第9話 スキル「0⇔100(ゼロワンハンドレット)」

エストは135°くらいの角度で頭を下げている。


「もう良いですって!!頭を上げてください!」


「はい。」


エストは恐る恐る顔を上げた。怒ってはいないようだ。


「さて、仕切り直しと行きましょう。」


「はい!!」


グエナがパンっと手を叩くと、いい返事でピシッと直立不動の姿勢となったエストに、再び苦笑いを浮かべるもグエナは話を進める事にした。


「今日、あなたをここに呼んだのは、あなたに「スキル」を授けるためです。」


「え!?スキルを!?ホントですか!?!?!?!?」


「くっっ・・」


グエナは笑いそうになったのを必死で堪えた。先程まで、マサトの息子だと知り、この世の終わりかのように、項垂れ落ち込んでいた少年が「スキル」と聞いた途端、目をキラキラに輝かせ始めたのが可笑しかったようだ。


「はい。くくっ・・スキルです。あなたに『重力を司る神』がマサトと同じ重力操作のスキル「0⇔100(ゼロワンハンドレット)」を授けます。」


「おおおおおおおおお!!」


さらに見開いた目はキラッキラだった。


「このスキルは、あなたが目視した対象、あなたが思う対象、あなたが思う範囲にあなたが重力をかける事が出来ます。」


「・・・・。」


「聞いて・・・へぇ・・・ふふっ。」


スキルの説明に入ると、エストは途端に静かになった。グエナの言葉に耳を傾け、聞き逃すまいと集中しているようだった。その様子にグエナは感心し、微笑んだ。


「続けます。あなたが目にした対象、それは簡単ですね。」


グエナが掌を差し出すと、その上に赤い球体が現れた。


「あなたが今目にしている球体を対象にと思えば、この球体のみに重力操作が出来ます。」


エストは無言で頷いた。


「次に。」


と、グエナが言うと赤い球体は透明になり、透明になった球体の中に赤い小さい球体が現れた。


「思う対象とは、あなたがこの中にある赤い球体のみに重力操作をかけたいと思えばその通りになります。そして、あなたが思う範囲とは『この球体を中心に!』と思えば、球体を中心に半径2mまでの範囲内に思う重力をかける事が出来ます。また、範囲はあなたの修練次第で広げていく事が出来ます。ここまでは良いですか?」


「何とか・・・。」


「ゆっくり行きましょう。」


腰を据えたグエナは、丁寧にエストに説明を続けた。


まず、グエナはこのスキルの重力操作単位がG(gravity)という単位になっている事を説明した。


そうなったのはマサトの所為だった。マサトが重力操作のスキルを授かった際に、ユウタが何度も1Gとは重力加速度の事で、この世界の重力が地球と同じなら、物体に作用する力の基準は9.8Nだ!と力説しても、まったく理解出来なかった。そして何よりマサトが「gravity」の方が「かっこよくね??」という意見を曲げなかったのがその何よりの原因だった。結果、スキルを使う者が分かりやすい方が良いと「重力を司る神」が妥協した形になった。


話は戻り、LV.1の重力操作は足し算式になっている。先程の通り、マサトが勝手に9.8Nを10Gという基準にしてしまった為、エストが11Gと思えば、10.8Nになり、20Gと思えば19.8Nとなり、現在の約2倍の重力がかかる事になる。そして、0Gと思えば文字通り無重力になる。それを0~100の範囲内で使用出来るようだ。


また、LVは範囲と同じく修練次第で上がるらしい。


それとLV.1では複数へ同時に重力操作をかけるのは不可能だった。半径2mの範囲内に2人いれば、範囲内に20Gをかければ2人とも約2倍の重量がかかるが、2m前方に1人、2m後方に1人いた場合は片方にしか重力をかけられないという仕組みだった。(ちなみに、スキルのLVが上がった際はスキルから頭に直接「お知らせ」が来るらしい。)


以上が、エストに授けられたスキル「0⇔100(ゼロワンハンドレット)」の内容だった。


「まずは無理せず、一つ一つ試してみて下さい。」


説明を聞き終えたエストは「ふぅー。」っと長く息を吐くと


「はい。全部を覚えきれていないと思うか・・・思いますので、そうしてみます。」


と笑顔で頷き答えた。


「そうして下さいね。では、私からもあなたに加護とスキルを1つ。」


「え!?グエナ様からも??」


「はい。」


満面の笑みを見せたグエナは、エストを引き寄せるとエストの額に口づけをした。


「わっ!?え!?」


「ふふっ。これであなたに私の「加護」を授けました。」


「・・・・・。」


額を押さえたエストは頬を真っ赤にしていた。


「何とか言ってください。私も照れてしまいます!」


「あ・・ありがとうございます。」


「もう・・・。そ、それとあなたには「成長無限」を授けましたよ!」


「へ??」


「これは、重力を司る神と相談した事なのですが、今の人族ではどんなに鍛えても、耐えられる重力に限界があります。あなたはその限界を超えて成長したいですよね??」


「はい!!」


エストは両拳を握り、フン!と鼻息荒くガッツポーズを取った。


「ふふ。ですよね♪なので重力を司る神にも「重力無効(例えば100G範囲内に居ても自分だけは無効)」というスキルがあったのですが、あなたの努力次第でどこまでも成長できる「成長無限」を授ける事にしました。」


そう言ってニコッと笑ったグエナであったが、スッと視線を落とすと今度は厳粛な声で話し出した。


「そして、エスト、あなたに守ってもらいたい約束があります。」


「はい・・。」


その声にエストも畏まった。


「一つ、次に私と会うまでマサトの息子だと周囲に明かさないで下さい。ちなみに母親には話しても良いですよ。」


「はい。」


「もう一つ、しばらくスキルは自分の修練にのみ使用して下さい。」


「え?・・・はい。」


「大丈夫。あなたなら、自分以外に使用するべきその時を、きちんと判断出来る。そう私は信じています。」


「・・・。」


エストは無言で頷いた。


「はい。では、それが私との約束です。」


グエナは元のトーンで話始めると小指を立てて来た。


「え?」


「『ゆびきり』ですよ?」


驚いたエストは目を丸くしていた。「ゆびきり」は自分の母親と、大切な約束をするときにだけ行っている儀式だった。この世界で誰も知らない、自分達だけの約束の儀式だった。


「どうして、知っているんですか??ゆびきり・・。」


「秘密です!!」


「ぶふぉ!!」


エストは先程までの厳粛な態度とは正反対に、茶目っ気たっぷりに答えるグエナが可笑しくて吹き出してしまった。そして、そんな女神を何故か「信じてみよう。」と思うのだった。


「はい!!約束します。」


エストは自分の小指をグエナの小指に絡めて微笑んだ。



****



グエナは『ゆびきり』をすると、ペコッとお辞儀をした。



そして、別れの挨拶をしよう・・


「長々とありがとう。エスト、これで・・・え??なに??ええ!?」


として、邪魔されたようだ。


「どうしたんですか??」


「あの・・・エスト・・重力を司る神が、あなたにマサトが重力操作のスキルを授かったときに言った言葉を伝えて欲しいそうです。よ、良いですか?」


「は、はい!勿論です!!」


ゴクリと喉を鳴らし、エストはその言葉を待ち構えた。




そして、少し嫌そうな顔をしていたグエナが、意を決し、エストにマサトの言葉を伝えた。



「いきます!・・・・・『え!!重力を自由に?じゃあ、俺自身にも好きに重力をかけられるのか?これって、何倍もの重力の中で修業が出来るってやつ!???やべーーーーーーーーーー!!!!何倍もの重力の中で鍛えた後にブチギレでもしたら、俺「スーパーサ●ヤ人」になれちゃうんじゃね??』・・・・でした。」








「は???」




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