第65話 諸悪の根源


ルエナの魔法について、詳しく話を聞こうと思っていたアルストの前に出たアリエナが『秘密にして欲しい』と願い出て来た。


「ん?過去に何かあったのか??」


「うん・・あ、いえ、はい。」


「あ~・・・その・・言葉遣いは気にしないで欲しい。」


「あ・・はい・・うん、ありがと。」


「ああ。ルエナも頼む。」


今度は気恥ずかしそうにしているアリエナに笑顔を向けたアルストは、ルエナにも言葉遣いを気にしないよう促すが、ルエナは「私の言葉遣いはこれが普通ですので。お気遣いありがとうございます。」と微笑む。


アルストは頷きアリエナに視線を向け直し話を続けるよう促した。


「姉さんが魔法を使えるようになったのは、あたしが昔狩りで無茶をした事がきっかけなの。」


「無茶?」


「うん。1人でキラーベアを狩ろうと躍起になって・・・返り討ちにあっちゃって。」


そう話しながらペロッ!と舌を出し重い話を軽くしようとしているアリエナに、アルストは被りを振り、ルエナは大きなため息を吐いた。


「あはは・・・それで命からがら家に帰ったんだけど結構な深手を負って・・帰った途端に意識を失ってしまって・・・。」


「それで次に目を覚ましたら傷は治っていたのか?」


「うん・・。」


「あの時は驚きました・・・驚いて、何とかしなきゃって・・・アリエナを助けたいって必死だった事を覚えています。だって、胸からお腹にかけて大きな傷を負って帰ってきたんですから。」


ルエナはそう言ってキッ!!と強い視線をアリエナに向けると彼女は口をへの字にして肩をすくめた。


「・・・。」


「ですが、狩りが苦手な私は自分に怒りを覚えました。それと情けなくもなりました・・・。私は何も出来ない・・・狩りも・・・妹を救う事も・・・。」


「姉さんには家の事をして貰ってるから気にしなくて良いって言ってるのに。」


自分を責めるようにそう語るルエナに、アリエナが口先を尖らせながらそう告げるもルエナは首を左右に振った。


「それでも、命懸けで狩りをしてくれている妹には頭が上がりません。私はそんな妹が『姉さん、ごめん。』と大きな傷を負って床に倒れたのを目にして気が動転しました。ある程度の傷の手当なら出来ますが、アリエナが負った傷は大きくて・・私では何もできないのはすぐに分かりました。ですが、それでもどうにか・・どうにかアリエナを助けたい・・・私の命と引き換えでもいい・・・誰か・・・・どうか・・・そう祈ったら・・・手から光が溢れて来たんです。」


「ルエナの言葉に精霊が応えたという事か。」


「言葉というより・・・『思い』に応えてくれた・・ような?・・・何となくそんな感じがします。」


アルストの言葉に対して口を開いたルエナだったが、言葉途中で少し首を傾け思考を巡らせるも、結局『何となく』という不明確な回答になってしまった事を気まずく思い、話終えると眉尻を下げアルストを見上げた。


「そうか。ルエナがそう感じたのなら、そうなのだろう。」


「アルスト様・・・。」


しかし、アルストはその事を意に介さずルエナの言葉に納得したようだった。と、言うよりもアルストにとってその部分はそれほど重要じゃなかった。だが、ルエナにとっては自分が『何となくそう感じたこと』をそのまま受け取ってくれた事を喜ばしく感じていた。


「それで、あたしが目を覚ましたのはその2日後だったんだけど・・・あたしが深手を負って帰って来ていたのを数人に見られていたの。」




****


―ルエナが治癒の精霊の加護を受けた2日後―


「ん・・・んん・・・・・・・・・・・・・・・え!?!?姉さん!?」


目を覚ましたアリエナは、自分の胸元で布団に顔を埋めて眠っている姉を目にして驚きの声を上げた。


「あたし・・・・死んだんじゃ・・・・。」


「う・・ん・・・・・。」


アリエナの声に目を覚ましたルエナは寝起きでボ―――ッとしているも、目覚めているアリエナに気づくと目を大きく見開きガバッ!!!と妹に抱き着いた。


「アリエナ!!!!あああああああああああ!!!!!良かったぁああああああああああ!!!!!!!!!!」


「姉さん・・・あたし・・・どうして生きてるの??」


「うええええええええええええええええええええ!!!目を覚まして良かった!良かったよぉおおおおおおおおお!」


泣きじゃくる姉に助けられたのだと理解したアリエナは、姉が泣き終えるまで背中をポンポンと優しく叩きつづけるのだった。


****



「なるほど!その後元気に姿を現わしたアリエナを見て、ルエナの魔法に村人たちが気づいたんだな。」


「うん・・。『どうやって治したんだ??お前が大怪我していたのをちゃんと見ていたぞ!!』って問い詰められて・・・。」


「それで村の者達から怪我をする度に頼られるようになったのか?」


「それだけなら良かったの。どうしてか、姉さんの魔法は『何でも治せる。』って思われてしまっていたの。」


「私の魔法は、傷や毒には効果があるのですが、病はどうしても癒せなかったのに・・・・。」


「そうか・・・人の噂は尾ひれはひれが付くからな。」


アリエナの話に顔をしかめたアルストは呆れるようにため息を吐いた。


「それから『自分も治せ、病を治せ、どうして治してくれない。』って大変だったの。」


「それに対して何もしなかったのか??」


「まさか!!!あたしが追っ払ってやったわよ!!!」


アリエナはそう言うとフンス!!!と鼻息を荒くした。


「くくく。そうだろうな。」


「そうね。でも本当にアリエナがいなかったら、私はどうなっていたか分かりませんでした。」


「まぁ、それも『混ざり者』呼ばわりされるようになったら、誰も近寄らなくなったから良いんだけど・・・でも、別の人々にまた姉さんの魔法の事を知られたらって思うと・・・。」


(フフッ・・・コロコロと表情が変わる子だな。それにしてもこの姉妹は互いを思いやる良い姉妹だな。)


頑張るポーズを取って鼻息を荒くしたかと思えば、今度はルエナを心配するアリエナを見て少し微笑んだアルストは大きく頷くと口を開いた。


「分かった。それでいい。」


「「え?いいの??(ですか?)」」


「はははは!!さすが姉妹だな。所々で同じ言葉を発する。」


「「・・・・。」」←互いに顔を見合わせて恥ずかしそうにしている。


「はは!まぁ、死んでもおかしくなかった傷を癒してもらったんだ。何にせよ大恩ある者が困るような事はしないさ。」


「そんな!!そもそも私が村に入らなければ・・。」


「その問答は終いにしよう。兎に角、俺はルエナの魔法を口外しない。約束だ。」


「ありがとうござい・・・あ!!」


アリエナがアルストの誓いに安堵の表情を浮かべた途端、村がある方向から何かが崩れ落ちるようなガラガラガラガラ!!!!という大きな音が聞こえてきた。


「ああ・・・。」


3人が同時にその方向に目を向けると、最後の燃焼だろうか・・・・一時だけ明かりが強まったように見えた。


「村は終わりですね。」


夜空を照らす明かりに視線を向けていたルエナがそう呟いた。


「ああ。2人の故郷を守れなかった・・・すまない。」


「いえ!あたし達は元々あの村から逃げ出した者です!!気にしないで下さい。」


アルストが申し訳なさそうにそう口にするが、すかさずアリエナがアルストの手を取り笑顔を向けると、ルエナも逆の手を取り口を開いた。


「ごめんなさい、アルスト様。そういうつもりではありませんでした。私にはもうあの村への思い入れはありません。むしろ良くない思い出の方が多くなっている気がします・・・・だから、村の終わりを確認しただけで・・・冷たいようですが、悲しい気持ちはあまりありませんでした。」


「そ・・そうか。」


「ですが・・・私たちが最も嫌悪するのは、あの女神と名乗る者の方です。村人たちがおかしくなったのはあの女のせいですから。」


「うん。あいつに操られて仲良くしていた子供たちに『混ざり者』と石を投げられた恨みは忘れない!」


「そうか・・・。」


2人の言葉に目を閉じ天を仰いだアルストは、先程自分に向かって『諸悪の根源だ!』と叫んでいた・・・斬り捨てた名も知らぬ少年を思い浮かべると「やはり諸悪の根源はあの女だ。」と小さく呟いた。



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