第39話 アルスト、魔法に驚く。
~旅の途中にエストがスキル『
―王国歴が始まる2年と2か月前 ルガタ戦後―
周囲を取り囲む村人たちの歓声を余所に、ゾラと共に村の中心部に向かってアルストは歩いていた。
「それにしても・・・・。」
「ん?何か??」
アルストの横顔を見上げながらゾラが口を開いた。
「落ち着いていらっしゃいますね・・・。わ、私が同じ状況に陥ったなら・・・きっと発狂したり・・・錯乱しているだろうと思います。」
「ああ。確かに突然見知らぬ土地に呼び出された時は混乱しました。」
「なら・・どうして・・・?」
「俺はいつも王から『やれあっちに行って討伐して来い、こっちを奪還して来い。』と命ぜられる通り、見知らぬ土地に散々派遣されてたから・・・この世界もその一環だと考えたら、それほど苦痛では無くなってきましたよ。」
あっけらかんとそう答えるアルストにゾラはポカンと口を開けて戸惑った。
「そ・・・そうでしたか・・・前の世界でもご苦労なさっていたんですね。」
「ははは!元の世界では自ら志願した事なので仕方がないんですがね。」
「アルスト様のご両親は??」
「母は俺が幼い頃に亡くなりましたが、父は今も健在だとは思います。」
「だとは思います?」
「ええ。家業を継がないと決めてから顔を合わせていませんので。」
「それはどうして?」
「言うなれば家を捨てたようなものですからね。」
「そういうものなのですか・・・・・。ですが・・・」
「ゾラ殿が気にする事ではないですよ。」
イヴァが召喚したものの、こちらの都合を押し付けてしまった事を申し訳なく感じたゾラがシュン・・と背中を丸めている事に気づいたアルストはポン!とゾラの背中を軽く叩いた。
「ア・・アルスト様・・・・。」
「ですが、まさか家業がここで役立つとは思いませんでしたよ。」
「え?」
「俺の父親は鍛冶屋だったんです。」
「かじ???火難の事ですか?」
ゾラが首を傾げていると、アルストは腰から剣を引き抜いて掲げた。
「いや、このような剣を作る仕事です。俺は家を出るまでは鍛冶師になろうと思っていたので、ずっと父親の手伝いをしていたのですよ。」
「え!?!?!?なんと!!!」
「ええ。見たところ魔族たちはその技術があるようですね。」
「はい・・・恥ずかしながら私どもの文化は魔族たちより劣っておりまして。」
俯き、足を止めたゾラの震える体から悔しさが滲みだしていた。
「すぐ追いつきますよ。」
「え?」
ゾラがアルストに顔を向けると、アルストはニッ!!と笑い剣を収めた。
「ですが、そのためには色々と準備が必要になります。かなり大変な仕事になりますが、手伝ってくれますか?」
「ぜひ!!!」
目を輝かせて大きく頷いたゾラだったが、その後かぶりを振った。
「ん?」
アルストはその行為を不思議に思ったが
「アルスト様。手伝わせていただきます!ただ、私どもにそのような丁寧な言葉遣いは無用です。」
そう言って頭を下げたゾラに驚いたものの、下を向き
「丁寧すぎると逆にやりずらい事もあるのか・・・まぁ、分かる気もするな。」
と呟くと、前にいた世界の上下関係を思い出してアルストはフッと笑った。
「分かりま・・・分かった。よろしく頼む。」
「はい!!」
自分よりもかなり年上と思えるゾラが、片膝を着き少年のような笑顔を見せた。その姿にアルストは(言うなれば、ここの団長になったって事だな。)と自分を納得させるのだった。
「あ!!!アルスト様!!!こちらへどうぞ。おじいちゃんも!!」
先程召喚された村の広場の前で立ち止まっていたアルストたちを見つけた若い女性が、手を上げて2人に声をかけた。
「ん??」
「ああ。あれは私の孫娘です。アルスト様、お腹は空いておりませんか?大層なものはございませんが・・・。」
「ん?そうだな・・・いただこうか。」
「ぜひ。」
話ながらアルストとゾラが女性のもとに歩いていくと、ゾラから食事を出すよう言われた女性が
「はい!今、温め直しますね。」
そう言って女性が手を薪に向かってかざすと、掌からボッ!!と小さな火が飛び出し薪に火をつけた。
「な!?!?!?」
アルストは驚愕した。
「今のは・・・どうやったんだ??どこから火を・・。」
「え?今のは魔法ですが・・・・??」
女性はアルストのリアクションに戸惑ったものの、さも当たり前のように『魔法』だと口にした。
「ま、魔法・・だと・・・・ハッ!?」
魔法が日常的なものだという雰囲気の彼らに対して、さらに目を大きく開いて驚いたアルストは、
「おい!魔法は・・・魔族も使うのか??」
とゾラの肩を掴んで問いただした。
「は、はい・・・魔族の中にも魔法を使うものがおります。そして・・・魔族の魔法は、私共の魔法とは比べものにならないほど・・・強大です。」
「そ・・・・そうか・・・。」
パチパチと音を鳴らしながら火の着いた薪に目を向けたアルストは、先程戦ったルガタが魔法を使える魔族じゃなくて良かったと心から思うのだった。
****
―イヴァリア歴16年5月20日―
日が傾き空がオレンジかかってきた頃、リュックからテントの骨組みとなる部品をエストが取り出すと
『今日はここに泊まるの??』
『ミプ??』
エストの胸の中に戻っていたスアニャとミルプがエストに問いかけてきた。
「うん。今夜は雨が降りそうにないから、さっきの過去の映像で見た景色を実際に見れるかな?って思ってさ。どうかな??」
テントの準備をしながら2人の問いに対してエストが逆にそう問いかけると、スアニャとミルプが嬉しそうに声を上げた。
『賛成ミプーーーー♪』
『うん!!見たい見たい♪やったぁああ!!!』
胸の内ではしゃいでいる2人に目を細めたエストはせっせとテントを組み上げると、完全に日が暮れる前に夕食を済ませる事にした。
・・・・
その後、上着を脱ぎ、ズボンを膝上まで拭ったエストが、滝つぼの中に足を入れて目を瞑っていた。
「・・・・。」
透き通った水の中・・・入れている足元の近くに魚の気配を感じたエストは一瞬だけ範囲重力のスキルを発動した。
スキル『
ズパァアアアアアン!!!!!
突如発生した重力負荷により周囲の水が弾けると、その勢いで同じく弾き飛ばされた数匹の魚が水際でピチピチ!と跳ね上がっていた。
「上手くいった!!う~ん・・3匹で十分かな。」
岩場で跳ねている魚を目にして喜んだエストは、打ち上げられた6匹の魚のうち半分を滝つぼに戻すのだった。
・・・・
日が暮れ、パチパチと音を立てているたき火にくべられた魚から、美味しそうな匂いが漂い始めると、ガルシアに貰っていた塩をリュックから取り出し魚に振りかけた。
「ふぅー!ふぅー!!いっただきます!!!
丁度いい具合に焼きあがった魚にエストはかぶりつくとビーン!!と背筋を伸ばした。
「うまっ!!!!!最近、肉ばっかりだったからなぁ。ん~!!美味い!」
焼き魚に舌鼓を打ったエストは、2匹目に手を伸ばすと同じく勢いよくかぶりつくのだった。
****
ジュ!!ジュゥシュゥウウ・・・・・
「よし!これでオッケー。」
火が消えた薪に滝つぼから汲んで来た水をかけ、完全に消火したエストは周囲の景色に目を奪われた。
「うあああ!!やっぱり泊まる事にして良かったなぁ。」
『うん!!とっても綺麗だねー!』
『ミプーー!!』
過去視で見た景色の空には月が輝いていたが、今日は新月だったため見上げた空には星々が輝いていた。
何度かこの場所に足を運んでいたというアルストとバスチェナもこの景色を見ていたのだろうか・・・そう思いを巡らせながら目を閉じると、レインフォールに訪れる前にミナの村を『記録』していたエストは、アルストが村に初めて訪れた過去を見たいと思いながらスキルを発動した。
****
『
額の中心に尖った角を生やした男が両手を突き出しそう唱えると、水の壁がアルストに襲いかかった。
「くっ!!!!」
横っ飛びをして何とか水魔法を躱したアルストに魔族の男が声を上げた。
「おお!!それがお前のスキルの効果か!さっきより格段に動きが上がったな!」
「くそ・・・・水の魔法か・・・やっかいなものだな・・・・。」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら魔法を連発してくる魔族の男にアルストは苛立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます