第13話 歴史の嘘③
勇者アルストの物語。
エストが何度も何度も読み返した大好きな物語は嘘だらけだった。
物語を初めて読んだ時、エストは魔族とは獰猛で残虐な恐ろしい能力を持ち合わせてた化け物だという印象を持った。
しかし、エストや物語を読んだ人族たちがそう思うのも無理は無かった。
と、言うのも物語の出だしには
『魔族は一様に角(角の種類は様々であったが)を生やしていた。そして、ある者は獰猛な魔物を従え、ある者は鋭い牙を持ち、ある者は口から火炎を吹き、ある者は人族の3倍もの背丈があった。背中にコウモリのような羽根を持ち自由に空を飛ぶ者もおれば、上位の魔族の中には強力な魔法を使う者までいた。
無論、そんな魔族達に人族が敵うわけが無かった。』
とあった。
確かに、角族たちには一様に角が生えてあり、当時の人族に対して角族の魔法は強力だったと言えた。
しかし、その特殊な能力の全てが神々から授かったスキルだった。
獰猛な魔物を従えていたのは、ブレナが授かったスキル『
そして人の3倍もの背丈がある者とは、フレドが話していたスキル『
さらに、鋭い牙も持つ者や背中にコウモリのような羽根を持ち自由に空を飛ぶ者とは、バスチェナ城でドリアス(ドリアスを処刑させまいと足掻いた後、エストの部屋に来たドリアスが礼を言いながら)が明かしてくれたスキル『
しかし、物語では『魔族とはそういう生き物』だと思わせる描写が多く描かれていた。3人の勇者の物語でも魔族がスキルを使う描写はバスチェナの『時間停止』のみであり、他の者がスキルを使うような描写は一切書かれていなかった。
フレドを抱えたドイルが集落から逃げ出した途端、空間にヒビが入り、ガシャガシャと崩れ落ちる『
また、映像を見ている際に驚いた事が幾つかあった。まずひとつが今や敵だと認識し始めている『イヴァ』に魔法やスキルが効かなかった事だった。
次に、ドイルが自分と同じ『重力操作』のスキルを使用していた事と、自分とは違い『2倍』という単位だった事にもとても驚いたエストだった。
だが、そんな驚きを抑えながら、それよりもドイルのスキルが通用しなかったという事は、自分の『
一度、大きく深呼吸をしたエストは、フレドとドイルが逃げ出した集落跡地から少し離れて地図を開くと、今いる場所から一番近くにあると思われる集落跡地を目指し南西に向かって歩き始めた。
バスチェナ城を旅立つ前にガルシアから『お前1人がその嘘を知ってどうなる??変えようもない過去を知っても、お前はきっと憤るばかりだぞ??』と言われていたエストはガルシアが言う通り何度も何度も憤った。
だが、エストはそれでも旅の歩みを止めることは無かった。
前を真っすぐ向いて歩くエストは、過去を変えれなくても『過去を知った事で今の自分を変える事が出来る。』という考えに至っていた。
****
その後エストは3か所の集落跡地を巡った。
そのうち2ヶ所はフレドが訪れる前に・・既にイヴァによって住人達が洗脳されていた集落だった。
2ヶ所ともフレドを目にした途端『魔族が現れた。』と彼を追い立てたのは言うまでもない。
最後に訪れた集落は幸運な事にまだイヴァの影響を受けていない集落だった。
集落を訪れたフレドは住人たちと普通に会話出来た事を喜んだ。しかし、喜びは大きな落胆へと変わってしまう。
そこに暮らす住人達に他の人族たちが『洗脳』されてしまった事を伝え、イヴァの話に気を付けるよう必死に説得していると住人達は耳を傾けてくれたのだが、その後出現したイヴァによりあっさりと『洗脳』されてしまうのだった。
目の色が変わった彼らにも追い立てられ、森の中に逃げ込んだフレドは走りながら自分の無力さと情けなさを感じると涙が溢れ出てきてしまった。
足を止め、成す術無い状況に膝から崩れ落ちるとそのまま咽び泣くのだった。
・・・
その後、ふらふらと森の外に出たフレドの下に、気が強そうな顔をした額の中央に角を生やした女性が駆け寄って来た。
「やっと見つけた!!!こんなところにいたのね。フレド!砦に森の北から来たって言う奴があんたとドイルに会いたいって言ってるわよ。」
「え??」
「シャキッとしなさい!!」
そう言ってボーっとしているフレドの手を取ると、強引に東に向かってフレドを引っ張っていくのだった。
空間にひびが入り、スキルの終わりを告げるとエストは、フレド達を追いかけるようにここから東にあるジュナやプロトがいる砦に向かって走り出した。
―イヴァリア歴16年5月3日―
「おや?思ったより早かったね。」
日が傾き始めるころ、ノックされたドアを開いたジュナはドア先に立っていたエストの姿を見て目を丸くした。早くても数か月後だろうと思っていたエストが、半月ほどで戻ってきた事に驚いていた。
「すいません。まだ途中だったんですが、ちょっと気になった事がありまして。」
そのジュナの様子を見て『迷惑をかけてしまった。』と思い込んだエストは、後頭部に片手を当てながらペコッと頭を下げるのだった。
「そうかい。まぁ、気にしなさんな。こっちはいつ来てもらっても構わないさ。歓迎するよ。」
「あ、ありがとうございます。」
フッと笑ったジュナにホッと胸を撫で下ろしたエストだったが、居るはずの元気印が顔を出さないことに不思議に思ったエストはジュナの背後に視線を向けた。
「あの・・・プロトは??何かあったんですか?」
「ん?ああ。前にこの岩山の反対側にある海辺に移り住んだ者達がいる事を話したさね?」
「あ、はい。教えて貰いました。」
「心配しなくていいよ。プロとは数日泊まりでそこに遊びに行っているんだよ。」
「ああ!!そうなんですか。」
「ふむ。それで、今日ここに来た目的は・・・また砦に入りたいのかい??」
「はい。宜しければですけど・・。」
「いいよ。鍵を取ってくる。そこでちょっと待っておくれ。」
「はい。ありがとうございます。」
一度ドアが閉まり、そのままドアの前に立っていたエストは空に目を向けると『フレドに会いたいと言っていた人物』が誰なのか・・・何となく予想をしていたエストは思いを馳せるのだった。
****
スキル『
前回と同じく外で待っていると言うジュナに、頭を下げて砦の中に入ったエストはさっそく砦に戻って来たフレドの過去を見たいと望み、スキルを使用した。
砦に戻って来たフレドと、フレドと別行動を取っていたドイルの前に立った人物はエストが予想していた男だった。
「初めまして。フレド・アサント殿、ドイル・デギンス殿、お会い出来て光栄です。」
「ああ。俺たちに会いたいと言っていたのはお前だな??」
腕を組んで立っていたドイルが、片眉を上げてバスチェナを睨みつけた。
「はい。この森の北部から来ました。バスチェナ・エジルと言います。」
そう言って深く頭を下げてバスチェナと名乗った男は、先日城で会ったバスチェナより若々しくエネルギーが溢れているように感じた。
しかしそれは、城で会ったバスチェナが過去の彼より劣っているという意味では無く、成熟した強さと落ち着きを兼ね備えていた今のバスチェナより、過去視の中にいるバスチェナは若さゆえの危うさと怖いもの知らずとも言えるような不敵な笑みを浮かべていた。
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