第34話 ミナとの約束

「ゴホッ!?ゲホッ!!」


むせてしまったエストは思わず手で口を塞いだ。


「お兄ちゃん!大丈夫??」


「そんな話初めて聞きました・・・。」


この村出身のミカですら目を丸くしていた。


「そうだね・・・初めて話したからね。」


「ええ!?」


「うちは地方の小さい宿だが、歴史は長いんだよ。」


「あ!!おじいちゃんから聞いたことがあります。カミラさんの宿はおじいちゃんが子供の頃よりずーーーーッと前から宿屋だったって・・・・・・・おじいちゃん!?!?!?そう言えば、エスト君!前にお祖父さんと一緒にいた時『助けたい人がいる』って言ってたけどそれは間に合ったんですか?」


カミラと会話していたミカが、「おじいちゃん」のワードで助けて貰った際のエストの言葉を思い出してエストに詰め寄った。


「あ!!!はい!間に合いましたよ。気にかけてくれてありがとうございます。」


「そう・・・・良かったぁ。」


そう言って胸を撫で下ろしたミカに感謝しながらエストはカミラに声をかけ話を戻した。


「宿の歴史の長さと、勇者アルストと関係があるんですか??」


「あるよ・・・祖先の残した記録ではこの宿が始まったきっかけが勇者アルストだって話だからね。」


「え??そうなんですか???あの!!!!!!その場所を「待った!!」


カミラの話に食いついたエストだったが、目の前にカミラの掌が差し出されて戸惑うものの、その掌は形を変えミナに指先を向けられると苦笑いを浮かべた。


「はは・・・。」


「今日はあの可愛いお嬢様を構ってあげた方が良いんじゃないかい??」


自分のスカートをギュッと握り締めて口を尖らせているミナが


「おはなし・・・ちょっとじゃないじゃん・・・・・。」


俯きブツブツ言いながら・・・・拗ねていた。


「そうします。」


カミラに顔を戻して微笑んだエストにカミラが「そうしな。」と声に出さず伝えると、同じく無言でカミラに頭を下げるなりエストは口をへの字にしているミナを抱き上げた。


「ごめん。長くなったね。今日のお話はこれで終わりだよ。」


「ホント???」


「うん!!」


「じゃあ、ミナと遊んでくれる???」


「いっぱい遊ぼう!」


「うわーーーーーーーーーーーーーーーーい!!」


我慢してた。ミナは一生懸命エストの邪魔をしないように我慢していた。


ミナが握っていたスカートの痕がしわしわになっているのを見たエストは、花が咲いたようなミナの笑顔に口元が緩んでしまうのだが


「今日はおうちに泊まってってーーー!!」


という、突然のミナのおねだりに驚いた。


エストはミカに目を向けると、微笑んだミカは静かに頷く。


「うん。ミナがいいなら!!」


「いいに!決まってるでしょ!!!!いこーーーーー!!!!」


きゃあああ!と微笑んだミナがエストの手を握ると宿屋のドアに向かってエストの手を引っ張り始めた。


「明日、また話を聞かせてくれますか??」


ミナに手を引かれながら、カミラに顔を向けそう問いかけると


「勿論だよ。今日はその姫の王子になるんだね。」


と言って目配せしてくれた。


アーブリーの100倍はホッとする目配せに思わず破顔したエストは、ペコッと頭を下げると一生懸命引っ張るミナを抱き上げ宿の外に出ていった。


「カミラさん・・・どうして私たちにも話さなかった事をエスト君に??」


「ん~~・・・・・・あの子には知って貰いたいって思ったから・・・かな?」


天井を見上げながら質問に答えてくれたカミラに同意してミカは頷いた。


「勘ですか??ふふ。でも、なんとなくその気持ち分かります・・・エスト君のおかげでまた、この村は・・・あれ??」


「ミカ!!」


笑いながら話していたミカだったが、カミラと目が合った途端にミカの目から涙が零れた。


戸惑いながら零れ落ちる涙を止めれないミカをカミラは抱き締めた。そしてカミラの目にも光るものがあった。


「ほんとにねぇ・・・あの子には感謝しかない・・・感謝しかないよ・・・。」


「はい・・私たちだけじゃなく・・・・・こ・・の・・・村を救って・・・・救ってくれましたぁ。」


「ほんとだねぇ・・・早く村の者達に教えてやらなきゃねぇ・・・・。」


泣きながら会話する2人であったが、突然パッと腕を伸ばしてカミラから距離を取ったミカは


「それは明日にして下さい。」


とカミラにそう言って頭を下げた。


「ふっ・・・ははははは!!そうだね!ミナが拗ねちゃうものね。」


「ふふ。ありがとうございます。」


ドアの向こう側から聞こえるエストとミナの大きな笑い声に幸せを感じた2人は、再び目が合うとクスッと笑い合うのだった。



****


「なんだか・・。」


自分の家を思い出すような、小さい平屋建てのミカとミナが暮らす家に迎え入れられたエストは笑顔を浮かべていた。


「小さい家でごめんなさいね。」


ミカが申し訳なさそうにエストに向かってそう口を開くが、エストは首を左右に振るとニコッと微笑み


「いえ!!とっても落ち着く家です。」


と答えた。その背中には小さな寝息を立てているミナがいた。


家に向かう途中にあった小さい広場で久しぶりに目一杯遊んだミナは、帰り途中でウトウトし始めたので、ミカが抱っこしようとするもイヤイヤ!とエストから離れようとしなかった。


見兼ねたエストがミナにおんぶを提案すると喜んで飛びついたものの、少し歩くとあっという間に眠りに就いてしまうのだった。


「ミナが甘えてごめんなさいね。あ、そのソファーにでも寝かせて貰っていい?」


「いえ、妹が出来たみたいで嬉しいです。」


頷いたエストはソファーにミナをそっと置くとミカにそう言いはにかんだ。


「エスト君はご兄弟は?」


「いませ・・・あ!姉のような人がいます。」


「プッ!!何それ!」


「あはは・・・。」


『いません。』と言おうとした瞬間、脳裏に腕を組んで憤けているブレナが浮かんで苦笑いを浮かべた。


その後、4人掛けほどのテーブルの椅子に腰かけ、ミカに出してもらったお茶を飲みながらしばし談笑していると


「ふふふ。でも、ミナにとってエスト君がこんなに早く会いに来てくれたのは嬉しい誤算だったわね。」


寝ているミナを見つめて微笑んだ。


「え?どうしてですか?」


「前に助けて貰った時、エスト君暖かそうなコートを羽織っていたけど手は素手だったでしょ?」


「ええ、そうですね。」


「それをミナが気にしててね。今度会いに来てくれるまでに自分で編んだ手袋をプレゼントするんだって言ってね・・私に習って編んでいたところだったのよ。」


「ええええ!?!?!?」


「ん・・・・。」


驚いたエストの声にミナが目を覚ましてしまった。


「あ・・ごめん。起こしちゃったね。」


「何のお話してたの・・・??」


目をこすり、寝惚けながら体を起こしたミナがエストとミカを交互に見ながらそう問いかけた来た。


「あ・・いや・・・。」


「ミナの手袋のお話よ。」


「え!?言っちゃうんですか!?」


「え!?言っちゃったの???」


「ふふ。その方がどっちも張り合いがあるでしょ?」


「ははは。ん?」


あっけらかんとそう話すミカに苦笑いを浮かべたエストの近くに寄って来たミナがギュッ!とエストのズボンを握った。


「あのね・・・まだ途中なの・・・・。」


「なんだ・・・・・。じゃあ「でも!!!!!!」


エストの返答の途中で涙ぐみながら顔を上げるも


「そうじゃないよ。『次にミナに会いにくる楽しみが増えた!』って言おうと思ったんだよ。」


と、ウルウルしているミナの頭を撫でながらミカの言葉を汲んだエストは優しくそう話した。


「ま・・また来てくれるの???」


「もちろんだよ。」


「ま・・・また約束してくれる???」


「うん!じゃあ・・ミナに特別な約束を交わす方法を教えようかな?」


「うん!!!教えてーーーーー!!!」


「よし!じゃあ、こうやって小指を出して。」


そう言って椅子から滑り落ちるようにミナの前で屈んだエストは、ミナに向かって小指を差し出した。



****



―イヴァリア歴16年5月20日―


人が3人並んで歩けるほどの広さの洞窟内をエストは1人で歩いていた。



「あそこにあるのが『レインフォール』・・・・。」



そう呟き先に見える明かりに目を向けると、先ほどより水が落ちる音が大きくなっているのが分かった。

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