第16話 奇襲② ~ロックの過去~ (改稿)


ブロンドのサラッとした髪を真ん中で綺麗に分けていたソーヴェルが、その髪を振り乱しながら襲い掛かってくる蛮族を横薙ぎして斬り倒した。


「ぐああああっ!」


「慌てるな!!!態勢を立て直せ!!」


倒れた蛮族を一瞥して顔を上げたソーヴェルが周囲にいる騎士達を鼓舞するように声を上げた・・・・が・・・・・


「うわああああああああああ!!もう無理だ!!」


「おい!逃げるな!!」


「うるせぇええ!!なら、お前が行けよ!!」


蛮族たちの襲撃に騎士達は混乱していた。


「いきなり過ぎるだろ!!!」


「馬鹿か!蛮族が前以て『奇襲するぞ!』と言ってくるものか!!!!」


騒ぎ立てる騎士達にソーヴェルが一括するが、混乱している騎士達にその声は届かなかった。


「くそぉ!!だからまともな者を送れと言ったのに!!」


愛らしい少し垂れ下がった目が集落の住人たちに好意を持たれていたソーヴェルであったが、今はその目を忌々し気に歪めアリエナがある方向に向かって怒声を上げていた。


**


アリエナ騎士団が主とする任務は無論『交易都市アリエナ』自体の防衛であった。それなのに中々決めても無く、攻めてもこない蛮族のためにその主力を農村集落防衛に回すわけが無かった。さらに『女神イヴァ』の御心によりラビナ鉱山に人手を取られてしまっては、尚更良い人材が集落防衛に当てられるはずが無かった。


ソーヴェルは口を大にしては言えないが、隊の足手まといや厄介者、疎ましく思われている者等が送りつけられてくる事に苦労しストレスを感じていた。その最たる例が元中将であったマクナガルと元少将であったドイルだった。


しかし幾ら何でも防衛すべき集落を攻めこまれているのだから、流石にその力を振るっているだろうと思っていたソーヴェルだったが、これまで見渡す限り彼らが戦っている様子は見られなかった。


蛮族の襲撃に気づいた際、直属の部下たちに2人を探すよう指示していたのだがソーヴェルは一向に2人の姿を目にしていなかった。


「くそぉおおおおおおおおお!!!!!」


ギィン!!!ギィイイイイン!!


現状を突破して彼らと合流する事を望んでいたソーヴェルだったが、次々となだれ込むように攻め立てて来る蛮族たちの攻撃をしのぐ事で手一杯になっていた。


そして、ソーヴェルの周辺では統率の取れていない騎士達がいとも簡単に蹂躙されていくのだった。



****



「はぁっ・・・はぁ・・はぁ・・!?!?」


「おい!どうした!!早く行けよ!!」


蛮族に攻め込まれている事をいち早く知り、いち早く逃げ出そうとしていた騎士たち3人の前に仮面を付けた男が立ちはだかった。


「これは指導だ・・・指導だ・・・・指導だ・・・。」


シンプルに目と口の部分だけを丸くくり抜かれているのだけなのだが、不思議と不気味さを感じる木製の仮面を付けているその男は、ブツブツと何度も同じ言葉を口にしていた。


「なんだ・・・こいつも・・蛮族なのか??」


「おい!!そんなのどうでもいいだろ!!!さっさとコイツ殺して早く逃げるぞ!!!!」


「どけぇええええええええええええええええ!!!」


その不気味さに一度足を止めた騎士達だったが、剣を抜き構えると仮面の男に一斉に斬りかかった。


「指導!!!!!!」


そう叫んだ仮面の男が構えた剣の刃は全て金槌で叩かれ潰れていた。


これでは人を斬ることなど出来はしないが、それは仮面を付けたアルカスにとって『意思の捻じ曲げ』に対する保険の一つだった。


「うらあああああああああああ!!」


ギィイン!!ドガッ!!!!!


「う!?・・・がっ!?!?」


最初に振り下ろされた剣を弾き返した仮面の男・・・アルカスは、素早い身のこなしで剣を振り下ろした騎士の後頭部を打ち抜くと、その背後にいた2人の騎士もあっという間にその刃の無い剣で叩き伏せた。


「がぁああああ!!」


「うっ!?!?」


「・・・・。」


「う・・・くそ・・・・。」


倒れた騎士達に怒りに満ちた視線を向けた仮面を付けたアルカスは、最初に攻撃してきた騎士が意識を手放していない事に気づくと「指導。」と呟き刃の無い剣を振り下ろした。


**


その頃、集落の外では同じように仲間が殺されているにも関わらず逃げ出そうとしている騎士達が次々と蛮族たちに屠られていた。


「あ・・・。」


「ぐああああああ。」


まずは柵を乗り越え逃げ出す彼らに複数の矢が襲い掛かった。


そして、それを逃れた騎士達はアルカスのように集落を囲った蛮族たちが逃げ出す騎士を待ち構えていた。


「やめ・・・あ・・・。」


「ぎゃああああああ!!!」


任務に就いていながら、いち早く逃げ出した騎士たちは抗えるわけもなく蛮族たちに次々と射殺されるか斬り殺されていくのだった。


**


またその頃、集落内でパニックになった魔法士が所かまわず火の魔法を乱射していた。


『火弾!』『火弾!』『火弾!』『火弾!』


「ひ・・ひぃい・・来るなぁああああああ!!!」


「あああああああああ!!家が!!!」


「お父ちゃん!逃げて!!」


その魔法士のせいで周囲にある家屋に火がつくと、その燃え上がり始めた家屋の住人と思われる家族が傍らで叫ぎ声を上げていた。


「やっぱ馬鹿いたし。」


「あ・・はは・・・。」


並走していたミュンが呆れたようにそうこぼすと、その顔を見知っている訳では無いものの元同僚だった魔法士の男に視線を向けたロックは苦笑いを浮かべた。


「ロ!!!!」


「はいよ!!ミュンちゃん!!!!」


頭文字の『ロ』だけで名を呼ばれたロックが足を止めて杖を操作すると、ミュンの前方左手にある燃え上がる家屋に向かって傾斜がかった土の出水口(先はホースを潰したような形になっている。)を作り上げた。


「ん!上出来!!!」


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微笑んだミュンが前方に両手を上げると、掌から大量の水が溢れ出した。


そして、その一部はロックが作った出水口から家屋に水が降り注ぎ、大半の水は激流と化してパニ来っている魔法士とその周囲にいた騎士たちに襲い掛かった。


「ああ・・・わああああああああああ!!!!!!」


「うぼぉおおおおおおおおおお!?!?」


その激流に飲み込まれた魔法士や騎士達は、ロックが傾斜を作り上げたと同時に彼らの後方を半円で囲うように作り上げた土の壁に激突すると意識を失い、火がついた家屋は水の勢いで少し軒先などが破損したものの無事消火された。


「うん!まぁまぁやるし。」


「へへ♪」


満足気に腰に手を当てたミュンがロックの魔法を褒めると、ロックは天に上るような表情を浮かべ嬉しそうにはにかんだ。


**


笑顔のロックは木の仮面を付けたアルカスとは違うく素顔を晒しているのだが、その理由は単純なものだった。


幼い頃はグラティアで父親と2人で暮らしていたロックは、6歳の時に漁に出たいつも暴力を振るう父を事故で亡くした。その後同じくグラティアに暮らす親戚たちから疎まれたロックはアリエナに1人で暮らしていた父方の祖母に引き取られた。


物心がつく頃に自分の家に母親という存在がなかった事に気づいたロックは、その事を父にも祖母にも問いてみた事があったが、2人とも憤った表情を見せるも誤魔化すように母親がいない理由を教えてはくれなかった。


それにより、きっとグラティアの親戚に疎まれたのも母が原因だったのだろうと思い至ったロックはその後母親の事を気にする事も深追いする事もなかった。


さらに、16歳の時に育ててくれはしたもののあまり会話を交える事が無かった祖母が亡くなった・・・・・・・それによりアリエナに身内がいなくなったロックに仮面を付ける理由は無かったのだが、それ以上に雷に打たれたような感覚を受け、初めて心が揺れ動いた『女神』の前で不気味な仮面を付けたくなかった事が素顔である最大の理由だった。


そして、それに対して仮面を付けたアルカスは、アリエナに家族や親戚がたくさん暮らしていたためここでその素性がバレる訳にはいかなかった。


「よし!じゃあ、次行くし。」


ミュンが気だるそうな表情で親指を逃げ惑う騎士達の向けるが、そのミュンに夢中であるロックは実はミュンが少し上機嫌である事に気づいていた。


「うん!!!!!」


頷き頬を緩ませたロックは、走り出したミュンの小さい背中をしばし見つめると、とても幸せそうな笑顔を浮かべ彼女の後ろを追いかけるのだった。

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