第2話 リュナへの報告 ~ 建国記念日

「で、今に至るってわけ?」


「うん。そうだよ。」


「・・・・・はぁ。」


夕食後、エストから旅の経緯報告を聞き終えたリュナはグッタリしていた。


****


まず最初に絶句したのは、プランダーエイプス約300匹との死闘の話だった。この約1年の旅の中でエストにとって一番肉体的にも精神的にも辛かった戦いがそれだった。旅立ってすぐにそんな事になっているとは思いもしなかったリュナは、話を聞くにつれ青ざめていった。


また、その一連で驚いたのは『獣人族』が密かに生き延びていた事だった。エストから内緒にするよう強く言われたため、その胸の内に仕舞いこんだリュナだったが、キツネ耳の可愛い女の子と仲良くなり、去り際にチューされた事を嬉しそうに話す息子に『コイツまたやらかしてる。』とジト目になった。


しかしプランダーエイプスとの死闘の話が重かった分、ファルナとの話は救いになった。


その後、ガラの悪い連中に絡まれながらも無事ガルシアのもとに辿り着いたという話を聞いている最中、自分が書いた地図の雑さに苦情を申し立てて来たが『だいたい合ってたでしょ!』と息子の苦情を一蹴するリュナだった。


そのまま父のもとで修練し続け帰って来たのだと勝手にそう思っていたリュナだったが、エストの話はその想像を簡単にひっくり返した。


話の中でリュナが「は?」「はぁ!?」「え???」「嘘でしょ??」と何度口にしたかはもはや不明である。


リュナが驚いたポイントはたくさんあったのだが、その中でも特に大きく声を上げた部分は


●ガルシアと修練中に『風の精霊』の加護を受けた事。

●自分に加護を与えてくれた精霊の姿が見え、声が聞こえる事。

●重力操作のスキルと風の魔法を併用して空を飛べた事。

 (実際にエストが目の前でちょっと浮かんでみせると、リュナは目が飛び出るんじ

  ゃないかと思うほど目をひん剥いて驚きを表わしていた。)

●ホロネルに向かう途中、女性を救いたいと願ったら、今度は『治癒の精霊』が加護

 を与えてくれた事。

●バスチェナに「叔父さん」、ブレナに「姉さん」と呼べと言われた事。

●グエナと再び会い、スキル『過去視past viewer』を授かった事。

●イリーナの助力を得てイヴァリアに入った事。


だった。ちなみにカリンとの再会やミナとのやり取りはニヤニヤポイントだった。

(また、今は知っても仕方ないとアルストの過去の内容は聞いていない。)


****


グッタリとテーブルに突っ伏したリュナにエストが『大丈夫?』と声をかけると、チラッと視線だけエストに向けたリュナはその姿勢のまま口を開いた。


「予想外の事が多すぎるし、内容が凄すぎるわ・・・・そりゃあ手紙を送るどころじゃなかったわね。」


「うーーん、でも今度からはちょくちょく手紙出すよ。」


「そう??でも、無理強いはしないわ。」


「ありがとう。」


「そう言えば、あたしの剣はちゃんと使えたのかしら?」


そう問いながらジトッとした視線を向けるリュナに、


「ちゃんと??ああ!!母さんの剣凄いね!!力(魔力)籠めると魔法を弾く事が出来るんだもん!!!」


と、エストは興奮しながらそう答えた。


「はぁ・・・使えたのね。ちなみにあの剣は魔法を弾くだけじゃなく斬る事も出来るわよ。」


「おおおお!!スゲェ・・まだ斬った事はなかったよ。」


「・・・もぉ・・・・・・もおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」


ガタッ!!!と突然椅子から立ち上がったリュナは胸元でギュッと拳を握り、若干反り返りながら叫び声を上げた。


「え?は??????どうしたの??????」


その奇行に驚き椅子から立ち上がったエストは若干後退った。


「あんたは何なのよ!!!!!!」


「な・・・何なのって言われても・・・。」


「父さんと母さん、マサトとあたしを足した以上の加護や能力を授かってるってどういう事よ!!!!!!!!!!!」


「何で怒ってるの??」


「怒ってないわよ。嫉妬してるの!!!!」


バンバン!!と両手でテーブルを叩く母親の発言にエストは口をポカンと開いた。


「は・・・・はぁ??」


「そりゃ息子が凄いのは母親としてはとっっっても嬉しいわよ!!!!!!そりゃあね!!!!!!でも・・・・隠密だったとはいえ1人の剣士としてはあんたの力に嫉妬するわ。それに空飛べるとか・・・羨ましい・・・。」


「・・・・・・・。」


リュナの言葉に何も言えないエストは口をすぼめて(そう言われましてもぉ・・・)という表情をするしかなかった。


「はぁ・・・そうよね。ごめん、悪かった。言いたかっただけよ。」


エストのその顔をチラッと見て、ため息を吐いたリュナは謝罪の言葉を口にした・・・が、どっか煮え切らない感じだった。簡単に言えば『ずるい!!!』と言いたげな表情かおだった。


「あはは・・・。」


それには苦笑いするしかなかったエストだったが次の会話で激しく動揺する。


「それにしても『過去視』ねぇ・・・あんた、マサトの過去はもう見たの?」


「ううん。まだだよ。勇者アルストの過去もまだ途中だし。だから、父さんの過去を見るのはまだ先かなぁ・・・。」


「そう・・・なら、一つ大きな問題があるわよ。」


「え??何??」


「マサトが初めてこの世界に召喚された場所は、アルスト城の『王の間』だったって言ってたわよ。」


「あ!!」


リュナの指摘にサーーーっと血の気が引いたエストは頭を抱えた。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!確かに物語もそう書いてあった!!!本当だったんだ!!!・・・・・どうしよ・・・どうしよ・・・・そうだ!!イリーナに「またイリーナちゃんに頼み込んでイヴァリアに入れたとしても、城の中までは入れないわよ。それに城壁から城まで確か1km以上はあるわね。白昼堂々空飛んで城に入るつもり??」


「うっ・・・・。・・・・・・・・・・。」


「困った????ねぇ、困ったの????」


ツンツン!と、言葉が詰まり固まっている息子のこめかみを突っつきながらリュナはニヤニヤ笑っていた。


「ちょ・・・やめてよ!!考えてるんだから!!!!」


その行為に苛立ったエストに破顔したリュナが助け舟を出した。


「あはははははは!!!エスト!イヴァリア国外の人族が、イヴァリアに一泊だけ出来る特別な日があるわよ。」


「え????」


「それはもう間近。」


顎に手を当て考え込んだエストは、ふとカレンダーに目を向けるとリュナが言っている特別な日の事に気が付いた。


「あ!!!分かった。7月14日の建国記念日だ!!確か夜に花火とか上げて祝うんだったよね!!」


「そう!!記念祭ね。だけどそれには招待された者しか参加出来ないし、ましてや一泊なんて出来やしないのだけれども。」


「けれども???」


「それこそウエステッドさんは毎年記念祭に招待されているはずよ。しかも一泊付きで。」


「え???本当に???」


「ええ。去年はウエステッド夫妻で記念祭に参加して来たって言ってたわ。」


「おお・・・・。」


「今年はイリーナちゃんも行くのかしらね??そこまでは分からないけど、明日行って話を聞いてきたら??連れてってくれるかもよ???」


「う・・・うーーーん。」


「どうしたの??いい案じゃない??」


名案だと思っていたが、イマイチ乗って来ないエストにリュナは首を傾げた。


「でも、どうやって?連れてって欲しいって・・・何て言えばいいのか分からないんだ。」


「は?簡単じゃない。」


「ん?」


「あんたアルスト好きじゃん!」


「は?」


「単にアルストに感謝する記念祭に行ってみたい!!って言えばいいじゃない?」


「えええええ????」


安直すぎるリュナの提案に、エストはあんぐり口を開いてしばし硬直してしまうのだった。

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