第21話 動き出した世界
イヴァがいったい何をしようとしているのか・・・その様子を結界解除に神力を注ぎこみながら見ていたグエナは、イヴァが『力を司る神』を利用しこの地に一人の人間を召喚した事に大きく目を開かせた。
『なんて・・・事を・・・。』
驚愕したグエナは、我に返ると足下に広がる結界を睨みつけた。
『迷ってる暇はないわ・・・・間に合って・・・・お願い!!・・・・。』
『グエナ様!!!!直接手を触れては!?』
『いいの!!それよりもあの人間が洗脳されてはいけないのです!!!!!』
他の神々が止めるのも聞かず、グエナは額から汗を噴きだしながら結界に手を当てていた。結界の反発によりグエナの髪は逆立ち、手が触れている部分はバチバチ!!!!と激しい音を上げていた。
****
「アルスト・・・俺はアルスト・レインフォールだ。」
召喚された男が自分の名を絞り出すように声に出すと、イヴァは妖艶な笑みを浮かべて音もなく立ち上がった。
『アルスト様。この世界は今、魔族により人類が滅亡させられる危機に瀕しています。勇者であるあなた様には魔族を退治していただきたいのです!!』
「は???」
『
高らかにそう言い放ったイヴァに目を丸くさせていたアルストを見てペロッと下唇を舐めたイヴァは、さっそく虜にするべくスキルを使用した。
『え!?きゃっ!!』
パアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!
しかし、イヴァのスキル『
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『はぁ・・・はぁ・・・・と、届いた。』
息を切らしながら上界で手を伸ばしていたグエナは、イヴァがスキルを発動す直前、何とか瞬間的に結界をこじ開けて僅かに出来た隙間からアルストを守るため自分の加護を授けていた。
『あ!!』
しかし、間もなく無理やり作ったその隙間は元に戻ってしまう。
この今回のグエナの無茶により、結界が解除される時期が延びてしまうのだったが、それでも・・・アルストがイヴァに魅惑されるよりは遥かにマシだった。
****
『ど・・・どうして!?!?なんで!?!?いったいどういう事よ!!!』
自分が召喚した人間にスキルを弾かれた事はイヴァにとってかなりの衝撃だった。
わなわなと全身を震わせて動揺しいたイヴァだったが・・・少し時間が経つとフッと微笑んだ。
(まぁ、いいわぁ。それなら後でアタシに好意を抱かせればいいのよね。)
そう考えていた。
しかし、目の前で勝手に一喜一憂しているイヴァを怪訝に見ていたアルストは、今度は突如艶っぽい目を向けて来る彼女を目にして情緒不安定な女だと眉間に皺を寄せた。
結果から言うなれば、アルストがイヴァに好意を持つ事は無かった。
アルストは前にいた世界でも自分を美しいと自負している異性が大の苦手だった。それに対して人族や『力を司る神』から美しいと称賛され続けていたイヴァは、まさに自他ともに認める美貌の持ち主だったが、そんなアルストが妖艶な笑顔を見せるイヴァに好意を抱くことは無かった。いや、それ以上に勝手にこの世界に呼び出し、ニヤニヤしている目の前の女が気に入らなかったのだった。
「魔族の退治だと???ふざけるな。それよりなぜ、俺がお前の言う事を聞かねばならないのだ?俺を早くもとの世界に戻してくれ!!!!」
怪訝な面持ちでイヴァを睨みそう叫んだアルストに対し、冷笑を浮かべいたイヴァだったが内面は嵐のように怒りが渦巻いていた。
(あ”あ”!?何よこの男・・・・アタシが後でアンタを骨抜きにしてやるわ・・・覚悟していなさい。)
『ごめんなさい・・・元の世界に戻るには、魔族を滅ぼさなければならないの。』
怒りを何とか押し込め(笑顔・・・笑顔・・・)と自分に言い聞かせて口の端を上げたイヴァはアルストにそう告げるもアルストは舌打ちをして返した。
「チッ。(この女は嘘を言っている・・・俺は・・・戻れないのか・・・。)」
浅薄な嘘を簡単に見破ったアルストは、拳を握りしめてイヴァに背を向けた。
初めてされたその仕打ちに、はらわたが煮えくり返る思いをしていたイヴァが堪らず怒声を上げそうになったその瞬間、一人の人族の老人がアルストの前に跪いた。
「アルスト様!!あなた様のお怒りは分かります。突然、見知らぬ土地に呼び出され・・・戦えなどと言われては頭にも来るでしょう・・・。」
「・・・・。」
アルストは老人に向き直ると、上げた拳を振り下ろせないような奇妙な気持ちになった。
「ですが・・・私どもはあなた様の御力にすがりたいのです・・・。弱い我々は魔族に殺戮される一方でございます・・・どうか・・・どうか・・・お力を・・・。」
そう言って土下座した老人の後ろに立っていた人族たちが、その姿に居てもたっても居られなくなりアルストに詰め寄って来るとアルストに懇願し始めた。
「な!?・・・・・・!?」
「どうか・・・私たちを助けてください!!!!」
「お願いします!!!」
「私はどうなってもいい・・・この子たちの未来を・・・どうか!!!!」
「アルストさまぁあああああ!!!」
(これはいい・・・そうだ・・・この男を洗脳できなくても、きっと数多くの人族たちがこの男を魔族と戦わせてくれるわぁ。)
その状況を見ていたイヴァがニタリと笑みを浮かべると、背後で沈黙しているスレイル(力を司る神)に目を向けた。
『ねぇ?スレイル??』
『な・・何だい?イヴァ。』
『この男にあなたの加護を授ける事が出来るかしら?』
『ああ・・・出来る・・問題ないよ。』
『そう。おねがぁい。』
『ああ、いいよ。君のお願いは断れないさ。』
そう言ってスレイルがアルストに向かって手をかざすと、アルストの体が光輝いた。
「「「おおおおおおおおお!!!」」」
その光り輝くアルストの姿を目にした人族たちが声を上げた。
「ん??な・・なんだこれは??力が溢れる・・・。」
両手を広げたアルストが、漲る力に驚いてイヴァがいる方に目を向けると、その背後に立つ巨躯な男の存在に気づいて目を大きく開いた。
「わ!!!!お・・おま・・・あなたは!?!?」
加護を授かった事により『力を司る神』の姿を見ることが出来るようになっていたアルストは、その荘厳な姿に目を見張り驚いた。
(な・・・何よ・・・アタシとは態度が違うじゃない!!!)
アルストの発言にイラっとしたイヴァは、スレイルの腕に絡みつくがアルストはそれを無視していた。
『我は「力を司る神」だ。』
「神!?!?神様!?」
『そうだ。我がお主に「身体強化」のスキルを授けた。』
「スキル??」
『ああ。特殊な
「は・・はい・・。」
戸惑いながらもアルストが返事をすると、話す言葉がたどたどしくなっていたスレイルが、フラッと体が揺らめかすと彼の体に絡みついていたイヴァ手をすり抜けた。
『あ!?あああああ!!!!!スレイル!!!』
そのまま地面に腰を着けたスレイルは自分の透き通った手を見つめると、弱弱しくイヴァに話しかけた。
『イヴァよ・・・我は神力を使い過ぎたようだ・・・少しあの祠で神力を養う必要がある・・・しばし・・お主とは会えなくなるな・・・。』
『そんな・・・嫌よ!スレイル!!!!!』
『すまぬ・・・そうしなければ・・・我は二度と主に触れる事が出来ぬ・・・』
辛そうな表情を浮かべているスレイルを見つめながら、涙を零しているイヴァの様子に喜びを感じているスレイルに対して、アルストは冷ややかな視線をイヴァに向けていた。
その視線に気づいていたイヴァは『チッ!!面白くない男だ・・・。』と思いながらも、動揺している人族たちに手を広げると『皆様・・アルスト様に「力を司る神様」が加護を授けました!!!』と大きな声を上げた。
「「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」
「凄い!!アルスト様」
「何て事だ!!」
「救世主様ーーーーーーーー!!!」
イヴァの声に歓喜の声を上げる人族たちにアルストは慄いていた。
「な・・・何なんだ・・・ここにいる人間たちは・・・何なんだこの世界は・・・・。」
今度は動揺するアルストの姿を見てニヤついたイヴァだったが、アルストを洗脳出来なかった事は彼女にとって大きな誤算だった。
しかしこの時、バスチェナにも大きな誤算が生じていた。
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