第45話 基盤③ ~ガルニという男~
「その通りだ。これまで一人で色んな事をやらなくてはならない状況から、その役割をその区域区域に住む人々の得意分野に合わせて分担しながら効率よく行う。」
「おお!なるほど!!」
村人たちの前に立ち、新しい街づくりの賛同を得たアルストは集落の人族たちに話を聞き周り、頭がいいと言われる人物たちをゾラの家に集めていた。
『本当に面白くないわぁ・・・・。アルストォォオオ・・今に見てなさい・・・・・。』
上空からその様子を見ていたイヴァがそう呟くと、ぷっくりとした下唇をギリッと噛みながら怒りに満ちた顔でアルストを睨みつけると・・・・
「あああ!?!?!?」
「ど、どうしたのですか??アルスト様???」
より詳しく新しい街づくりの説明をしていたアルストだったが背筋に悪寒が走り、いきなり大きな声を上げてしまった。
「い・・いや、すまない。(何だったんだ??今の寒気は・・・)」
一瞬の悪寒にブルッと震えたアルストだったが、動揺している村人たちに目を向けるとブンブン!と首を左右に振り説明を続けた。
****
その頃・・・
アルストがいる集落から西北にある森の中を歩いている人族の集団があった。
その先頭に立つ背丈2mはある大男の名前はガルニと言った。
その男は細い目の奥にその野心を滾らせ、真っすぐアルストがいる場所に向かって歩いていた。
****
その2日後、森を抜けたガルニは目前に流れる川の対岸に集落を見つけると、ブラウンの短いツンツンした前髪の下に額の大きな傷跡を中指でひと撫でし、太い眉毛の下にある細い目をさらに細めた。
この男はガルニという男はこの時代には珍しく野心に溢れている男だった。
イヴァが現れる前までのガルニは、現状維持を良しとする長に成り代わり、人族を集めて集落を大きくし、そこを治める事を目標にしていた。簡単に言えば『王』のような立場になる事を目指していた。
しかし、イヴァが初めて集落に姿を現わした瞬間ガルニの心は鷲掴みにされた。
『こんなに美しい人がいるのか・・・。』
ガルニの理想を超えた美貌を持つイヴァに一発で惹かれたガルニは、『魅惑』のスキルを使われる前からイヴァの虜になっていた。
さらに『魅惑』されたガルニは率先してイヴァの言う通り獣人族を追いやり、敵わずとも勇敢に訪れる魔族に立ち向かっていた。
それは自分が慕う、絶世の美女に認められるために、触れられなくとも見初められるためだった。
そんなガルニにとって、魔族との戦いの中で負った額の傷は女神のために戦ったという誇りになっていた。
何かと額の傷跡を中指で撫で、ニッ!と目を細めるのだった。
しかし、先日・・・・再び自分の目の前に現れた愛しき女神が
『ここから南東にある集落に、「アルスト・レインフォール」という者がおります。その者はこの地に召喚した私の使いの者なのです。そして、そのアルスト・レインフォールはこの地で唯一魔族を屠る事で出来る勇者です!!どうか皆さん!!!!南東の地に向かい私の使いの者の力になってあげてください。』
と両手を組んでそう言うのだ。
ガルニはアルストに嫉妬した。
イヴァを心底愛しているからこそ、『魅惑』による命以上に激しくアルストに嫉妬するのだった。しかし、イヴァの命には従がわなければならないガルニは
(イヴァ様が言う集落に向かい、アルストとかいう男より俺が強い事を知らしめる。)
という自分本位な目的で移動する人族たちの先頭に立っていたのだった。
「この川の向こうに見える集落のどこかにアルストという男がいるのか?」
そしてアルストがいる村の対岸に立ったガルニは、そう口にすると鼻息を荒くして川を渡り始めた。
「行くぞ!!」
「ああ・・・・。」
ガルニと同じようにアルストの存在を面白くなく思っているイヴァに惹かれた集落の男性たちも息巻いて川を渡り始めた。しかし、川の流れに少し足を取られたガルニは後方に顔を向けると大声を上げた。
「む!!なかなか勢いがある川だ!年老いた者や女は男に捕まり、男は子供達を背負って川を渡れ!!!!」
「わ、わかりました。」
「えーーん、怖いよぉ・・・。」
「はぁ・・・無茶を言うのぉ。」
しかし、ガルニの掛け声にため息を吐いてぼやく老人に対して非難するような視線を向けたガルニが
「ん?アルスト・レインフォールに合流しろという『イヴァ様のお告げ』に逆らうというのか??」
と言うと、老人は顔を歪めた。
「いや・・そう言う訳ではないのじゃが・・・・分かった。行くわい。」
渋々足を進める老人を一瞥して前を向いたガルニは川の中ほどまで順調に川を渡り歩いていた。
しかし、ここでガルニにとって予想外の出来事が起こる。
背中に蝙蝠のような大きな羽を生やし、浅黒い顔の額に2本の角を生やした魔族の男が姿を現わせたのだった。
「ハハァ!!!アルストとかいう男の前に、景気づけにあいつらを皆殺しにするかぁ。」
ニヤッ!!と笑い舌なめずりしたその魔族は、二股の長い槍を手にしてガルニたちに襲いかかった。
「くっ!!!こんな時に魔族か!!!!」
背中に備えていたこん棒を手にしたガルニが、向ってくる魔族の男に合わせてそのこん棒を振り下ろす・・・が、ヒョイと躱した魔族はガルニの背中を蹴り飛ばした。
「ぐあ!!!」
バシャァア!!!
川の中に前のめり倒れたガルニはこん棒を手放してしまった。
「あわ、あわわわ!!!!」
少し流されるが、何とか堪えて立ち上がったガルニだったが、背後の叫び声に細い目を大きく開いた。
「あああ!!!!」
「誰か!!!」
「わっ!!たす・・おぼ・・・・・。」
魔族の男の襲撃により、慌てた男性が川に倒れしまったため、背負っていた男の子が川に流されてしまっていた。
「いやぁああああああああああああ!!」
男の子の母親と思われる女性が叫び声を上げ川に身を投じると、対岸から走ってきたアルストが飛び上がった。
アルストはザボンッ!!!!と川の中ほどまで跳躍すると、男の子を下流で待ち構えると見事に抱き上げ救出するのだった。
「大丈夫か??」
「あ・・・ありがとう・・・。」
「あ・・。」
「う・・ぶぶっぶ!!!!!」
「ん!!!!」
さらに、アルストは男の子を救おうと川に身を投じた母親が流されてくるのに気づくと片手で捕まえ女性も救出した。
「な・・なんだ・・・アイツは・・・・。」
その様子を唖然と見ていたガルニにだったが、それ以上の出来事を目にする事になる。
「ほほぉおおおお!!!!」
上空を旋回した魔族の男は、その男に目を付けると槍を構えて突っ込んで来た。
母親に男の子を預けたアルストは、ザウ!!ザブ!!と少し川に逆らに足を進めて剣を抜いた。
「らしくなって来たじゃないか!!」
アルストは魔族の姿を目にすると『前の世界で吸血鬼が出てくる話』を思い返してニヤッ!!と笑った。
「死ねぇええええええええええええええええ!!!!!」
大きな叫び声を上げながら向かってくる魔族に向かって、剣の腹を掲げたアルストは思い切り川の水面に剣を叩きつけた。
ズパァアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!
するとその衝撃により、大きく、大量に水しぶきが巻き上がった。
「ぬが!!!何だぁああああ!!!!」
魔族の男はその水しぶきに目を眩まされて苛立つが、ガルニは口を大きく開きながら飛んでいる魔族のさらに上に跳躍したアルストの姿に目を奪われていた。
「ふっ!!」
そして跳躍したアルストは、軽く息を吐きながら陽の光で輝く剣を一気に振り下ろした。
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