのトリガーの肝だった。植え付けられた『
また、イヴァが『反意(類い含む)』を条件にしたのにも理由があった。それはイヴァがアルストを召喚した時代にある集落の人族たちを魅惑し過ぎた(理性を失わせ過ぎた)せいで、その集落を崩壊させてしまった事があったからだった。(それもイヴァにとっては実験のひとつでしかなかったが・・。)
故に、自分に疑いをかけたり、自分に逆らう事が無いようにするに留めた。
結界の外に出れないイヴァが、神国以外で暮らす人族たちに自らが直接関与する事なく鎖を付けるためにはと考え抜いた結果がそれだった。
しかし、『誓いの言葉を唱える事』という条件が思わぬを副作用を発生させた。
本来『誓い』とは心が伴うものだった。それ故に『唱える』だけを条件にした事で、その者の心の度合いで根の張り方に差が生まれてしまった。そのため司祭のように『信仰が深い者の心にはその通り深く根を張り』、ロックのように『信仰心が皆無な者の心に対しては根の張りようが浅い』という違いが生まれてしまったのだった。
故に、アルカスの心がドゥーエやロックより弱かったというわけでは無かった。
ドゥーエもそれほど信仰が深い方では無かったが、儀式では気持ちを込めて誓いの言葉を唱えてしまっていたため、『雷の精霊』の助力無しではドゥーエもアルカスと同様の状況になっていただろう。
それに対して、ロックもしきたり通りに『儀式』は受けてはいたが、棒読みで『女神イヴァの御心に寄り添い』と口にしながら「面倒くさい・・早く帰りたいんだけど・・・夕飯何にしようかな・・・。」などと誓いとは程遠い思考を巡らせていた。そのため2人とくらべその根の張りようは非常に浅かった。
しかし、儀式化して『唱える』という条件にしなくては、ロックのような信仰心の薄い者達を含めた全ての人族たちの心に種を植えつけ『
だが、欠陥とも思えるその副作用があろうが無かろうがイヴァにとって『女神の心』は、いずれ外に出る事を目論んでいる彼女の繋ぎになりさえすればいいものだった。
自分の目の届かぬ人族たちの心に『
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