第41話 人族にも魔族にも・・・・

「なんと!?魔法を使えるように!!」


ルーバスが驚くと、一人の女性がアルストのもとに駆け寄って来た。


「ああ!!アルスト様!!!ありがとうございます!!!」


「いえ、力不足で。ああ・・で、そうそう、それで魔法の事なのだが・・。」


歩きながらも会話を続けたかったアルストだったが、次々と駆け寄って来る村人たち話は途切れ途切れになってしまっていた。


その状況に笑みを浮かべていたルーバスだったが、「今は村人の歓びに応えてやってください。話は家でしましょう。」と口元に手を添えてアルストにそう告げると、先導するようにアルストの前を歩き始めた。


「すまない。助かる。」


ルーバスが前に出た事で正面から歩行の邪魔をされなくなった事に感謝したアルストは、次々と声をかけて来る村人たちに手を上げ対応しながらルーバスの後をついていった。



****


「ふぅ・・・。」


「ははは!お疲れ様でした。」


ルーバスの家に招かれるなりドサッ!!と椅子に腰かけたアルストがため息を吐いていると、奥からルーバスが飲み物を持ってきた。


テーブルの上にカップを置き、アルストの対面にルーバスが腰を下ろすとアルストはさっそく、魔法を使えるようになった経緯をルーバスに話始めた。



「・・・・・・・・・で、精霊に力を借りれたって事で良いんだよな?」


「そりゃそうですぜ!精霊の力なくして魔法は使えませんからね。流石アルスト様です!!」


まつ毛の長いぱっちりした目を目配せしながらルーバスが称賛するも


「うーーん・・・。」


と、そう言われてもあまり実感が湧かなかいアルストは顎に手を当て唸り声を上げていた。


「実際そんなものらしいでっ、、すよ。中には何の実感もなく気づいたら魔法を使えるようになっていた者もいるくらいですから。」


「そうなのか?」


「はい。前にこの村に珍しく精霊が見え、声が聞こえる者がいたのですがね。」


「なに!!今はどこに!?」


「病で死にました。」


「な・・・なんと・・・。」


身を乗り出したアルストだったが、ルーバスの返答に絶句するとガタッ!と椅子の背もたれに体を預けた。


「その者から聞いた話なんですがね。精霊は気に入ったり、好いたり、認めたりした者に力を貸すそうです。私の見立てでは、アルスト様は精霊に認められたんだと思います・・ぜ?」


「認められた??どうして。」


「アルスト様が魔族の火の魔法を切り裂いたって話を聞いたことがあるんですが、それは本当ですかい??」


「ああ、無我夢中だったがな。」


「きっとそれを見ていた精霊がアルスト様の事を認めたんだと思います。」


「そういうものか?」


「そういうものです。」


「あの・・アルスト様、初めまして。」


「ん?」


ルーバスが飲み物を持ってきたキッチンがあると思われる方向から、土器のポットを手に持った髪の長い細身の女性が現れアルストに会釈をした。アルストより少し年下のように見える。(ちなみにアルストは19歳)


「初めまして。こちらは?」


「ああ。私の娘でマニサと言います。」


「そうか!娘がいたのか・・・・・・・似てないな。」


「ブッハハハハハハハハハ!!!良く言われますわーー。」


ポソッと本音・・・失礼な事を口にしたアルストだったが、ルーバスは豪快に笑いマニサと呼ばれたルーバスの娘はクスクス笑っていた。


仲のいい親子を見ながらククッ!と笑っていたアルストだったが、ゾラの孫娘が『私は火というものはありがたいものなので、毎日感謝していたらいつの間にか火の魔法を使えるようになっておりました。』と言っていた事を思い返していた。


「そういうものか。」


ポツリとそう呟きながら(きっとゾラの孫娘は火の精霊に好かれるか、気に入られたのだろう。)と思うのだった。




しかし・・・


「ああ!?どういう事だ!?!?」


「「はい????」」


突然、声を張り上げ立ち上がったアルストにルーバスとマニサは目を剥き出しにして驚いた。


「と言う事は!!!魔族で魔法を使える者は、同じく精霊に気に入られたり、好かれたり、認められたりしたって事なのか?」


「あ・・・はい。そうだと思いますが・・・・何せ精霊たちは気まぐれですから。」


「気まぐれ・・・・(いや、そんな単純な話じゃないな・・・。)」


「だ・・大丈夫ですかい?」


立ったまま考え事を始めたアルストにルーバスが声をかけると「ハッ!」と我に返ったアルストはストン!と椅子に腰を下ろして苦笑いを浮かべた。


「ああ・・すみません。ちょっと慌ててしまいました。」


「すみません??しまいました??」


「え!?ああ。あははは!本当はいつも無理して偉そうな口調をしているんだよ。」


「え?そうなんですか?」


「ああ!面倒だが、そうでないと勇者としての示しがつかないそうだ!!ゴホッ!!」


「あ・・ふふふ。」


「あははははは!」


突如、丁寧な言葉遣いをしたアルストに驚いたマニサとルーバスだったが、キリッと顔を整えて元の口調に戻し、わざとらしく咳払いしたアルストに思わず笑ってしまった。


2人の笑顔に微笑んだアルストだったが、先ほど抱いた疑念は心の中から消えてはいなかった。


(人族にも魔族にもこの世界で生まれたわけでもない俺にも力を貸す・・・この世界では自然と精霊のみ差別が無いのか???)



****



その後「今夜はウチで休んでいってくだせぇ。」と言うルーバスの言葉に甘える事にしたアルストは、ルーバスが調理している夕飯を待ちながら、先ほどのやり取りですっかり打ち解けたマニサと談笑していた。


「はははは!面白い父親だな。だが、良い父だな。」


「はい!ちょっと抜けているところはありますが。」


フフフと笑っているマニサにつられてフッと笑ったアルストは、あの魔族の襲撃により、この北にある村を訪れた目的をすっかり忘れていた事を思い出した。


「ああ!!そうだ。少し聞きたい事があるのだが良いかな?」


「は、はい??私に答えれる事があるなら・・・。」


「そう難しい話ではない。この辺りで一人で静かに過ごせる場所とかはないか?」


「え??そこに住むのですか??」


「いや、一時心を休めれれば良いだけなのだが・・・ああ、いや、忘れてくれ。」


「アルスト様・・・。」


南にある集落で暮らすことになったアルストは、召喚後しばらくゾラの家に厄介になっていたものの、常に村人たちの注目を集めていた。村の中に家を作ると言われていたアルストは、集落から離れて暮らす事も考えたものだったが、魔族の襲撃に出遅れては話にならないため、また村人たちの中から有力な者を選定し鍛え始めていたアルストはやむなく集落の中で暮らす事にした。


それでも、自分の家が出来たとしても、常に人が往来しそうな気がしていたアルストは、一人で物思いにふけれる場所を探していた。それも、ただ一人になれる場所ではなく心を洗ってくれるような美しい場所を。


現イヴァリア周辺にも美しいと思える場所はあったのだが、常に人が着いてくるため一人にはなれなかった。そんな折、魔族が襲撃した村から逃げて来た女性から、その集落のさらに北部に狩人が暮らす村がある事を聞いたアルストは、その村の様子を見て来ると強引に一人でこの地を訪れていたのだった。


しかし、村に到着してわずか数十分のうちにあの水の魔法を使う魔族が姿を現したのだった。




「良い場所がありますぜ。アルスト様。」


マニサに聞いたのは間違いだったと被りを振っていたアルストは、ルーバスの声がした方に顔を向けると、大き目の木製トレイに料理を載せた彼が笑顔で立っていた。


「良い場所??本当に??」


テーブルに食器を並べながら、ルーバスはアルストの問いに答え始めた。


「はい。その昔、狩りで北にある森に入っていた際、獲物を深追いし過ぎて道に迷った事がありましてね。その時見つけた秘密の場所があるんです。と、言っても、もう数十年足を向けたおりませんがね。」


「秘密の場所??」


「はい。水が上から落ちて来る、とても綺麗な場所です。」


「上から水・・・滝か?」


「ああ!滝と言うのですか。それはそれはとても美しい場所でこの村の者も数名しかその場所を知りません。」


「私も知らないんだけど。」


「そりゃ、そうさ。かなり奥に入った場所で危険を伴うからな。どんな魔物が現れるかも分からないしな。」


「そうか!後で詳しく聞かせてくれ!」


「はい!喜んで。」


嬉しそうな表情を見せたアルストを目にし、勇者と呼ばれる彼の役に立てた事をルーバスは目を細めて喜んだ。


「ささ!冷めない内に食べてくだせ・・さい。」


「プーーーー!!お父さんも!く、口調・・・。」


「っさい!!」


何とか丁寧な言葉遣いを頑張っているルーバスだったが、所々「○○してくだせぇ」「そうですぜ!」と言ってしまう、若しくは言ってしまいそうになる父親に吹き出してしまった。


「ククッ!!俺が言えた事じゃないが、あまり言葉を気にする事はない。俺もそうするから。」


「は・・はい。助かりますぜぇ。」


「じゃあ、せっかくだからいただくよ。」


「どうぞ!!!私らも食べよう。」


「うん!!!」


ガタッ!!


「!?!?!?!?!?」


出された肉料理を口に運んだアルストは驚いて椅子からちょっと跳ねた。


「ど、どうしました?口に合いませんでしたか??」


「いや、まさか!!!こっちの世界に来てからこんなに旨い料理を食べたのは初めてだ!!」


「おお!!良かったですわー!!日々研究した甲斐がありましたぜ!!!」


「お父さんの料理はどれも美味しいですよ。」


「そうか・・・うん!!確かにな!!!」


スープに口をつけ美味しそうに頷くアルストに喜んだルーバスは、南で農耕している奴らは『食』をただ「食べる事」としか考えてないような味付けをしている・・・など雄弁に語り出した。


それをアルストは微笑みながら聞き、マニサは『また始まった・・・。』と言いたげな表情を浮かべていた。




****




―バスチェナと初対面はつたいめんした後―



「お!アルスト様!滝はいかがでした?」


「ああ。最高だった!」


「それは良かった!!」


アルストは現イヴァリアがある集落へ戻る前にルーバスの家を訪れていた。


「ルーバス!ここで宿屋をする気はないか?」


「は?やどや???」


「ああ。あの場所は良い!!とても気に入ったんだ。また来るから俺が来た時またこの家に泊まらせてくれないか?その対価は支払う。」


「たいか??」


「そうだ。まだ貨幣制度が無いから何かの手伝いでもいい。狩りや魔物退治でも何でもいい、頼み事を聞く代わりにまたあの料理を食べさせて一泊させてくれ。」


「そんな!手伝いなんかいりませんぜ!」


「それじゃ宿屋にならないんだって!!!」


「だから、『やどや』ってのは何なんですかい!?!?」


目を爛々と輝かせながら迫って来るアルストに戸惑うルーバスだった。

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