第8話 追放されし者① ~イヴァ~
私は次元の狭間に追放された。
追放される前の私は神々から『地上の監視』なんていうただ眺めるだけのつまらない役割を任されていた。
何の干渉も出来ない・・・存在を知らせる事も出来ないなんて、そんな役割意味があるのかしら??こんな役割を考えたのって誰かしら・・馬鹿じゃないの?
馬鹿と言えば、そもそも私が追放された理由は神々・・・あの馬鹿達に食べるのを禁じられていた『能力の果実』を食べた事だったわ。
そもそもあの馬鹿達はなぜ「食べるな。」と言いながらあの『果実』を存在させたのよ???
存在させたって事は『食べろ!』って言ってる事じゃないの!?!?
それで食べたら追放って・・・・・・ホンッッットに馬鹿じゃないの!?!?!?頭に来るわ。
でも・・・あの変な男の言っていた通りだったわね。
私は『果実』を食べたことで・・・・
****
『あの果実を食べたら
****
真っ白に輝く美しい布の服に身を包んだ女性が、草原に腰を下ろしている男性の隣にゆっくりと腰を下ろした。
「ねぇ?サバヌ。」
「ああ。どうしたんだい?イヴァ。」
「サバヌはあの実を食べてみたいと思わないの??」
「あの実って、禁じられている果実の事かい??」
「そうよ。どうしてあの実はあるのかしら?」
「さぁ。僕には神々の意思は分からないよ。でも禁じられているからね。食べたいと思った事はないよ。」
くせっ毛を指でクルクル巻きながら『果実』に興味を見せずぶっきらぼうに彼は答えた。
「在るって事は、食べなさいって事じゃないかしら?食べるなって言うなら存在させなきゃいいじゃない??おかしいと思わない??」
そっとサバヌの顎に手をかけたイヴァは、妖艶な笑みで彼を見つめた。
「ああ・・・確かに君の言う通りだ。在るのだから食べても良いって事だな!!」
「そうよ。一緒に食べてみましょう??」
「ああ!」
****
黄金に輝く『能力の果実』はイヴァでは手が届かない位置に生っているが、イヴァより身長が高いサバヌならジャンプすれば手が届きそうな位置に実をつけていた。
木の下に辿り着いたサバヌはさっそく飛び上がると果実を2つ手に入れ、一つは自分の口元に運び、もう一つをイヴァに手渡した。
シャクッ!!と心地よい音を鳴らしながら実を食べたサバヌは恍惚な表情を浮かべていた。
「甘い!!とてもおいしい実だよ!!」
「ホントね!!とても甘くて美味しいわ。」
「もう一つ食べたくなったよ。」
あっという間に果実を食べ終えたサバヌは、先程より少し高い位置に生っている身を手に入れようと助走をつけるため果実を眺めながら後退りする。
「!?」
「どうしたんだい?イヴァ、心配しなくても半分あげるよ。」
口元に手を当て驚いた表情を目にしたサバヌは、イヴァにそう声を上げた瞬間ドン!と背後にある何かにぶつかった。
「よぉ・・サバヌ。」
深く威厳のあるその声を耳にしたサバヌは、恐る恐る振り返るとそこに『秩序を司る神』が神々しい光を放ちながら立っていた。
線の細い顔に冷静な切れ長の目をした『秩序を司る神』に睨まれたサバヌは腰を抜かして地面に尻もちをついた。
「ああああ!?!?!?」
「大丈夫よ。私に任せて!!」
しかし、サバヌの前に出たイヴァが笑顔を浮かべて目に力を込める。
『
これでこの神は自分の虜になると思い込んだイヴァだったが、そのスキルは『秩序を司る神』には通用しなかった。
パアアアアアン!!!
「きゃ!!!」
スキルを弾き返されたイヴァはよろめき地面に両手をついた。
「イヴァ!!大丈夫かい?」
「サバヌ・・・。」
「さっそく能力を使用したようだが、その実で得た能力は我々には通用せんぞ。それにしてもその能力を地上に生きる者達につかわれてはかなわんな。」
「能力??何の事だい??」
「果実を1つ食べたら、1つ好きな能力を手に入れられるのよ!!!」
「何だって!?なぜ君はそんな事を知っているんだ!?」
イヴァの発言に驚いているサバヌを余所に、『秩序を司る神』が片手を掲げると光が弾けた。
「使いの者達よ。ここに集え。」
神の呼びかけに応じた背に羽を生やした天使たちが続々と集まってきた。
「どうされました?」
片膝を着いた天使が『秩序を司る神』に首を垂れながら問いかける。
「サバヌとイヴァが禁じられて果実を口にした。」
「なんと!?」
「愚かな!!」
そう嫌悪した天使たちが彼らを睨むが、恍惚とした表情を浮かべたサバヌがゆっくり立ち上がるとスキルを発動した。
「これでいいのかな?イヴァ。」
「ええ。逞しいわ、サバヌ。」
スキル『
細身のサバヌの体が筋骨隆々になると、勢いよく捕まえようとしてくる天使たちを蹴散らす。
その様子を静観していた『秩序を司る神』は小さくため息を吐いた。
「まったく・・・またしても篭絡されおってからに。」
「はぁああ!!僕は無敵だぁ!!!」
自分の強さに溺れたサバヌが目を血走らせながら、倒れた天使の首根っこを掴み『秩序を司る神』に投げつけるが、その場に『秩序を司る神』の姿は無かった。
「な!?どこに逃げた!!!」
「逃げてなどおらぬおぞ。」
「なに!!がっ!?!?」
サバヌの背後から静かに姿を現わした『秩序を司る神』に首を軽く突かれたサバヌはあっさり前のめりに倒れた。
「連れていけ。」
「は!!」
元の細い体に戻ったサバヌを天使たちが連行していくなか、イヴァも地面に倒れ込んだ。
倒れたイヴァの後ろに立っていた『秩序を司る神』が、汚らしいものを見るような蔑んだ目を彼女に向けていた。
「この悪女が・・・。」
****
「う・・あ・・・。」
目を覚ましたサバヌとイヴァは、両手両足を光の輪で拘束され白い床の上に横たわっている状況だった。
「ふむ。そうであったか。しかし・・・難しいものだな。」
「そうですが・・そういうものですよ。」
「確かにな・・・。」
「ああ・・・・・。」
意識がはっきりとしてきたサバヌは『秩序を司る神』と会話をしている相手を目にした途端、ガタガタと恐怖で体を震わせていた。
「では・・裁きを始める。」
『秩序を司る神』がそう口にすると、弾けるようにサバヌが大声を上げて弁明し始めるた。
「この女です!!!私はこの女にたぶらかされたのです!!!!どうか、どうかご慈悲を!!!!!」
「な!サバヌ!!!このぉおおおおお!!!自分だけ助かろうなんて許さないわよ!!!!」
「黙れ・・・。」
円環の杖を手にした長く白い髭を蓄えた男が静かに、それでいて荘厳な声を放つとサバヌとイヴァは喉を鳴らせて押し黙るしかなかった。
「確かに、お前はイヴァに誑かされたようだが・・・罪は罪だ。許すわけにはいかん。」
「そ!?そんな!!!」
「お前は肉体強化の能力を手にしたようだな。お前には今後その力を活かした労働を行ってもらうぞ。永遠にな。」
「・・・・。」
「返事は?」
「は・・はい。」
落胆したサバヌの目から流れ落ちる大量の涙が床に広がっていた。
「さて、イヴァよ。お前にはこの世界から去ってもらう。」
「え!?」
「永遠に次元の牢獄に入り己の行いを悔いるがいい。」
「嘘でしょ?何言ってるの???」
「問答無用だ。」
手足を縛られながらジタバタと暴れるイヴァだったが、その艶めかしい肉体の下に大きな穴が出現するとズブズブと下に沈んでいく。
「待って!!やめてください!!!!どうか!!どうかご慈悲を!!!いやあああああああああああああああああああ!!!!」
泣き叫ぶイヴァを無慈悲に穴が飲み込み終えるとバクッとその口を閉じた。
悲し気な目でその様子を見ていた円環の杖を持っていた男は項垂れていた。
「こんな事になるとは・・・・愛していたぞ・・・我が娘よ・・・。」
****
「あの馬鹿・・・本当に私を追放しやがった。」
次元の狭間に放り投げられたイヴァは、拘束の輪から解放されたが永遠の牢獄に閉じ込められていた。
イヴァは爪をかじりながら憎悪が溢れ出した顔つきをしていたが、体を小さくこごめると小刻みに体を震わせ始めた。
「うふふ・・あは・・・あははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!まぁ、いいわ。あんな堅苦しいところから解放されて清々したわ!!」
そう叫び笑い今度は先程とは反対に体を大きく伸ばしたイヴァは、唇に人差し指を当て歪んだ笑みを浮かべていた。
彼女は『能力の果実』を2つ口にしていた。
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