第10話 ゆびきり

「は?」


エストは・・自分の父親の言葉の意味が分からないようだった。当然であるw


すると、恥ずかしそうにしていたグエナが


「わ、私もマサトの発言の意図はよく分かりませんが、自分に重力負荷をかけて体を鍛えるのはすごく効率が良いって事みたいです。」


と、念のため補足した。


「あ、はい!そこは分かりました。」


苦笑いを浮かべたエストだったが、その言葉に従い「スキル」で自分を鍛えてみる事にした。


「よ、良かったです。」


ホッとした顔をしたグエナの手を、キュッと軽く握ったエストは女神 グエナに感謝をした。


「『今日、洗礼の儀式で僕はどうなるんだろう?』って不安もあったけど、グエナ様に会えて良かったです。スキルや加護まで授けてくれて・・・・あと、僕の父さんの事を教えてくれて、本当にありがとうございました。」


「エスト・・・私もあなたに会えて大変幸せでした。」


目元を拭ったグエナが華やかな笑顔を見せると、洗礼の間に居た時と同じようにエストの意識が遠のき始めた。


「また会いましょう。エスト。」


「は・・・い・・・・」


エストの瞼はゆっくりと閉じていった。



****



「きみ・・・・きみ・・・・」


「ん・・?」


「君!!!!!」


「え!?」


がばっと体を起こしたエストに司祭は安堵の表情を浮かべた。


「大丈夫かい??」


「あ・・はい。」


「君、数分意識を失っていたよ。」


「え???数分????ですか?」


「はぁ・・。」


呆けたエストに司祭はため息をつくと、エストを立たせ外に促した。


「君の儀式は終わったよ。君は家業を継ぎなさい。」


「あ・・はい。分かりました。」


まだ呆けていたエストは、足元を確かめるようにゆっくりと洗礼の間を後にした。


****


エストが教会を出ると、リュナが外で待っていた。


「お疲れ様。どうだった?」


心配そうに声を掛けたリュナだったが、エストはボーっとしていた。


「大丈夫??司祭に何か言われたのかい?」


不安になったリュナが、エストの両肩を掴みゆすった。


「え??司祭??あ・・『家業を継ぎなさい。』だって。」


「え!?そうだったの・・・。」


リュナはエストが司祭に家業を継げと言われた事に、ショックを受けているのだと思い違いをした。夢の中から抜け切れていないような、朦朧としているエストにリュナは心を配った。



自宅までの道中、リュナはエストを励まし続けたが、エストは心ここに在らずの状態だった。



****



家に着き、未だに呆けているエストを椅子に座らせたリュナは、息子の気持ちを落ち着かせるため紅茶を淹れる準備を始めると、その様子をぼーっと見ていたエストが口を開いた。


「母さん・・・。」


「え!?母さん??」


突然の敬称変更にびっくりしたリュナだったが、次の言葉にもっと驚いた。


「僕の父さんは・・勇者 マサトなの?」


「は???もう一回お願い。」


「勇者マサトは僕の父さんなの??」


「は!?ええええ!?!?何で???え?ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!・・・・・はぁっはぁっ・・・どういう事!?!?」


息をするのを忘れるくらい動揺したリュナは、両膝に手を付き、肩で息をしていた。



「・・・・・。」



「ん?どうしたの?変な顔をして。」


「だって・・・・僕と全く同じリアクションするんだもん。」


「あ、そうだったの??・・・・ってか、誰に聞いたの!?!?知ってたのどいつ!?教えなさい!!今すぐ、そいつを始末す「ちょっと・・母さん!!!!ごめん!!!ちゃんと説明するから!!!!(今、始末するって言おうとした??)」


エストは狼狽えて自分の両肩を激しく揺らすリュナを制止すると、そのリュナの様子からマサトが自分の父親なんだと改めて認識した・・・・リュナが言いかけた言葉に怯えながら。


「驚かせてごめんなさい。」


「ううん。エストは悪くないわ・・・・。ごめん。動揺しちゃった・・。」


視点をウロウロさせながら、今度は自分の気持ちを落ち着かせるため、いつも通りエストの向かいに座ると、深く呼吸をした。


少し間をおいて、エストは今日あった出来事を伝え始めた。




「あのね・・今日・・・洗礼の間に入って、司祭が何か話始めたと思ったら・・・・。」




身振り手振りで一生懸命説明する我が子の話を、真剣に聞いていたリュナは・・・・頷いたり、眉間に皺を寄せたり、表情を変えながらも息子の話に耳を傾けていた・・・・・・・・・が、最後の言葉で爆笑した。





「・・・・・ブチギレでもしたら、俺『スーパーサ●ヤ人』になれちゃうんじゃね??だったんだ。」




「ブフッ!!!あは!あはは!!あはははははははははははははははははははははははは!!!」


リュナの大爆笑は家の外にも響き渡った。ちょうど家の前を通りかかった散歩中の老夫婦は、「今日もリュナさんとこは楽しそうじゃのう。」「そうですねぇ。」と話していた。



ヒーヒー言いながらテーブルを叩いていたリュナが、一頻り笑い終えると椅子の背もたれに体を預け、遠くを見つめながら微笑んだ。


「あの人たまに訳わからない事言うのよね。自分の世界では流行ってたって・・・・こっちの住人に分かる訳もないのに・・ふふっ。」


リュナの乙女のような表情を初めて見たエストは、ちょっと頬を赤らめてしまった。


「ん?」


「母さんのそんな表情かお初めて見た。」


「そりゃあ・・・・・ね。」


照れ臭そうに目配せしたリュナは、テーブルの上に着いていたエストの手を握ると、覚悟を決めた顔をして話し出した。


「そうだよ。あなたの父親は、マサト・ソノザキで間違いないわ。そして、女神様が話したようにあなたの父親は物語に出てくるような・・堕落するような人物ではない事だけは知っていて欲しい。」


「うん・・・母さんの言葉を僕は信じるよ。」


「そう・・・ありがとう。でも、この事をグエナ様から知らされるとは思いもしなかったわ。しかも、のスキルを受け継ぐなんてね。」


「え!?母さん、グエナ様の事、前から知っていたの??どうして??」


「んーーーーー。秘密!!」


にぃっと笑って話すリュナに、エストは項垂れた。


「もう・・今日は秘密ばっかり。」


「女は秘密が多いのさ。」


得意気な顔をしていたリュナだったが、スッと真面目な表情に戻った。


「ところで、エスト。今日のグエナ様の話事態、みんなには秘密にしなね?」


「うん。僕もそう思ってた。」


「いい判断よ。人族はグエナ様の存在を知らない・・・と、言うよりは忘れてしまっているって表現の方が正しいのかな???。」


「忘れて?僕は今日初めて知ったよ。」


「そりゃそうよ。今のは300年以上前の話だもの。」


「え?母さんって、もしかして300歳以上なの???ブッ!?」



引っ叩かれた。



「その話は時が来たらね。あとレディに年齢ジョークを言うもんじゃないよ。」


右手を振りぬいた格好のまま、そう語るリュナに対してエストは左頬をさすっていた。


「別にジョークじゃ「あ゛???」・・・・すいませんでした。」


エストは135°くらいの角度で頭を下げた。


「で、なんで「母ちゃん」から「母さん」になったの??」


「え??あなたはマサトの子って言われた時に、自然と「父さん」って思ったから・・何となく。」


「父さん・・母さんか・・・・・・・・・・・・・・・・まぁ・・いいか。」


相当悩んだようだが、何とか納得したようだ。


「それ、そんなに悩む事なの??」


「あんたにも分かる時が来るわよ。」


「ねぇ、もっと父さんの事教えてもらっていい?」


「また今度ね。グエナ様から自分の目でとか云々言われたんでしょ?」


「あ!そうだった。」


グエナの言葉を思い出してエストは頭を抱えた。


「まぁ、グエナ様の考えに支障が無さそうな事は話してあげるから。」


「んーーー・・・・分かった。あ!それと、もう一つ分かった事があったよ。」


「何?」


「母さんが、3人の勇者の物語が嫌いな理由。本屋でねだった時も凄い顔してたし。」


「ああ、あれね・・・。あれはあまりに内容が酷すぎて我慢してたのよ。」


「え??何を???」


「店に売ってある本を全部破り捨ててしまいそうになって・・・。」


リュナはフン!!と面白くなさそうな顔をして腕を組んだ。


「は??」


エストは引き攣った顔のまま固まっていた。


「で、でも、今まで何で教えてくれなかったの?」


「聞いてこなかったから。」


「あーーー。確かに。」


この親子は普通では無かった。エストの父親がマサトだった事を伏せていた理由を大幅に省き、一言で終わらせたリュナもリュナだったが、それで納得してしまうエストもエストだった。


「それより、卒業したらどうするつもりなの?」


「え?まだ考えもしてなかった。」


「まぁ、そうよね。」


「あたしからの提案は聞いてくれる??」


「うん。」


「なら、卒業したら取り敢えず農業を手伝いなさい。」


「分かった。」


「そして、グエナ様が言うように自分を鍛えなさい。」


「は?」


「取り敢えず最初は1日手伝いしたら、次の日は自由にしていいわ。自分の好きなように鍛えてみなさい。今でもあたしの稼ぎで十分食べれてるから、1日おきに手伝ってくれたらそれでいいわ。」


「でも、いいの??」


「勿論よ!気にせずやってみなさい。ただし、手を抜くんじゃないわよーーーー??」


「当たり前だよ!」


そう言うとエストは胸をドンッと叩いて立ち上がった。


「じゃあ、約束!!」


リュナが小指を差し出して来た。


「うん!!」


エストも小指を差し出し、リュナの小指に絡めた。



そして、絡めた指を上下に振っていつものように歌い始める。



「「ゆびきりげんまん嘘ついたら針千本の―――ます!!」」



そこまで歌うと、2人は「すぅーーーーっ」と思い切り息を吸い込み、目を合わせてニッと笑い合うと、勢いよく絡めた指を振り下ろした。






「「指きった!!!!」」

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