第40話 面白い魔族
青い髪をオールバックにした魔族の男に眉は無く、彫りの深い目は赤くギラついていた。そして、尖った鼻の下にある大きく開かれた口からは、水魔法を打つ度に吠声が放たれていた。
「おらぁ!!!おら!おらぁああ!!!!」
ドパァアア!!!
「ぐあっ!?」
ギリギリ水魔法を躱し続けていたアルストだったが、逃げ場を失い水の壁に飲み込まれると背後にあった大木に背中を打ち付けてしまった。
ザァアアアアアアアア・・・・
倒れたアルストの周囲で弾けた水が地面に吸い込まれるように消えていった。
「ぐ・・うう・・・。」
「ハハァ!!やっと当たった。」
ニタリ!と笑った魔族の男は顔の見た目に似つかわしくない、青と黒を基盤にした装飾が施されたローブに身を包んでいた。
「おらぁ!!!もう一撃だ!!」
魔族の男が追い打ちをかけるように『
スキル『
発動後、両脇に着けた両手を地面に突き出すと高さ2m程の迫りくる水の壁を飛び越えた。
「おお!!すげぇ!!!!」
飛び上がったアルストを見上げた魔族の男が嬉しそうに声を上げると、両腰に携えていたショートソードを抜き構えると、アルストに向かって駆け出した。
「おおおおおおおおおおお!!!!!」
「双剣か!?」
着地したアルストは剣を抜いて迎え撃つ。
「らららららららららぁあ!!!!」
キキキキキキキキキィイン!!!
魔族の男が素早く双剣で突きを繰り出してくるが、アルストは余裕で捌ききると剣を振り下ろした。
ギィイイン!!!
「動きは速いが一撃一撃が軽いな。」
「ぐ!」
双剣を交差してアルストの一撃を受け止めた魔族の男が、アルストの剣圧に耐えるように歯を食いしばっている・・・が
「なら、これは軽いか??」
口の片端を上げて笑うと交差した剣から水が溢れ出した。
「何!?!?」
『
「うあああああああああ!!」
水の壁に弾き飛ばされたアルストが地面に転がる。
「お前、魔法が使えないんだな。スキルが使えるようだから魔力はあるんだろうが。」
「ぐ・・・魔力??俺にもあるのか??」
「ははは!!そんな事も分からねぇのかい。」
「ああ。この世界の初心者でな。」
「くくく。面白い奴だな。」
****
『アルスト様、魔法を使える者はそれぞれに精霊から力を借りる事で、魔法を使えるようになるんです。』
****
ゾラの孫娘に魔法が使える理由を教えて貰った事を思い出したアルストは、膝に手をかけ立ち上がると魔族の男に話しかけた。
「つまりお前は水の精霊の力を借りているって事か。」
「あ?精霊の事は知ってるのか!?知識があべこべだな。」
「そう思う。」
「ははは!!!認めるんかい!!!!!」
腹部に両手を当てて反り返りながら笑い声を上げた魔族の男だったが、態勢を戻してアルストを睨みつけると再び双剣を構え地面を蹴った。
「うらぁ!!!!!!」
「同じ手は食わん!」
再び双剣の突きを捌きながら、今度は繰り出される水魔法を躱すと魔族の男から距離を取った。
「逃げるの上手いな。」
「それは嫌味か?」
男の水魔法によって、なぎ倒された木々を見渡したアルストは、改めて村の外に誘い出したのは正解だったと思いながら剣を鞘に収めた。
「ん??降参か?」
男が怪訝そうにアルストに問いかけるが、アルストは目を閉じていた。
「はあ!?敵の前で何やってんだてめぇは!!!!」
目を閉じた真意を測れるわけが無い魔族の男は怒声を上げるとアルストに飛びかかった。
「さて・・・この世界にいる精霊たちよ・・・俺に力を貸してくれるだろうか??」
両手を広げてそう呟いたアルストは、その問いかけに応えるよう魂が熱くなるのを感じた。
「何かが魂に・・・火か!?」
「あ???」
パッ!と目を開けたアルストが目前に迫っていた男に左手をかざすと、『掌から炎が噴き出る』イメージを頭に描きながら「力を貸してくれ。」と呟いた。
ボ・・ボアアアア!!!!
アルストの掌から直径60cmほどの炎の玉が飛び出した。
「小さい・・・が、十分か!?」
「う!?わぁ!?ああああああああああ!!水牢!!!!!」
アルストが思い描いたような火炎放射にはならなかったものの、真正面から飛びかかっていた魔族の男には十分だった。面を喰らった男はまともに炎を体に受けると、ローブに火が付いた。
火に慌てた男は自らを水の牢に閉じ込め消火したのだった。
「おお!そんな事も出来るのか!?」
バシャアアアア!!!
『水牢』を解いた男はギリギリと歯を食いしばると狂ったように声を上げた。
「お前ぇえええええええ!!!俺を騙しやがったのかぁああああああああああ!!!!!」
「いや、騙してはいない。」
「嘘つけぇええええ!!!火の魔法を使いやがるじゃねーかぁああ!!!!!」
「いや、今使えるようになったんだが。」
眉間に青筋を立てて叫ぶ魔族の男に対して冷静に事実をアルストは告げが
「騙されねぇぞ!!!!ふざけやがって。」
と、怒鳴ってプルプルと顔を下に向け体を震わせている魔族の男にアルストはため息を吐いた。
「はぁ・・・・・。まぁ、いいか。むしろやりやすくなったな。」
冷静を欠いた魔族の男に止めを刺すべく、被りを振るもスキルを発動して剣に手をかけたアルストが顔を上げると、魔族の男は目の前から姿を消していた。
「は?????」
アルストがその状況に呆然としていると
「ばぁあああか!!相性が悪い相手とこれ以上戦わねーーーよ!!!!」
と、森の中に逃げたと思われる男の姿は当然見えないはしないが、そう叫ぶ彼の声だけが聞えて来た。
「くっ!!!あははあはははは!!!!」
スキルを解除し、剣を鞘に収めたアルストは思わず笑ってしまった。
「何だ。興奮したのかと思いきや予想外に冷静じゃないか。しかし面白い魔族だったな・・・・そう言えば元の世界にもあんな奴はいなかったな。」
目を拭ったアルストはそう呟いて微笑むと、彼が去った方向に背を向け、村へと足を進めるのだった。
****
「ご無事で何よりです。」
「ありがとう。だが、逃げられてしまったよ。すまない。」
帰って来たアルストに頭を下げて村に向かい入れた、髭を蓄え体つきの良い中年の男性が顔を上げると、残念そうな表情を見せてアルストが戦いの結果を報告した。
「え?逃げたんですか?」
「ああ。逃げられてしまった。」
アルストの答えに口をOに開いていた男性はクシャ!!っと破顔した。
「はははははははは!!!あの魔族・・・逃げたんですか!!流石ですな!!!ひーひっひっひっ!!!!」
膝を叩きながら大笑いしている男性にアルストは唖然とした。
「笑うが・・良いのか?逃げられたんだぞ!」
「いえ、これが笑わずにいられますか!あれだけ自信満々に『俺と勝負しろ!』とほざいた魔族が逃げ出したなんて・・・ははははははははははは!!!」
「フッ!!!それもそうだな。」
「ひーーーーー!!!ひっひっひっ!!!!!」
「くくく、もう笑うのを止めてくれルーバス!!」
引き笑いを続けるルーバスと呼んだ男につられて大笑いしそうになったアルストは堪らず制止した。
「ひっ!!ひっ・・・すいません。あまりに可笑しくて・・・・しかし、アルスト様、魔族を追い払ってくださり感謝します。」
茶色の太い眉毛の下にあるクリッとした目を男が細めた両目をこすると、あらためてアルストに頭を下げて礼を言った。
「いや、確実に倒せずすまなかった。」
「いえ、十分ですぜ。」
首を横に振ってルーバスの肩に手を乗せたアルストがそう返すと、ルーバスは顔を上げるなりそう言ってニッ!!と笑うのだった。
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