第3話 案ずるよりも
「何固まってんの?」
口を開いたまま動かないエストにリュナが首を傾げると、ため息を吐いたエストは項垂れながら口を開いた。
「だって、そんな・・・子供じゃないんだから。」
「何言ってんの。成人(18歳)前なんだからまだ子供でしょうよ?」
「まぁ、そうだけどさぁ・・・。」
「じゃあ、『過去視』のスキル使いたいから協力してくれって言うの?」
「そんなの言える訳ないじゃん!!」
「でしょう??」
「ぐ・・・。」
両手を上に向け、首を左右に振りながら『他にいい案でもあるのかい??』と言いたげな視線送って来るリュナに妙案の出ないエストは何も言い返せなかった。
「あたしも一緒に行って頭下げてやるからさ。」
「えーーー・・・・。」
「嫌なの???」
母親と一緒にお願いしに行くのが恥ずかしかったエストであったが、リュナにギロッ!!!と睨まれては「いえ、滅相もございません・・。よろしくお願いします。」と、背筋を伸ばして頭を下げるしかなかった。
「フフフ。」
下げているエストの頭をクシャクシャと撫でたリュナは、ちょっと楽しそうに笑みを浮かべていた。
「もぉ・・・どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか分かんないよ。」
「それがあたしの良いとこでしょ??」
「どこが・・。」
「あ”!?!?!?」
「・・・・。」
****
翌日
―イヴァリア歴16年7月4日―
ウエステッド商会の物販店にエストとリュナは顔を出していた。そこはカリンと一緒に腕輪を買った店だった。
「いらっしゃいませ!」
中に入るなりこの店のスタッフと思われる茶色の髪をお団子にしているメガネの女性店員が、にこやかな笑顔を見せながら2人のもとにやってきた。
チラッ
「こんにちは。」
「オルネーゼ様、いつもありがとうございます。」
チラッ
(何でこの人チラチラ見てくるんだろう?気になるな・・)
「今日はウエステッドさんはいらっしゃいますか?」
「はい。おりますよ。会長に御用ですか?」
チラッ
「ええ。急ぎではないのだけれど・・・・あ!イリーナちゃん!!!」
奥を少し覗くように背伸びしながら店員と会話をしていたリュナが、店の奥から出て来たイリーナを見つけて声をかけた。
「(・д・)チッ」
(は?この人今舌打ちした?)
「え?リュナさん!!」
(ん?リュナさん???イリーナ、前は母さんの事『おばさん』って呼んでなかった??)
「では、私はこれで。」
「あ、ありがとうございます・・。」
静かにそう呟き、ペコッと会釈したお団子眼鏡の店員は、最後もう一度チラッとエストに視線を向け元いた場所に戻って行った。
「一体何なんだ??」
困惑するエストを他所にリュナがイリーナに話しかけた。
「イリーナちゃんいたのね!!!ちょうど良かった。」
「はい。ちょっと物品の確認で・・・・ってエスト!?!?」
タタタッ♪と早足でリュナの元に来ると、そこに見知った顔があるのに驚いた。
「何その顔・・・って、いつ戻ってきたの?」
エストが『解せぬ』と言いたげな顔をしていると、さっそくその表情をイリーナにツッコまれ苦笑いを浮かべた。
「ははは・・・昨日だよ。あ!!そうだ!この前はありがとう。助かったよ。」
「この前って・・・イヴァリアの事?」
「そうだよ?」
「この前って・・・もう2か月くらい前の話よ。」
「この前はこの前じゃないか?」
「はぁ・・もういいわ。あんたと私の『この前』の感覚に大きな隔たりがある事が分かったわ。」
『何か問題でも?』という表情を浮かべるエストに、ふぅ・・と軽く諦め顔でため息を吐いたイリーナは両肩をちょっとだけ上げた。
「ふふふふ。」
「あ、リュナさん、ごめんなさい。」
「いいのよ。2人のやり取りを見るのは久しぶりだから。」
クスクス笑うリュナを見て、気恥ずかしそうにしたイリーナだったが「ハッ!」と何かを思い出したような表情を見せるとリュナの手を掴んだ。
「リュナさん!!!ちょっと来てくれますか?上に父がいますので!」
「え??どうかしたの?あたしに何か用事があるの?」
「いえ、エストが帰ってきたと早く父に知らせないと。きっと大喜びします。」
「「は??」」
グイッとリュナの手を引っ張るも、発言の意図が分からず呆ける2人を見兼ね、一度リュナの手を放しては2人の背後に回って背中を押した。
「ほら!!行きますよ!!!」
「なに?どうしたの??」
「行けば分かりますぅぅ!!!!!ほら!エストもさっさと歩いて!!!」
「?????」
頭の上に『?』を浮かべた2人は、イリーナに押されるままに店内の奥へ入っていった。
****
階段を上がると廊下の両端には幾つものドアが並んでいたが、イリーナに連れていかれたのは一番奥にある『会長室』とドアに書かれた一室だった。
「お父様!!」
ガチャッ!!と開口一番にイリーナが声を上げると、デスクで書類に目を通していたクレイグはため息を吐くと「イリーナ、ここでは『会長』と呼んでくれって言ってるじゃないか。」と目線を書類に落としながらそう話した。
「こんにちは!ウエステッドさん。」
しかし、イリーナの後ろから顔を出したリュナが挨拶しながらペコっと頭を下げると、バッ!と顔を上げたクレイグは目を丸くした。
「オルネーゼさん??どうしてここに・・・・!?!?」
「こんにちは、おじさん。この前はお世話になりました。ありがとうございました。」
そして、さらにリュナの後ろからエストが姿を現し感謝を口にして同じようにペコッと頭を下げると、今度はクレイグは椅子から立ち上がり目を輝かせ声を上げた。
「エスト君じゃないか!!!!!」
「はい。わっ!!!おじさん、どうしたの???」
「いやぁ!!!!よく来てくれた!!!」
嬉しそうにエストを抱き締め、背中をパンパン!と叩き喜びを表しているクレイグにリュナとエストは驚きを隠せなかった。
「いやぁ!!嬉しいなぁ!!」
「何これ??」
「ウエステッドさん変な物でも食べた???」
「ははは・・・・。」
2人から『何これ?』という視線を向けられたイリーナは引き攣った笑顔を浮かべていた。
****
「いやぁ。すまないね。『待ち人来る』って感じで興奮しちゃったよ。」
4人は『応接室』と書かれた部屋に移動しソファーに腰を下ろしていた。
「待ち人?」
「そうなのよ。お父様ったら、最近『エスト君アリエナに帰って来ないかなぁ。』って事あるごとに言ってたのよ。」
困ったように眉尻を下げながらそう話すイリーナだったが、間に挟んだクレイグのモノマネにエストが吹いてしまった。
「ブッ!!!あははは!似てる!!」
「でしょ?」
モノマネを褒められちょっと嬉し気なイリーナであったが、
「ごほっ!!」
と、リュナが咳払いで『止めなさい。』アピールをした。
「そ、それで、ウエステッドさん。エストに何か御用があったんですか?」
「いやね。来週イヴァリアで記念祭が行われるじゃないですか?」
「え???はい。」
「今年その招待状が3通届いたのですが、流石にまだ幼いアルマを連れて行くのはどうかと妻と話し合いましてね。結果、妻とアルマには留守番をしてもらい、私とイリーナで行く事になったのですが・・・さて、あと1通どうしようかとなりまして。」
「え??は????」
クレイグの話を聞きながら『この流れはまさか・・・まさか・・・』と待ち構えている2人に
「エスト君。一緒に行かないかい?」
とクレイグは微笑みながらそう告げた。
「「えええええ!?!?!?」」
リュナとエストは驚いて同時に腰をちょっと浮かせるも、心の中では『『キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!』』と叫んでいた。
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