第38話 レインフォール ~初対面②~
「お前は・・・魔族か?」
月明かりに照らされ、額から鋭く反り上がった角に気づいたアルストがそれを口に出した。
「ああ。そうだ。ただその名はお前ら人族が勝手に名付けた種族名だがな。」
ため息交じりにそう答えたバスチェナは夜空を見上げた。
バスチェナの視線につられて空を見上げたアルストは、2、3歩足を踏み出すと眼前に広がる景色に目を奪われた。
「そうなのか???お!おぉ。」
自分の側に近づきながら思わず感嘆の声を上げるアルストにバスチェナは目を大きく開いて驚いた。
「お前、人族だろう??俺を魔族と分かっておきながら何もしないのか?」
「あ?ああ。殺気もなく、何もしてこない相手に襲いかかるほど、俺は血に飢えてるわけではないからな。まぁ、強い者と戦うのは好きだが・・。」
「フッ。何だそれは。お前の名は?」
「俺は、アルストと言う。」
「お前が・・・(他の世界から来た者か・・・。)」
「名乗ったぞ。お前は?」
「俺はバスチェナと言う者だ。」
「お前が・・・・例の魔族の王か。」
互いの名を知って驚いた2人だったが、その後も互いに戦う意志は示さなかった。
「魔族の・・『おう』って何のことだ?」
「違うのか?」
以前、人族の集落を襲っていた魔族を倒した際、
『お前などバスチェナ様の足元にも及ばぬ。』
『バスチェナ?』
『我らの先導者だ。』
と語っていたため、「バスチェナという者が魔族の王なのだろう。」と思っていたのだが、バスチェナの反応の薄さにアルストは少し戸惑った。
「違うも何も、そもそも『おう』とは何のだ??」
「そうか。そっちにも『王』の概念が無いんだな。そうだな・・・・種族の中で一番優れ・・・うーん、簡単に言えば種族を統率する者??の名称だな。」
「統率する者・・・・そうか。だとするならば、俺は王と呼ばれる者ではない・・・意見が合わない者も多いしな。」
そう言ってため息を吐いたバスチェナに、アルストは不思議とバスチェナに人間っぽさを感じたのだった。
「そうか。そっちはそっちで大変なんだな・・・。」
「は???」
「ん?何かおかしな事を言ったか?」
「いや。はは!!!はははははははははははは!!」
アルストの予想外の労いの言葉に一瞬唖然としたバスチェナだったが、破顔すると高らかに笑い声を上げた。
「なんだ?」
「ははは。まさか、角有と見れば襲いかかってくる人族にそんな事を言われるとはな。」
「俺は人族ではないんだがな・・・まぁ、いい。言葉を返すようだが、そっちこそ人族と見れば襲いかかってくるじゃないか?」
「それは認識の間違いだ。さっきも言っただろう?意見が合わない者が多いと。」
「ああ・・なるほどな。」
「フッ。察しが良いんだな。」
「こっちもこっちで色々あってな。」
苦笑いを浮かべ、被りを振りながらそう話すアルストに目を向けたバスチェナは、聞いた通りであればあの女に勝手にこの世界に呼び出された彼の心情を想像してしまった。
「まぁ・・・そうだろうな。お前も大変なんだな。」
「くっ!!はははははは!!!確かに予想外の相手から労われると笑ってしまうものだな。」
今度はバスチェナに労いの言葉をかけられたアルストが破顔した。
ひとしきり笑ったアルストは、ふとバスチェナがこの場にいる事を疑問に思いアルストに問いかけた。
「そう言えば・・・・なぜお前はここにいるんだ?」
「ん?ああ。ここは美しく独りになれる場所で気に入っててな。」
バスチェナがそう言いながらキラキラと輝く滝に視線を向けた。
「そっちこそなぜここへ?」
「ああ、ある者に『静かで美しい場所はないか?』と尋ねたらここを教えてくれた。」
「そうか・・・・奇遇なものだ・・・・で、本当にいいのか?」
「何がだ??」
「俺と戦わなくてだ。」
「ああ!そうだな・・・さっきも言った通り俺は血に飢えているわけではない。それにお前の言う通りここは美しい。このような場で戦うのは『興がさめる』というものだ。」
「きょうが?さめる????」
「ああ。趣・・・うーん、せっかくの美しい景色を台無しにする行為になるって事だな。」
アルストはこの世界に来てから人族たちから自分の発する言葉を何度も聞き返されていた。最初は面倒に思ったものだったが、質問を繰り返される毎に教える事が面白くなっていたアルストは聞き返しには慣れてしまっていた。
そのため、いつもの調子でバスチェナに言葉の意味を分かりやすいように説明しようと、頭を回転させてしまった自分に少し笑ってしまった。
「なるほど・・・面白い言葉だな。」
「そう言うお前こそ、俺はお前の仲間を何人も殺した相手だぞ?仇を取らなくていいのか?」
「いや、同胞と言ってもアイツらとは意見が合わなかったのだ。それに、アイツらとは何度も話し合い『自分たちの思うように行動しよう。』と決めた。その結果がお前に殺されたまでだ・・・確かに同胞を殺されたことに思う所が無いと言えば嘘になるが・・・・かといって仇だとは思わんな。」
「お前もなかなか面白いな。」
「???」
今度は不思議そうな顔をしたバスチェナにフッと笑ったアルストが水面に映る月に目を向けた。
・・・・
「バスチェナ様ーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!どこですかーーーーーー???」
少しの間だけだが静かに景色を堪能していた2人だったが、遠くからバスチェナの名を呼ぶ声が聞こえて来た。
「ん?」
「ああ・・・。すまんな。ちょっと好戦的な奴がやってきた。」
額に手を当てため息を吐きながらそう話したバスチェナは、声が聞こえて来た方向に体を向けた。
「行くのか?」
「ああ。この場所をあまり知られたくないのでな。」
「ふっ。同感だ。」
「お前はしばしこの景色を堪能するといい。」
「ああ。そうさせてもらう。」
そう言って石に腰を下ろしたアルストを肩越しに見てにニヤッ!と笑ったバスチェナは
「だが、次会った時は・・・・命の取り合いになるかもしれんな。」
と、話すと視線を強めた。
「ああ。」
バスチェナの言葉に同意して頷いたアルストは、その視線に動揺する事無く組んだ両手に顎をのせながらバスチェナを睨み上げた。
「フッ。」
視線を戻し微笑んだバスチェナは、崖の上に飛び上がった。
・・・・
「変わったヤツだったな・・・。」
バスティナが去って行った方向に目を向け、そう呟いたアルストは夜空を見上げた。
そして、崖の上に広がる森を駆け抜けていたバスチェナは
「アルストか・・・・あの女に召喚されながら、あの女に洗脳されていないのか???・・・・何にせよ面白い奴だったな。」
と呟くのだった。
ビシィ!!!!!!!!!!!
ガシャ!ガシャ、ガシャ、ガシャ・・・・・・
空間にひびが入り、映像の欠片が崩れ落ちると陽の光に照らされたエストはその過去に呆然と立ち尽くしていた。
「これが、アルストとバスチェナの出会い???」
****
ギィイイイイイン!!!!!!!!
バスチェナの鋭く伸びた爪の攻撃をアルストは剣で受け止めた。
『お前がアルストか???』
『ああ!!お前がバスチェナだな?』
競り合いになり対峙した2人は、この時初めて言葉を交わし、互いが宿敵である事を認識した。
『く!!』
『行くぞぉおおおお!!!』
アルストの圧力に押され一度後方に跳んだバスチェナに、剣を頭上に掲げたアルストが飛びかかった。
****
上記のように勇者アルストの物語での2人の出会いは戦いの最中だった。その物語が頭にこびりついていたエストは、いつの間にか2人出会いは戦いの最中なのだろうと思い込んでいた。
しかし、過去視で見た2人の出会いは・・・・
「こんなにも静かで、こんなにも会話を交わしていたなんて。」
過去視で見た景色よりも若干草木で鬱蒼としているものの、エストはボソッと呟くと目の前に広がる美しい景色の前で静かに佇むのだった。
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