第12話 動き出した世界~イヴァリア歴16年~

(早く出てってくれないかな・・・・。)


自業自得であるものの、カーテンの裏側に隠れているエストが焦っているのに対し、力が抜けたルアンドロはなかなか王座から腰を上げなかった。


(どうしよ・・・そろそろ始まっちゃうよな・・・。)


目を上下に動かしながらそわそわしていると、エストの耳に花火が打ち上がる音が聞こえてきてしまった。


ドーーン!!!!


ドーーーーーーーーーーン!!!


(やばいなぁ・・・もう使うしかないな・・・・。)


目を閉じ覚悟を決めたエストは、ポケットに入れていたバスチェナのスキルが籠められている魔力晶石を握り締めた。


(ごめん・・・叔父さん。使わせてもらうね。あとで直す(効力を失くしても)から・・・。)


閉じていた目をさらにグッ!!と強く閉じ、握る手に力を入れると



ピキッ!!!!!



と魔力晶石が音を立て割れた。



「ん!?!?」


真後ろから何かが割れる音が聞えたルアンドロが王座から体を起こそうと体を持ち上げた瞬間・・・




世界の時間が止まった。




鮮やかに上がった花火に歓声を上げているイリーナやクレイグ、同じく笑顔を見せている周囲にいる全ての人々、城壁の上で見張りをしている騎士も、近くに姿が見えない王を心配している王妃も全てその場で固まっていた。


「行くぞ!」


「ん?」と発してからルアンドロに動きは無く、時間停止スキルが発動したと感じたエストは、声を上げるとバッ!!とカーテンから飛び出し急いで『神の間』繋がる階段を上った。さらに空中庭園に続く扉を開いて螺旋状の階段を一気に上り、空中庭園に駆け出ると勢いそのままに空中へ高く飛び上がった。


両手を上手に使い風の魔法で急旋回すると、素早く城から離れ、城壁を越え、潜入する時に飛び立った林の中に着地した。


「よし!」


無事着地したエストは、また声を上げると立ち上がり公衆トイレに向かって走り、公衆トイレの脇から中央公園の通路に出ると、用を足し終えてトイレから出てきたと思われる男性の後ろで立ち止った・・瞬間、時が動き出す。



ドォー―――――――――――――――ン!!!!!


パラパラパラパラ・・・・・・


大き目の花火に周囲で歓声が上がると、続けてドーン!!ドーーン!!!!と花火が打ち上がる音が響いた。


「ふぅぅぅぅううう・・・・・。」


時間停止内になんとか戻る事が出来た事にエストは、深く息を吐き胸を撫で下ろした。


**


「誰だ!!!!!!」


ガタッ!!!と椅子から立ち上がったルアンドロは、振り返り音がした背後に怒声を上げた・・・・が、そこには誰もいなかった。


「・・・・??」


ドーーーン!!!ドーーーン!!!!!という花火の大きな音がする度に手を着いている王座が少し振動している。


「気のせいか・・・・花火の影響で何かが外れたのか??」


そう呟きながらルアンドロが不思議そうに深紅のカーテンを眺めていると、ガチャッ!!!とゆっくりドアを開けた騎士が中に入って来た。


「ここにいらっしゃいましたか!!」


「ああ。大臣から緊急の報告があってな。」


「そうでしたか。あの、王妃が心配されておられますが・・。」


「ああ!!そうだな!!今行く。」


式典を途中退席していたのを思い出したルアンドロは、先導する騎士に続き『王の間』を後にした。


****


腰を屈めてイリーナがいる来賓席に戻ったエストは、椅子に腰かけると打ち上がる花火に目を向けた。


「ちょっと!!どこまで行ってたのよ!!!」


「ごめん。トイレめっちゃくちゃ混んでて。」


「・・・でしょうね。」


「え?混んでるって分かってたの?」


「そりゃそうでしょ?これだけ人が集まってるんだから。」


「はは・・そうですよね・・・。」


「もぉ・・。」と呆れたような顔を向けられエストは苦笑するしかなかったが、


ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!


今夜一番の大きさの花火が打ち上がるとイリーナは目を輝かせた。


「きれい・・・。」


「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」


「すげーーーー!!!」


「凄い迫力だね!!」


周囲からも興奮する声が上がった。


「ふぅうううう・・・・・。」


無事誤魔化すことが出来たエストは、再度胸を撫で下ろすと、先程『王の間』で聞いた王たちの会話を反芻した。



それは自分にあの場で『よく声を出さなかった。よく我慢した。』と褒めてあげたいほどの内容だった。


『女神イヴァが望んでいた大きさの女神の心の原石が発掘された。』


その内容を耳にしていたエストは、カーテンの裏側で目を大きく開き、体を震わせながら拳を握りしめ、今すぐドゥーエのもとに飛んでいきたほどの衝動に駆られた。


拳を握りしめたエストは、一瞬(これを放置してみんながさらに洗脳されるくらいなら、王と報告している男をここで殺した方が神国は混乱して『女神の心』どころではなくなるのではないか?)とすら考えたくらいだった。


残酷な発想のように思えるが、アルストたちの過去を見て来たエストの思考は、大きく彼らの考えや出来事の影響を受けていた。




甘さは命取りとなる。




過去の出来事でその事をまざまざと見せられていたエストだったが・・・だが、それでもその甘さで命を落としたフレドの言葉を・・・想いを思い出したエストは踏みとどまった。


『この者たちはあの女に操られているだけなんだ・・・罪があるならあの女だろう!!!!!!!』


人族たちに剣を突き立てられながらも、アルストにそう叫んだフレドの想いを・・。







花火を見上げながら唇を噛み締め、拳を握りしめているエストは、どうすれば良かったのか分からなくなっていた。



****


その前日、アリエナから遥か西にある蛮族の砦にて


―イヴァリア歴16年7月13日―


「もう耐えるのは終わりである!!!私はこれよりアリエナにある『女神の心』を破壊すべく行動を開始する!!しかし、これは無理強いではない!!お前たちには選択肢がある。」


岩盤の上に立ったセレニー・バゼルは眼下に集まった蛮族達に向かって声を上げていた。


「これより先は命を懸けた戦いになる!!!私に・・この戦いに付いて来てくれる者は大いに歓迎する!!!!しかし、付いて来ない者を私は責める事は一切無い!!その選択を私は同じく大いに歓迎する。」


「はぁ!?!?!?何言ってんすか??ここに来た時はオレらを調教するみたいに散々電撃をくらわせておいて!!!」


「はははは!!!」


「ちげーねー!!」


「痛かったぞジジイ!!!!!悔しいがアンタの役に立ってやるよ!!!!」


「ククク・・・・俺等は誰一人欠ける事無く(女性や高齢者、子供で戦える者は除く)アンタに付いて行くよ!!!」


ゲラゲラ笑い声を上げている蛮族たちの中心にいたアルガスがセレニーにそう叫ぶと、周囲にいた蛮族たちがアルガスと同じく笑顔でセラニーに視線を向けた。


セレニーは涙を堪えながら深々と彼らに頭を下げると、踵を返し声を高らかに上げた。


「この戦いはイヴァから世界とを解放する戦いだ!!!友よ!!!!我と供に参ろうぞ!!!!!!!」


「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」」


腹の底から声を上げた蛮族たちは、セレニーに続き東にある集落に向かって歩み始めるのだった。



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