第44話 基盤②

「はぁ・・はぁ・・・・もう・・無理・・・・・」


「こんな事なら田んぼを耕して方が良かったよぉ!!」


「おらぁああああああ!!!!もたもた走るなぁあああ!!!」


「わぁああああ!!!団長が来たぞぉおお!!!」


「もうやだぁあああああああああああああああ!!!」


こん棒を持ったアルストが生き生きと楽しそうに笑顔を浮かべながら、重そうなリュックを背負い苦悶の満ちた若者たちの後ろを追いかけていた。


しかし、当のアルストはそのリュックを5つ背負っていたのだった。




****




アルストから差し出された木板を手に取ったゾラは目を大きく開いた。


「こ・・これはこの地を現わしたものですか??それに・・・これは・・・。」


「そうだ。地図と言う。」


「この線は川ですね。こっちの線は何ですか?」


コルニ―が大きく弧を描いた太い線をなぞり、それが集落の西側に流れる川だと理解を示すと川の左側にある円の中に縦横に線が引かれている図に着目した。


「ああ、これはこれから作る拠点を現わしているんだ。」


「え?」


「これから作る??」


「そうだ。これから川の向こうに新しい集落を作る。」


「そ、、その理由を教えて貰えますか?」


ジーッと板版を見つめながら難しい顔をしているゾラがアルストに問い掛けた。


「まず、魔族たちは東側から来る。魔族の拠点は東側にあるのだろう。」


「はい!!その通りです!アルスト様!!」


「お、おい!!」


ゾラから板版を取り上げたコルニ―がテーブルに板を置くと、アルストが描いた川の東側に木のような絵を描き始めた。


「こ、、ここが魔物が沢山住んでいる・・・私たちが『魔物の森』と呼んでいる場所で、ここの奥に魔族たちの住む集落があるんだと思います。」


「そうか!!ありがとう!なら、尚更川向に集落を築く必要があるな。」


「どうしてですか?」


「魔族と何度か戦ったが、空を飛ぶ者以外はあの川を飛び越えれるような身体能力を持っている者はいないように思う。俺も飛び越えれそうにないしな。」


「は・・はぁ・・・。」


なぜか自信満々な顔をしているアルストに、首をさらに傾けたゾラが何とも言えないような煮え切らない相槌をする。


「分からないか??こちら側に集落を作れば川が俺たちの防壁になってくれる。」


「あ!!ですが、私たちはこの川の流れを使って田に水を引いています。こちら側に拠点を移すなら、毎日あの流れが速い川を渡らなくてはならなくなります。」


「ああ。だから・・。」


アルストは図に描いた川の上流から線を引き始めた。


「ここに・・・人口の川を作る。」


「え!?」


「なぜ驚く?ここにも人が手を加えた水路があるじゃないか?」


「いえ、あれは本当に小さいもので。」


「確かにあれは川の流れを利用して最小限に水を流しいれ、各田に水を繋いでいる素晴らしい知恵だ。あれは誰が考えたんだ?」


「あれは私が生まれる前からそうなっていました。」


「そうか。ゾラたちの先祖は賢かったんだな。」


「あ!ありがとうございます。」


「だが、前のままの状況ならそれでいいが、今は集落を魔族から守るという事が第一になってくる。俺もこれからこの地を離れる機会が増えてくるだろう。だから今の内なんだ。」


「今の内???」


眉間に皺を寄せたアルストの発言に今度はコルニ―がクリッとした目をパチパチさせながらキョトンとした表情を浮かべた。


「ああ。魔族側も今は統一が取れていないようだ。これまで俺が魔族と戦った状況は一対一のみだ。もし、今後魔族たちが結束して多勢で攻めて来たら・・・きっと俺だけでは守り切れないだろう。」


「え!?ああ・・・・でも!!!!ずっと魔族達は結束しないかもしれないですよ?」


魔族達が一斉に襲い掛かってくることを考えたくなかったコルニ―がアルストに詰め寄ったが、アルストは首を左右に振りながらため息を吐いた。


「気持ちは分かる。そうなるかもしれないが・・・例えば集結出来ずに魔族間で同士討ちがあったとする。」


「はい。」


「その間は良い。だが、その後はどうなる?結果、魔族間で勝利した者達がこちらを攻めてこないという確証があるのか?」


「!?!?・・・・・・いえ、ありません。」


アルストの説明に視線を下に向けたコルニ―が小さく言葉を返した。アルストはそんなコルニ―の側に寄り背中をポン!と軽く叩いた。


「まぁ、どちらにせよ。この集落に人がもっと集まってくるだろう?そうなればもうこの集落では受け入れきれなくなる。」


「は・・はい。」


「この集落を大きくする事でそれに備える事は出来るだろうが、どうせなら人々が安心して暮らせるしゅう・・・いや、国を作りたい。」


「国・・。」


アルストとコルニ―の話に耳を傾けていたゾラが声を発した。


「ああ。国だ。今はその基盤作りでしかないがな。」


「人族が安心して暮らせる場所。」


「そうだ。」


「分りました!やりましょう!!」


アルストの目をしっかり見据えたゾラが力強く頷いた。


「ああ!やろう!!」


「はい!」


「なら、まず質問がある。」


「何でしょう?」


「この集落の上水、下水はどうなっている?」


「じょうすい?げすい?ですか??」


「あ!飲み水と排便などの処理はどうなっているという事だ。」


「ああ!!!はい。飲み水に関しては水の魔法を使える者によって確保しておりましたが、今はその人数が足りておらず、ちょうど飲み水の確保も問題の一つになっておりました。」


「やはりそうか!下水はどうだ?」


「まず『げすい』というものがよく分かりません。」


「ああ。そうか!!下水とはな!「アルスト様!私にも教えてください。」


「お!?ああ!!!そうだな!!」


夢中で話をし出した2人を嬉しそうに見ていたコルニ―が、身を乗り出し話に交じって来た。


その後、日が明けるまで2人と話し合い続けたアルストは次の日、ゾラとコルニ―の手を借りて国造りに着手し始めるのだった。その始めとして集落にいる人々の長短を見極める必要があった。


そのため、アルストは時間を掛けてゾラとコルニ―にそのノウハウを伝えると、その3日後に意を決したアルストは人族たちの前に立ち、今後の説明をする事を決めた。





しかし、アルストが不安を抱いていた問題はイヴァが打ち消していた。アルストが召喚された後、イヴァは人族たちの前に姿を現わしては勝手にアルストを『私の使いの者』と称していたのだった。


それ故に女神の使いとイヴァ本人から聞いた人族たちは、無論イヴァと同様にアルストを崇拝していたのだった。そのおかげで「この若造が!!」とか言われると思っていたアルストは、予想以上に苦労する事無く役割分担を決める事に成功したのだったが、当然アルストはそれを面白く思ってはいなかった。


しかし、それはイヴァも同じだった。


思うようになる事が、逆にイヴァの掌の上になっていると感じていたアルストに対して、自分のスキルは効かず、自分の言う事をまったく聞こうとしないアルストを『私の使いの者です。』と発する事を面白く思っていなかった。


『北にある集落に、「アルスト・レインフォール」という者がおります。その者は私がこの地に召喚した私の使いの者です。そして、アルスト・レインフォールはこの地で唯一魔族を屠る事で出来る勇者です!!どうか皆さん!!!!北の地に向かい私の使いの者の力になってあげてください。』


慈悲に溢れるような表情を浮かべながら、『魅惑』のスキルを使用して人族たちにそう訴えかけるイヴァの胸中は憎悪に満ち溢れていた。


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