第17話 元中将の最期 (改稿)

「な・・・・なんで・・・・。」


蛮族達の攻撃を何とか掻い潜ったソーヴェルは、一呼吸置くためこの村に唯一ある宿屋に飛び込むと飛び込んだ光景に驚き絶句した。


マグナガルやドリスを探すよう指示していた部下たちが斬り殺されていた。


「これ・・は・・・マクナガル中将が・・・・?」


ソーヴェルは動揺するも、ホールの奥で椅子に寄りかかりこちらに背を向けているマクナガルに問いかけると、気だるそうに振り返った彼はテーブルに立てかけていた血まみれの剣に手をかけ立ち上がった。


「嫌味か??」


「は?」


憎々し気にソーヴェルを睨んだマクナガルは、片手に持った酒を一気に飲み干すとその空き瓶をガン!!っとテーブルに叩き置いた。


「元なぁ・・もぉおと中将だ・・今はおめぇえの部下なんだろぉ?」


顔を赤くしたマクナガルは煽った酒のせいで呂律が回っていない。


「そうですが・・・って、こんな事態にそんなに酒を煽って!!」


気を落ち着けたソーヴェルは酔いが回っているマクナガルの状態に怒声をあげるもマクナガルはケタケタ笑っていた。


「はぁ~あ・・・さっきまでびぃびってたくせによぉ。」


「ここにいる者達を斬り殺したのはあんたか???」


「うるせぇなぁ。」


「質問に答えろ!!!!」


「そうだぁあああ!!ギャーギャーと煩かったからなぁ。」


両手を握りしめているソーヴェルに、不敵な笑みを浮かべてそう口にしたマクナガルは、ユラっと剣先をソーヴェルに向けるとふらふらと歩き始めた。


「ど・・どうして!!!中将まで上がったあなたが!!」


「は!!もう辞めたんだよ騎士なんてくだらんもんは・・・それにひよっこのお前の下でなんかやってられるかぁ!!」


「な!!」


酔いと怒りで言動も目つきもおかしくなっているマクナガルを睨んだソーヴェルは、マクナガルの後方にある調理場の入り口に横たわる足がある事に気づいた。


「まさか・・・・あんた住人にまで手を掛けたのか!?!?」


「フッ!!!」


「!?」


眉間に青筋を立て怒声を上げながら焦点をマクナガルに戻したソーヴェルの目に飛び込んできたのは、すでに斬りかかりに来ているマクナガルの姿だった。


「くっ!!!」


その状況に慌てたソーヴェルが剣を抜くも、腰の入っていない体勢でマクナガルの横薙ぎを受けたため壁に吹き飛ばされてしまった。


「じゃあな、ひよっこ。」


「くそ!」


壁に体を打ち付けたソーヴェルが顔を上げると、既に間合いを詰めていたマクナガルが剣を振り下ろそうとしたその時、


バン!!!!!


と宿屋のドアが勢いよく開かれた。


「ああ???何だお前。」


マクナガルが開かれたドアに顔を向けると、不気味な木の仮面を付けた男がのそのそと中に入って来た。


「なんだお前はぁ!!!!!」


「・・・・・。」


マクナガルの怒声を無視した仮面を付けたアルカスは、周囲の惨状をゆっくり見渡した。


「あんたがやったのか??・・・マクナガル中将だよな?」


「そうだが・・・だから『元』だって言っただろぉお!!!!!!」


「元??言った??何言ってんだ??って、酒癖えな・・・・。こんな時に酔っぱらってるのか?」


「あああああああ・・・めんどくせぇえええええええええなっぁああああああああ!!」


ガシガシ!!と頭を掻きながらフラフラと2、3歩後退ったマクナガルは剣を後方に構えた。


会話も成り立たぬどうしょうもない様子のマクナガルに何があったのか・・ため息を吐いたアルカスはその『何が』の予想がついていた。


約1年前、反論するマリウスの言葉に耳を貸さず、「直ちに蛮族の首を取って来い。」と偉そうに命令するマクナガルを背筋をピンと伸ばしたマーカスの後ろで見ていたアルカスのマクナガルへの印象は


『それほど力量もないくせに、卑劣な手段でライバルを蹴落とし成り上ったプライドばかり高い男』


だった。ちなみにその隣で踏ん反りがえっているドリスに対する印象は『口が立つ家名だけの男』だった。


腐りかけたアリエナ上層部の中で、すでに腐っていたこの2人はいずれ失墜するだろうと思っていたアルカスだったが、目の前で実際にやさぐれているマクナガルと相対するとその姿が少し滑稽に見えた。


(この男はもう騎士ではなく、ただの殺人鬼に成り下がった。)


そう判断したアルカスは


「おい!ちょっと借りるぞ。」


「あ・・・。」


壁に弾き飛ばされたときに手放していたソーヴェルの剣を拾い上げた。


その瞬間、屈んだ仮面の男に隙が出来たと・・・殺すチャンスと見たマクナガルがアルカスに斬りかかった。


「しねぇええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!」


しかし、スッと体を翻してマクナガルの剣を躱したアルカスは、ガンッ!!!と床に刺さった剣の脇に強く左足を踏み込んだ。


「ま・・まて・・!?」


アルカスは低い姿勢から迷わず剣を振り上げるとマクナガルの首を刎ね飛ばした。


「え・・・・。」


自分が殺られるとは思っていなかったのか、「て」と発音した口のままのマクナガルの首が、心地の悪い音を立てながら宿屋の床に転がり落ちた。


「・・・・。」


床に手を着き立ち上がろうとしていたソーヴェルもまた、マクナガルが瞬殺されるとは思っていなかったのか・・・その状況を飲み込めず呆然としていた。


それほどに元中将だった男の最期は呆気ないものだった。


ビッ!!!と剣を一度振りマクナガルの血を落とした仮面を付けたアルカスは、剣を逆手に持つとソーヴェルに「立てるか?」と声を掛け手を差し出し問いかけた。


「あ・・・あんたは蛮族なのか????オレを殺さないのか???」


自分の剣を持つ不気味な仮面を付けた得体の知れない男に手を差し出されて、「はい。ありがとう。」とその手を掴む者などいるわけがない。


その手を拒んだソーヴェルは、被りを振る仮面の男を警戒しながらゆっくり立ち上がった。


「ん?ああ、ここの住人たちから『お前だけは殺さないでくれ。』と言われていたからな。」


「は???住人たちとお前らは繋がっていたと言うのか?」


「あ・・・・やべ・・・。」


「くそ!!!!!!」


仮面を付けているものの、口を滑らせた事に焦っている様子が見えたソーヴェルは、その言葉に嘘が無いと感じ駐屯所に急ぎ向かおうと出口に体を向けた・・・が、


「!?」


「まったく・・・余計な事を言わないでくださいよ。」


「が・・ああああああああああああああああああああああ!!!!」


目の前に突如現れたミューレルにスッと手を胸元に手を当てられたソーヴェルは、そのまま『電撃』を受けて気を失い床に倒れた。


「す・・すいません。」


「あなたの良くない点はそういう所ですよ。」


「き・・気を付けます。」


倒れているソーヴェルを挟んでミューレルはアルカスをギロッと睨み上げ、アルカスは仮面を付けたまま後頭部に片手を当ててペコペコと気まずそうに頭を下げていた。


「そうして下さい。」


「そ、それにしても住人たちの要望を聞くなんて・・・人が良いというか・・。」


誤魔化すように話題を変えようとするアルカスにため息を吐いたミューレルは、手にしていたロープを下手投げでアルカスに放った。


「はぁ・・・。そういう事を着実に守るからこそ協力してくれるのですよ。」


「た、確かにそうですね。(やべぇ・・誤魔化したのバレてる)。」


「では、手筈通りにお願いしますよ??あと、口を滑らせるのは騎士として致命的なことです!!本当に気を付けて下さい。」


「はい。すいませんでした。あまり役に立てていないくせに・・・ほんと・・・。」


「気を付けてくれればそれでいいです。しかし役に立ててないというのは間違いです。私は大いに助かっていますよ。」


首を左右に振り、頭を下げているアルカスの肩に手を置いたミューレルが優しい口調で語り掛けた。


「あなたには『あれ』を破壊した後にたくさん働いてもらいますから。行きましょう!」


「はい。」


顔を上げ力強く頷いたアルカスは、受け取っていたロープでソーヴェルを縛り上げると肩に担いで宿屋を後にした。

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