第13話 反省
―イヴァリア歴16年7月16日―
「は!?国王を殺そうかと思った!?!?」
エストに高架下に呼び出されていたドゥーエは、両端が裂けるんじゃないかと思うほど口を大きく開いていた。
その驚きようは先程エストから『新しい女神の心が発掘され、アリエナの工業区に運ばれた。』という情報を耳にした時以上だった。
(元から『イヴァ』の命でラビナ鉱山で発掘作業を行っている事を知っていたドゥーエであったが、それが発掘されてさらにアリエナに運ばれたという情報は一切入ってなかった。ドゥーエはイヴァリアが極秘で動いている事で、マリウスさえも知らない情報だろうと考えていた。)
「お前なぁ・・・。」
「あ・・・昨夜母さんにも怒鳴られたよ。」
呆れかえるドゥーエの前に立つエストは、左頬を腫らして苦笑いを浮かべていた。
「その様子じゃ、こってり絞られたようだな。」
「うん・・・今までで一番やばかった。」
腫れた頬を擦りながらエストは顔をガクッと俯かせた。
****
―前日の夜-
自宅に帰りリュナにイヴァリアでの出来事を報告をしていた際、あの場で国王を殺そうか迷った事をエストが相談すると・・・・
「馬鹿じゃないの!!!!!!!!!!」
パァーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!
「ぶふぅうう!!」
リュナの右手が振り抜かれた。その表情は鬼のようである。
「い、痛いよ!!」
「うっさい!!!!『どう思う??』じゃないわよ!!!!その発想自体が論外なの!!!!!」
「でも、あの時の決断しなかっ・・
パァ――――――――――――――――――――ン!!!!
・・ぶはぁあああ!!!!」
再度右手は振り抜かれた。
「『でも』じゃない!!!!!!!!国王を暗殺していたら確かに国は混乱して一時は『女神の心』どころでは無くなるとは思うわよ。でも、あんたが誰にも見つからなかった事で『王を殺した犯人探し』が始まるとは思わなかったの??」
「あ・・・・。」
「結界が張られているイヴァリアに角族は入ることが出来ない・・・と、言う事は必然と犯人は現在イヴァリアに居る人族に限られる。」
「・・・・。」
「まず最初に疑われるのはその時城内に居た騎士達ね。きっと厳しい拷問の末、犯人でなくとも責任を負わされ処刑されたでしょう。」
「うっ・・・。」
ギロッ!!と睨まれたエストは何も言えず肩を落とした。
「それでもあんたは、問題を先送りにするためだけに他の罪ない人が傷付き殺されても構わないって言うんだね?」
「いえ・・・混乱してそこまで考えが及んでいませんでした・・・。すいませんでした。」
ガクッ!と床に両膝を着けたエストは、腰に手を当て鬼の形相をしているリュナに頭を下げた。
「はぁ・・・・。確かにあんたには『悪党や盗賊連中には容赦するな!』とは教えたわよ。だけど、過去視でアルストと角族たちが問答無用で殺し合う映像をたくさん見て来たせいで、『殺す』という判断に行き付くのが早くなり過ぎてるんじゃないの??」
「ぐっ・・・・・・・ぐうの音も出ないです・・・・。」
「それに国王が死んでも、しばらくすれば第一王子が次の国王になって結局『女神の心』の計画は進められるわよ。それとも次の国王も、また次の国王もあんたが殺すって言うの??」
「違うよ・・・。時間を稼いでアリエナにある内に『女神の心』を破壊したかったんだ。」
「は??何でよ?何であんたがそんな危ない事をしなきゃならないのよ。そんなの放っておけばいいじゃない!!」
「ダメだよ!!!イヴァリアにある以上の大きさの魔力晶石にイヴァが何をするのか考えただけでも恐ろしいよ!!母さんだって、『洗礼』は強引に人の意識を変えてしまう気がするって言ってたじゃないか!!それ以上の事が今後起きるかもしれないんだよ!!」
エストは立ち上がると必死に事の重大さをリュナに伝えようとした・・・・が、リュナは腕を組みジト目でエストを見つめていた。
「何?その魔力晶石って??」
「あ・・・・・・・。ああああああああああああああああ!!!!!!」
ムキになってしまったあまり、思わず『魔力晶石』の事を口にしてしまったエストが頭を抱えて狼狽えているとリュナに
「ほら、ボロが出た。」
と言われ、さらにジト―――っとしたその視線に胸を貫かれたような気分になりただただ落ち込んでいったのだが、ズーーーーンと凹んでいるエストに構わずリュナは追い打ちをかけた。
「で????魔力晶石って何だい??」
「ぐ・・・ダメだよそれは・・・叔父さんと秘密にするって約束したんだから・・・。」
襟元を掴まれ問い詰められても口を割らなかったエストだったが、
「ふーーん。勝手にワードを出しといて秘密にするんだ・・・・分かった。別に良いわよ。あんたが話したくないんだったら他の人にも聞いてみるから。」
とわざとらしく言われてしまっては観念するしか無かった。
「・・・・・・・・・・。(何でこんな事に・・・・)」
床に両手を両膝を着け、エスト自分の思慮の浅さに放心状態になっていた。
「あんたね!怒られたのも勝手に暴露しちゃった事も全部自業自得だからね!!!」
「分かってるよ!だから反省してるんじゃないか!」
さらに追い詰めて来るリュナにギッ!!!と下唇を噛んで言い返したエストだったが、フン!と鼻を鳴らしたリュナに上から押さえつけられらた。
「違うね。それは『反省』じゃなくただ『落ち込んでいる』だけだからね!!どうすれば自分の良くなかった点を改善出来るか考えな!!!」
「う・・・・キツイなぁ・・・・・。」
実際エストは自分の浅はかさと思慮の無さを省みていたのだが、リュナはただ自分にダメ出しして凹んでいる息子に『反省とは前向きな事だ』と伝えたかった。
「あたしの言いたい事分かる??」
「分かるよ・・・。」
「ならいいわ!で、魔力晶石って何?」
ふんす!!と鼻息を荒くリュナに首根っこを掴まれ椅子に座らされたエストは降参するしかなかった。「はぁ・・・。」と重いため息を吐いた後、エストはバスチェナに教えられた『魔力晶石』の内容を全てリュナに話すため、妙に重く感じる上唇を上げた。
****
ボー――ッと遠くを見つめて回想しているエストを見ているドゥーエはニヤニヤしていた。
「お前のその顔見るのは久しぶりだな。」
「え?」
「ほら!あの4年生の時にリュナさんの目を盗んで「ああ!!止めてよ!!」
「クククク。」
手をわちゃわちゃ動かし、昔の話を持ち出したドゥーエを止めたエストは、腹部に手を当てプルプル震えながら笑みを浮かべている幼馴染を睨んだ。
「悪い悪い。」
「話、戻そうか・・・。」
「あ、ああ!!!それもそうだな。」
キッ!!と睨むエストにまた吹き出しそうになったドゥーエは、それを堪えて真顔に戻した。(堪えていたのはバレている。)
「・・・それで、さっきの事元学園長に伝える事は出来るかな?」
「ああ。それは問題ない。俺もお前の言う通り優先すべきはそっちだと思うしな。」
「出来れば2つ同時に破壊したいところだけど。」
「それは止めた方がいいな。二兎追う者って言うだろ?それに工業区と教会がある位置は離れすぎている。」
「うーーん・・・そうだね。」
「それに急遽の予定変更になるんだ。目的は1つの方が良い。」
「分かった。そう言えば、元学園長達はいつ頃こっちに向かってくるの?」
「ああ!それを言い忘れてたな・・・もう砦を出ていくつかの集落を落としながらこちらに向かっているそうだ。」
「え???」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます