第43話 基盤①
「よし。始めるぞ!」
「「「「はい!!」」」
ズラッと横一列に並んだ若者たちの前に、アルストは仁王立ちしていた。
****
―数日前の夜 ゾラの家にて―
「『きしだん』・・・ですか??」
「ああ。『騎士団』だ。」
ゾラとゾラの孫娘のコルニ―は揃ってキョトンと首を傾けていた。
「俺がいた世界では、自分たちの国を・・いや・・・・そうだな、自分たちが住んでいる村や家族を守るため、外敵と戦うのを生業とする仕事があるんだ。俺もそれを生業としている一人だった。」
「それが『騎士』ですか?」
「そうだ。」
「そのために魔法を使える人と魔族と戦いたい人を集めるんですね。」
「そうだ。」
アルストはゾラとコルニ―の問いかけに対して同じように頷き返すと、用意した板材に墨を利用し図を描き始めた。
「しかし、それでは農耕や狩りに当てる人数が・・・アルスト様??何を書いていらっしゃるんですか????」
アルストの提案に不安を感じながらもアルストが書いている図にを覗き込むと、ゾラはすぐ興味を示した。
「今、この集落には人が多く集まってきていざこざが増えているのだろう?」
「え?は、はい。」
「その原因は人が集まり過ぎた事による食料不足、住まいの確保という生活基盤の問題からそれぞれの掟の違いから来る摩擦・・等など様々あるだろう?」
「はい。その通りです。」
「再度確認するが、お前たちが女神と称えるイヴァから南からくる人々に対して何と言われていたのだった?」
会話を続けながらゾラに目も向けず図を描き続けていたアルストはそのまま振り向きもせずゾラにそう問いかけた。
「あ、はい。『南の集落から人々が沢山この集落に集まってきますから受け入れてあげなさい。』とお告げいただきました。」
「それで・・・この集落の長であるお前は何をした?」
「はい??ですので、イヴァ様の御言葉通りに受け入れております・・・。」
「が、問題は山積み何だろう?」
「はい・・・・おっしゃる通りで・・・。」
「なら、決まりだな。」
そう言って図を書き終えたアルストは、パン!!と板版を叩いてから視線をゾラに向けた。
「決まり・・ですか??」
「ああ。あなた方は女神と称えるイヴァのめいれ・・・いや、お告げ?通りに行動はするが、それ以外は自由と見える。」
「・・・・。」
笑顔でそう話すアルストに戸惑ったゾラだったが、アルストは続けて語る。
「確かにイヴァは『受け入れろ』とは言ったかもしれないが、『働かせるな』とは言ってないだろう?」
「あ・・・。」
「ゾラは真面目で面倒見が良いな。使命感もある。」
「え・・・は???」
「それは長所ではある。だが、どうして受け入れる側が来た側の食事と寝床の面倒を見る必要があるのだ???来た者達はそれを求めていたか??話を聞いたか??」
「いや・・それは・・・イヴァ様が・・・。」
急に体温が上がったように感じたゾラは、額に溢れ出した汗を拭いながら説明しようとするも言葉を上手く繋ぐことが出来なかった。
「人手は沢山ある。ならば働かせろ!」
「え・・・あ・・・。」
「もう一度言う。イヴァ様は『受け入れろ』とは言ったが『働かせるな』と言ったのか??」
「い・・いえ・・そう言ってはおりません。」
アルストの言葉に視線を下に向けながらも正直に回答するゾラに微笑んだアルストは話を続けた。
「だろう?南から来た人々に話を聞いたが、
『イヴァの言う通りに訪れたはいいものの何をしていいか分からない。』
『農耕を始めたいが勝手に耕していいのか分からないし、やりたくても道具が足りない。』
『いつまで野宿のような生活が続くんだ。』
『元の所にいた方がお腹いっぱい食べれた。』
と好き勝手言ってたぞ?」
「ぐ・・・・・・それは私の不徳の致すところ・・・。」
拳を握りしめ悔しそうに震えているゾラに構わずアルストは話を続ける。
「いや、それはゾラの不徳ではない。南から来た人々から話を聞き続けたところ、川向にある土地は『農耕に向いている土地だ。』と教えてくれた。」
「な!?もしやアルスト様が彼らに教えを請いたのですか?」
「そうだ。」
「ど、どうしてそん「ゾラ!!!!!!!!!」
「!?!?!?」
アルストの行為に戸惑い、反論しようとしたゾラの言葉をアルストの怒声が制止した。
「声を荒らげてすまないゾラさん。改めて言わせてもらいますが「アルスト様!!!!!!「聞け!!!!!!!!!!」
丁寧な口調に戻ったアルストをまたゾラが止めるよう声を上げるが、再びそれ以上の怒声でアルストがゾラの言葉を止めた。
「あなたは、俺を神や神々の使いのように扱ってくれますが、俺は戦う事と物と作る事には長けています。しかし、知らないモノは知らないんです。」
「し・・しかし・・・。」
「あなたが言う通り、他の者たちの前ではそれ相応の態度と言葉遣いをします。だけど、俺はイヴァに召喚されはしたものの、神の使いではありません。あなた方と同じように血は流れ、寿命はあり、そして分からない事は分からない・・・あなた方と同じ存在です・・・あ、ですがあなた方が知らない知識は沢山ありますよ。」
「あの・・アルスト様はそのままで良いのではないのですか??どうして口調を変える必要があるんですか??」
2人のやり取りを小さい口を大きく開けて見ていたコルニーが、意を決してピッ!!と手を上げるアルストに質問を投げかけた。
「統率のためだよ。」
「統率??」
「ああ、ゾラやコルニ―は俺が『こうしてもらえるかな?』と優しく言えば喜んでやってくれるだろう?」
「それは勿論です。」
「ありがとう。だが、他の土地から来た者達・・・特に召喚を目撃していない他から来た長たちや若者たちが、そんな弱弱しい俺の言葉を素直に聞いてくれるかな?他の土地を統率していた長たちは、こんな若造の言葉を聞いてくれるのかな??確かにイヴァの召喚者であるというのは大きなメリットにはなるかもしれないが・・・それに慣れてきたら??」
「あ。。でも。。イヴァ様から『勇者』と呼ばれるアルスト様ならきっとみんなは。」
「きっとではダメなんだよ。確実にそうしていかないとこの世界・・いや、人族は滅びる。」
「!?」
「魔族の力は強大だ。だから、その力に対抗するにはこちらは結束し、力を合わせるしかない。イヴァもそう考えてここに人々を集めているんだろう。(あの女の手伝いをするようで癇に障るが・・・致し方あるまい。)」
そう思考を巡らせながら片目を瞑り、歯を食いしばりながら顔を歪ませたアルストが絞り出すようにそう口にしたものの、俯き悲しそうな表情を浮かべているコルニ―に気づくとパッ!と顔を笑顔に戻した。
「すまない。これは人々が笑顔になるための話なんだ。」
「みんなが・・笑顔に??ですか??」
アルストの言葉を聞き、後頭部の左右で小さく結んだ茶色の髪を揺らしながらコルニ―が俯いていた視線をアルストに向けると
「そうだ。そのために俺は知恵と力を示す。」
とアルストは大きく頷き、板に描いた図を2人に差し出した。
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