第33話 罪② 〜4人組〜


『良いわぁ・・・ああ・・・溜まらない♥』


艶めかしい体のラインが分かる薄いシーツをその身に巻き付けていたアーブリーが、ベッドの上で顔を歪めながら絶命している男の表情にウットリとしていた。


その手には毒の付いたナイフが握られている。


コンコン♬


『ん?入って良いわよ!』


『姉さん、ずいぶん楽しんだようだねぇ。声がダダ漏れだったよ。』


ドアをノックして入って来たのはトトだった。


『ええ♥快楽からの苦痛と絶望・・・最高の顔を見せてくれたわ♥』


『まったく・・・いい趣味してるよ。姉さんは。自分が毒に犯されても知らないよ。』


『ふふ。ラミロから解毒剤を貰っているから大丈夫よ。』


そう言ってウフッと微笑んだアーブリーが、男の胸にナイフを突き立て吐いた台詞は


『苦しみと絶望で歪んだ顔を見せてちょうだい♥』


だった。


****


「自分で頑張って辿り着いてください。」


「な・・・なん・・・で・・・・ゴホッ!!ま、、待って・・・。」


冷たい視線でアーブリーを見下ろしていたエストは、手を差し出す彼女の手を無視すると姿を消したアロンゾが気になりその場を離れた。


「逃げられたのか??ちょっと私情を挟みすぎちゃったかな・・」


焦りながら首を左右に振り周囲を見渡しアロンゾの行方を探していたエストだったが彼は逃げ出してはいなかった。


「あああああああああああ!!!トトォォォオオオオオオオオオ!!!!!」


トトの死体を目にしたアロンゾが叫び声を上げるのだった。


「おい!!仲間の死を悲しむぐらいなら、他人の命を簡単に奪うな!!!」


トトの死体の前で泣き喚いているアロンゾを目にしたエストは、自分たちがしてきた事を棚に上げているアロンゾに怒りが込み上げ思わず叫んでしまった。


「うるせぇ!!!!許さねぇ・・・・許さねぇ・・・・。」


トトの前で正座していたアロンゾは、脇に置いていたこん棒を手に取ると、真っ赤に腫らした目でエストを睨みつけた。


睨まれても平然と正体しているエストに向かって駆け出したアロンゾは、またしても力の限りこん棒を振り落とすものの、今度は逃げる事なく一歩踏み込んだエストの拳がアロンゾの腹部にめり込んでいた。


「ゴファアアアアアアアアアア!?」


あまりの衝撃にこん棒を地面に落とし、跪いたアロンゾは殴られた腹部に手を当てるなり地面をのたうち回った。


そのままゴロン!ゴロン!と体を左右に動かし痛がっていると、近寄って来たエストはアロンゾに向けて手をかざした。



スキル『0⇔100ゼロワンハンドレット 100gravity』



複数を対象に重力負荷をかけれるようになっていたエストは、ラミロへの重力負荷はそのままにアロンゾには倍の重力負荷をかけた。


「ぐぅぅぅぅうぅぅぅぅう!?!?!?」


突如巨大な力によって地面に押しつけられるような感覚に陥ったアロンゾはパニックになった。


額から汗が大量に吹きだし、肺が押し潰され呼吸が思うように出来ない苦しさの中でもがいているアロンゾにエストは投げ捨てるように呟いた。


「あなたは、そのご自慢の腕力で他人を圧死させるのが好きだったようですね。どうか、同じ苦しみを存分に味わってください・・・・。」




「ぐ・・くぅ・・・・・た・・・たすけ・・・・・・・・・・・・・。」




目はグルンと白目を剥き、口から泡を吹き、唇や爪の色が紫に変色したアロンゾはその後一言も発する事なく死に至った。



アロンゾに背を向けた立っていたエストは、窒息死したアロンゾへの重力負荷を解除して倒れているラミロの元に向かった。




「・・・・・。」




重力負荷で動けなくなっていたラミロは失血死していた。


エストは、ラミロへの重力負荷も解除すると、未だラミロに近づこうと地面を這っているアーブリーを一瞥してその場を立ち去った。



****


「もう昼近いんだな・・・。」


トトたちの過去を見た事で感情的になりすぎたと反省しながら村の麓まで戻って来たエストは、足を止めると真上に上がっている陽を眩しそうに見上げた。


「母さんや爺ちゃんならもうちょっと早く終わらせてるんだろうな。」


その後そう呟き村の入り口に目を向けたエストは、自分の甘さを戒めながら足を前に踏み出すのだった。



****



「・・・・・・。」


アーブリーはラミロのもとに何とか辿り着くもその場で絶命していた。


重力負荷によりラミロの懐にあった解毒剤が入っている瓶は全て割れてしまっていのだった。



「・・・・・・。」



口を大きく開いて息絶えたアーブリーの表情は苦しみと絶望で歪んでいた。




****


「え??そのまま行かせたんですか!?!?大丈夫なんですか!?!?またこの村から犠牲者が!?!?」


「ミカ!!!落ち着いてちょうだい。きっとあの子は大丈夫。」


「どうしてそんな!!」


「その子はアイツらの正体を分かっているようだった。それなのにそれを隠して着いてって私の事まで案ずるくらい逞しい子だったのよ。あんな子私は初めて見たよ。あんな奴らには負けるわけない。」


宿屋の女性から、この村に訪れた1人の少年の話を聞いて『ミカ』と呼ばれた女性、ミナの母親は動揺していた。


その足元には、ミカのブラウンのスカートをギュッと握り不安そうな顔をしているミナの姿があった。


ガチャ!!!


しかし、宿屋のドアが開いた瞬間、宿屋の女性はどや顔をし、2人の心配は吹き飛んだ。


「ほらね!!!」


「こんにちは・・あの・・え????」


「あ!!!」


「あーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」


「お久しぶりです。あ、ミナ!!」


パッ!!とミカのスカートから手を放し、宿屋に訪れたエストにミナが飛びつくと、エストはミカに声をかけ、さらにそのままミナを抱っこするとクルクル回り始めた。


「キャー――♥」


「あはははは!」


「あらあら。何だ。知り合いだったのかい?」


キャッキャウフフしている2人を眺めながらミカに声をかけた。


「ふふ。はい。前に助けてくれたのがあの少年なんです。」


「そうかい!?!?なるほどねぇ。」


久しぶりにこの村に帰って来たミカとミナを救った祖父と孫の話を聞いていた宿屋の女性は、強くて優しい人たちだったと言うミカの話に納得するのだった。


「ところで、アイツらはどうしたんだい?」


エストが1人で戻って来た事が気になり、宿屋の女性がクルクル回っているエストに声をかけた。


「あ。はい。彼らはころ・・・・。」


ミナを抱っこしたまま女性に返答しようとしたエストだったが、『殺しました。』と言いかけたところでニコニコ笑っているミナに顔を向け言い方を変えた。


「彼らは退治しました。」


「そうかい。ありがとうよ。」


察した女性は目を閉じ微笑むと、深くエストに頭を下げた。


「や、やめてください。俺は「お兄ちゃん!!!悪い奴らをやっつけてくれたの!?!?!?ありがとう!!!!!!」


「わ!!ミナ・・・ちょ・・・」


エストの『退治した』という発言にテンションが上がったミナは、嬉しそうにエストの顔を覆うように抱き着いた。


「ミナ・・・ちょっとエスト君と話をするから。」


そのミナの様子に困り笑顔を浮かべたミカが、ミナ背後から両脇に手を突っ込むとエストから強引にミナを離した。


「えーーーーー。」


「少し話したらまた遊ぼう。」


床に降ろされて不満顔を見せるミナだったが、頭をエストが撫でるとパァァ!と笑顔に戻って何度も頷いた。


「ありがとう。ミカ。」


「いえいえ。ふふ。」


その後ミナを抱っこして椅子に座ったミカに礼を言った宿屋の女性は、エストに向き直ると再度頭を下げた。


「あ!!顔を上げてください。」


戸惑ったエストは女性の肩に手を当てて顔を上げるよう促すと、顔を上げた宿屋の女性は微笑んでいた。


「お前さん・・・いや、エスト君と呼ばせて貰うよ?」


「あ、はい。」


「あらためてこの宿屋と村を救ってくれてありがとうね。」


「いえ・・・今思えばもう少し違った解決方法もあったのかな?って思っています。」


「いや、エスト君がそんな事を思う必要なんて何一つもないよ。もしアイツらが捕まっていたなら間違いなく死罪だったと思うからね。」


「はい。そうですね・・・。」


「本当にありがとう。」


「お兄ちゃん!ありがとう!!」


「2度も助けてくれてありがとうね。」


「あ・・いや・・・その・・・。」


3人に礼を言われたエストは少しこそばゆくなり頬を掻いて苦笑いを浮かべると、照れているエストに気づいた3人は楽しそうに笑い声を上げるのだった。



****


その後経緯をカミロ(宿屋の女性)から聞くと、ミカとミナを助けた盗賊たちといがみ合っていたトト達は(カミロが酔っぱらいながら話していた内容を盗み聞きしていた)、盗賊たちが殺された事を知ると我が物顔で村に入ってきたそうだ。


安定した拠点を求めていたトト達が、村人たちに手を出す事は無かったものの、態度は大きく威張り散らし、『自分たちの行為を邪魔するようなら殺す。』と脅されていたそうだ。実際、数名の村人が彼らに殺されていた。


さらに勝手に宿屋を拠点にされ、たまにやってくる旅人や近くを通る商人を無残な目に合せる彼らにカミロはほとほと困り果てていた。


トト達が村に現れてから約1か月半・・・精神が荒み、病んでしまいそうになっていた矢先にエストが訪れたのだそうだ。


****


「そうだったんですね・・・・ミカさんやミナは何もされ無かった??」


「うん・・。アイツらが村にいる時はずっと家に閉じこもってたから。」


「派手に村で暴れて異変に気付かれるのは嫌だったみたいだからねぇ。ホント、姑息でイヤらしい奴らだったよ。」


忌々しい表情を浮かべながら、ブツブツとそう語ったカミラだったが言い終えると「フゥ・・・。」息をつき、表情を笑顔に切り替えた。


「ホントに良いタイミングで来てくれたよ。」


「それは良かったです。勇者アルストの事を調べて旅をしていたら、この村の近くに来たので・・・ほんとたまたまだったんですけど・・・はは。」


「ん?勇者アルスト??エスト君は歴史研究者かなんかなのかい?」


「ん~~・・・そうではありませんが、歴史は好きです。」


「そうなのかい?勇者アルストと言えば、あまり世間では知られていないけどね。この村の近くに勇者アルストが訪れたと言い伝えがある場所があるんだよ。」


「!?!?!?!?」


経緯を聞く前、長くなるからとカミラに出されていた冷めた紅茶に口を付けながら話を聞いていたエストは、まったく予期していなかった彼女の一言に紅茶を吹き出しそうになった。

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