第14話 第二の雷帝①
―イヴァリア歴16年4月17日―
「これ以上好きにはさせない。」
剣を構えたドゥーエは怒っていた。
魚を口に咥えながらニタァと嫌な笑顔を見せる魔猿達に向かって飛び出した。
****
―イヴァリア歴16年4月16日深夜-
日々行き交うはずの輸送船がグラティアから来なくなって2日経ったこの日、マリウスと共に魔物討伐隊に参加したドゥーエは、中規模の船に乗り込みマーテル河を利用してグラティアの漁港に向かった。
「ようやく出発ですね。」
「ああ。未だ農村や鉱山に人手を取られているからな。上も辛いところだろう。」
「そうでしょうけど・・・その間に被害が広がったら・・・。」
デッキの手すりに手をかけたドゥーエは、河の向こう側に見える軍部施設の明かりに視線を向けたながら上層部への文句を口にしていた。
「まぁ、そう言ってくれるな。これでも急かした方なんだからさ。」
「あ・・はい。」
ドゥーエの隣に立ったマリウスが、苦笑いを浮かべながらドゥーエにそう話すとドゥーエは少し申し訳なさそうに首をすくめた。
「それに今回は時間があったから、あの可愛い彼女にちゃんと出向する事を伝えられただろ?」
「な!!た、隊長も冗談を言うんですね。」
真顔から一気に顔を赤くしたドゥーエだったが、普段真面目なマリウスに揶揄われて戸惑いをみせた。
「ははは!顔真っ赤だな。」
「そ・・そりぁあ・・。」
「くくく。いや、すまんな。軽口でもたたかないとやってられなくてな。ここ最近の暗い出来事が多いだろ?」
「そうですね。」
「蛮族の襲撃・・討伐隊の敗北・・鉱山の崩落、ホロネルへの魔族の襲来、そして今回のグラティアの魔物騒動だ。たまには笑わないと気が滅入ってしまう。」
手すりに寄りかかり天を仰いだマリウスは風を受けながらそう話すと目を閉じた。
「確かにそうですね。」
そう言ってフッと笑ったドゥーエは、今度は真っ暗なアリエナの西側に目を向けるとバガンとセスとの訓練を思い返していた。
****
「はぁ・・はぁ・・・かなり体の使い方が良くなってきたぜ。」
「・・・ん・・・そうだな。」
「はぁ・・はぁ・・。でも、まだまともに当てれない。」
グラティアに魔猿が現れた情報がドゥーエの耳に入る1週間前。いつも通りバガンとセスの2人を相手に訓練していたドゥーエは、草原に腰を下ろして息を整えていた。
トントンと木剣で軽く肩を叩きながらバガンがドゥーエに歩み寄ってきた。
「そんな簡単にやられるわけにはいかねーが・・・それでも要所要所で電撃を交えたら俺らも簡単にやれるだろう??」
「いや・・あれは反則技みたいな気がして・・・。」
ドゥーエの言葉にニッと笑ったバガンは、座っているドゥーエの目線に屈んで合わせた。
「今はそれでいい・・・だが、今後は電撃を交えた戦い方を意識してみろ。」
「え?」
「そうしないと、いざという時に上手く立ち回れなくなるぞ?お前はこれまで戦いながら電撃を使った事がないだろう?」
腕を組んで立っていたセスがバガンの言葉に続けて補足する。
「自分の攻撃と電撃を放つタイミングを合わせるのは簡単ではないらしい。」
「それ、学園長の話?」
「そうだ。セレニーの話だ。立ち回りながら電撃の量を調整して放つまで相当時間が掛かったらしい。」
「分かった。やってみるよ。」
「ああ。じゃあ、さっそく次行くぞ。」
バガンが差し出した手を取り、立ち上がったドゥーエは電撃を使ってみるのは良いがマリウスや仲間たちにどう説明するべきか・・・ふと、その事が気になってしまった。
「あ!!でも、雷魔法を使える事をどう説明すれば・・・。」
「囚われている時に落雷にあったとでも言えばいいだろう?」
「そんな、大雑把なせつ、、、わ!!!」
「後で考えろ!!今はタイミングを合わせる事に集中しろ。」
「ったく!!!」
話途中で木剣を打ち下ろして来たバガンに驚いたドゥーエだったが、受け止めた剣を押し返すと木剣を構えてバガンに向かっていった。
****
―イヴァリア歴16年4月17日早朝―
「そろそろ見えてくるぞ。全員下船の用意をしろ。」
「「は!」」
マリウスの掛け声を聞いてデッキに上がった人数は20人前後だった。
蛮族討伐の時と同じ轍を踏むつもりなのか?と上層部に疑念を持ったドゥーエだった。しかし、今度は頼りになるマリウスが一緒だったのはドゥーエにとって安心できる要素だった。
上層部は、強くて統率力のあるマリウスをあまり外に出したくは無かったが、蛮族との敗北以来、後手後手に回っている軍部の評価は下がる一方だった。
頭を悩ませた上層部は、マリウスを投入することで少人数で討伐成功をすれば評価は回復の兆しを見せるだろうし、失敗してもあくまで応援の形だったと言い訳出来ると考えていた。
しかし、またしてもその甘い考えは覆されてしまう。
上陸するため徐々に河岸に船が寄り始めると、そろそろ漁港が見えてくるだろうと思った騎士が手すりから身を乗り出して前方を眺めた。
「ん?」
マーテル河の両岸は森になっているのだが、身を乗り出した騎士は木々の中に赤い光が2つある事に気づいて注視すると突如顔面に激痛が走った。
「ぎゃあああああ!!」
森から飛び出してきた魔猿に引っ搔かれたのだった。
「おい!!」
「こいつが魔猿??見たことがないタイプだぞ??」
「ギ!ギョオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
騎士の中央に飛び込んだ魔猿に驚き、慌てる騎士達を横目に魔猿は空に向かい遠吠えをする。
「剣を抜け!!急げ!!たぶんコイツは仲間を呼んだぞ。」
焦る騎士達にそう声をかけたマリウスの予想通りに、森の奥から遠吠えに答えるような叫び声が聞こえると、さらに5匹の魔猿が船に飛び込んできた。
「うあああ!!!」
「コイツら!」
「ギィイイ!!!」
飛び込んだ一匹が騎士の太ももに噛みつくが、剣を構えていた別の騎士がその魔猿を突き刺すと、さらに別の魔猿が甲板に飛び降りた勢いそのままに跳び上がって騎士を殴りつけた。
「がっ!!」
「ギャアアアア!!!!」
そのまま後ろに倒れた騎士に噛みつこうと跳び上がった魔猿をマリウスは冷静に斬り捨てた。
「大丈夫か?」
「は、はい・・・ひぃ!!!!!」
「どうした!?」
マリウスが倒れた騎士を起こすと、悲鳴を上げた騎士が森に向かって指差すと木々の間から無数の赤い目が船に向かってっ来るのが見えた。
「ギィイ!!!」
「ギャアアアア!!」
マリウスが顔を向けると、木々から続々と魔猿が船の甲板に着地した。
「火の精霊よ!力を貸してくれ!!!!」
マリウスの後方から剣を構えたドゥーエが魔円に向かって飛び出した。
「ドゥーエ!!」
「あああああああ!!」
ボオオオオオオオオオ!!
「キィイイイイイイイ!!」
「ギャアアアアア!!」
走りながら炎を纏った剣を振るうと、炎に驚いた魔猿達は一斉に手すりに飛び乗るとドゥーエに向かって威嚇する。
「ん!!!」
「ギ!?」
「ギャ!?!?」
しかし素早い魔猿達に一振りを躱されたドゥーエだったが、甲板を強く蹴ると一瞬で魔猿達に間を詰めた。
「くらえ。」
ボアアアアアアアアアアア!!
「グギャアアア!!」
「ギィィアアアアアア!!」
体を回転させながら手すりに並ぶ魔猿達に向かって一気に横薙ぎすると、焼き斬られた3匹の魔猿が悲鳴を上げながら河に落ちていった。
「おお!!」
「やるな!!」
ドゥーエの一撃に冷静を取り戻した騎士たちに対して、魔猿達は炎を纏うドゥーエの剣に怯えていた。
ギロッと肩越しに背後にいる魔猿を睨みつけたドゥーエは、剣を頭上に掲げると炎を巻き上げた。
「ギャッ!?」
「ギッ!!!ギッ!!!」
さらに明らかに動揺した魔猿達の隙をマリウスは見逃さなかった。炎に気を取られ、動きが止まった魔猿達を一瞬で斬り捨てた。
「ギ・・・ギギァアアアアアア!!!」
首や胴を斬り落とされた仲間たちを目にして、悔しそうに歯ぎしりした最初に船に飛び込んで来た魔猿がまた大きく叫び声を上げると、魔猿達は一斉に手すりを使って森の中に逃げ帰っていった。
「ふぅ・・よし!追い払えたな。」
マリウスがそう言って剣を収めると、船から全ての魔猿が去った事を確認したドゥーエも魔法を解除して大きく息を吐いた。
「よくやったドゥーエ。着いたようだぞ。」
「え?」
剣を収めたドゥーエに近寄りポンと肩を叩いたマリウスは、視界に入って来た漁港を指差しグラティアへの到着を知らせると、振り返ったドゥーエは静まり返った漁港を目にして息を呑むのだった。
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