第37話 レインフォール ~初対面①~
村人たちとのいざこざが解決した後、カミラが突如宴会を開くことを提案した。
「これまで身も心も内に籠ってたんだ。鬱憤を晴らした方がいいと思わないかい?」
しかし、そう言うカミラの意見に長が反対した。
「いや・・・だが、彼にした事を考えるとそんな事は出来ないだろう。」
「ほぉ・・・。じゃあ、エスト君!」
「はい?」
「エスト君はこの村の人々がトトたちに開放された事を祝う事をどう思う??」
「え??いいんじゃないですか?盛大にやっちゃってください!!!!」
「え?」
「は?」
「カッコいい・・・・・・♥」
「はははは!!!そう言うと思った。」
あっけらかんと笑顔でそうカミラの問いに答えたエストに長とモリスは驚き、眼鏡を掛けた女性は頬を赤らめ、破顔したカミラはその答えを予想していたようだった。
「よし!!救世主のお許しが出た!!!!やるぞーお前らーーー!!!」
カミラが拳を上げると・・・・「「「お・・おお・・・」」」
と長を始め歯切れの悪い返事が村人から聞こえてきたが
「ぶふぉおおお!!!」
「元気がなぁあああああああい!!!!!!!」
と、カミラが長を引っ叩いて気合を入れた。
「ブッ!!!あははははあはは!!!!!」
その様子に破顔したエストに目を向けたカミラがニッ!!と笑うと再度カミラが拳を上げた。
「やるぞおおおおおお!!!お前らあああああああああ!!!」
「「「おおおおおおおおおおおお!!!!」」」
「わ、わたし!!今夜はベロンベロンになります!!!」
「飲むぞぉおおお!!!!」
「ありがてぇええええええ!!!」
村人たちの弾けた喜びの表情に微笑んだエストに「無理して宴会に参加しなくていいからね。」と、カミラが耳打ちしてくれた。
エストは、カミラに頭を下げるとミカに同意を得てミナを抱きかかえたままミカの家に足を向けた。
そして・・・
「う・・・ん・・・・。あ、お兄ちゃん!!!!!!!!!良かったぁぁぁ!!まだいてくれたんだ!!!!!」
そうこうしているうちに午後になってしまったため、村を出るのを明日にしたエストだったが、目を覚ました時のミナの発した言葉とその笑顔を目にして
(ミカさんの言う通り、あのまま去らなくて良かった。)としみじみ思うのだった。
****
次の日、「また絶対来てね!!」というミナと再度『指切り』したエストは、カミラに教えてもらった場所を目指して村を離れようとすると、出口に村人たちが待ち構えていた。
「エストさん・・・すいませんでした。」
「ごめんなさい。」
「ええ!?」
顔をボコボコに腫らせまがら頭を下げたモリスと長の息子に驚いたエストは(盛り上がり過ぎだろ・・・)と昨日の宴会に出なかった事は正しかったと苦笑いを浮かべた。
「あはは!もう気にして無いですよ。また遊びに来ますね。」
しかし、その後そう言って彼らの肩をポンッ!と笑顔で叩いて村の外に出ていくと、目に涙を浮かべた2人はエストの背中に向かって再び頭を下げるのだった。
「「また来てください!!!!!!」」
そう合わせて叫んだ2人に振り返る事無く片手を上げながらエストは村の北部にある森に足を進めた。
****
その後、カミラに教えて貰った通り目標に向かって真っすぐ森の道なき道を1時間ほど進んだエストは、崖の下にある洞窟の入り口と思われる場所を発見した。
と、言うのも洞窟の入り口には入る事を拒むように木の根が何重にも絡み合いながら塞いであり、注意して見なければそこに入り口があるとは気づけないような状態だった。
「スアニャ!」
『うん!』
エストは手をかざして風の魔法を放つと、根はバラバラに切り裂かれ、洞窟の中に入ることが出来るようになった・・・が、今度はこれまで風の通りが悪かったのかジメッとした空気が中から流れてくる。
木の枝を折り、簡易的なたいまつを作って洞窟の中を覗くと今度は細い根が洞窟を形成している岩々の隙間から伸び出し行く手を塞いでいた。
「うーん。スアニャ!『
「いいよー♪」
「よし!」
エストは体の周囲を風の刃で覆いながら、快適に傾斜がかった洞窟の中を進んでいくと、下りから上りに変わると視界に出口と思われる明かりが入った。
魔法を解除して思わず顔を綻ばせ早足になったエストは、明かりが近づいてくるに連れて水が落ちる音が大きくなることに気づいた。
「あそこにあるのが『レインフォール』・・・・。」
走り出したエストは洞窟を抜けると思わず感嘆の声を上げた。
「わぁ・・・。」
『きれいだねー』
『ミプーー♬』
ポン!ポン!と中から出て来たスアニャとミルプも目を輝かせていた。
10mほどある滝の両脇には崖が曲線を描きながら大きくせり出していた。そして、崖の下に広がる青く澄んだ滝つぼと落下する水のしぶきが陽の光でキラキラと輝いていた。ちなみに水は滝の左側にあるエストが出た洞窟の反対側に流れだしているのが分かった。
『キャーーー♬』
『ミルプー!こっちこっち♪』
あまりの美しさに立ち尽くしてしまったエストに対して、スアニャとミルプは滝つぼの上を楽しそうに飛び回っていた。
「これは・・・時間を忘れてしまうな・・・・。」
そう呟いて石の上に腰を下ろしたエストは、暫くその景色を堪能するのだった。
****
ボーっと景色を眺めていたエストだったが、日が真上から少し傾き始めた事に気づいた。
「流石にこのまま座っているわけにもいかないよな。」
そう呟いて石から立ち上がり目を閉じたエストは、この場所で起こった出来事を見るため『アルストが初めてここを訪れた時を見たい。』と思いながらスキルを発動した。
スキル『
スキルを使用した途端、背後から鎧を装備していた者が歩くガチャガチャ!という音が聞こえて来た。
エストは音に反応し、振り返りながら目を開けると洞窟からたいまつを手にしたアルストが姿を現わした。周囲は暗く、アルストがここを訪れた時間帯は夜だったことが分かった。
『勇者アルスト・・・ホントにここに来ていたんだ・・・。』
その姿にエストが思わず呟くと、アルストはエストをキッ!!と睨みつけた。
「先客がいたとは・・・お前は誰だ???」
『え??』
アルストの発言に思わず息を呑んだエストが、戸惑いながらも口を開いたその瞬間、背後から覚えのある声が聞こえる。
『お、俺は、「こちらこそ驚きだ。お前こそ誰なんだ??人族のようだが??」
その声に驚いて振り返ったエストの視線の先には、不敵な笑顔を浮かべているバスチェナが立っていた。
『え???なんで???え!?ここで!?!?!?』
カミラからアルストが訪れた事があるという話だけを聞いていたエストは、その場所にバスチェナが現れるなど思ってもみなかった。
スキル使用前、太陽の光でキラキラと光り輝いていた水面は、美しい月を映し出していた。夜の静寂さとゆらゆらと揺れる月、滝の音が昼とは違う神秘的な美しさを演出している。
「・・・・。」
「・・・・。」
『・・・・ゴクッ。』
しかし、初対面したアルストとバスチェナの間には張り詰めた空気が漂っていた。
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