第8話 勇者マサトの子
―イヴァリア歴12年8月20日-
門兵に書類を渡し、すべての手続きを終えたカリンと両親は神国の馬車に乗り込んでいた。
この後、東城門が開くとカリンがアリエナを去って行く。
4人はそれをクラスメイトと共に見送りに来ていた。
馬車の窓から、顔を見せたカリンは軽く手を挙げたエストと目が合うと、頬を少し赤く染めて微笑んだ。
その様子を見ていたイリーナがエストに声を掛けた。
「ねぇ?エスト??」
「ん?」
「この1か月でカリン、すっごく可愛くなったわよね。あんたやるわね。」
「え?何?」
「カリンから話は聞いたよー。」
エストを肘でつんつん突いているイリーナの言葉を聞いたクラスメイト達が、ジト目で見てくるのでエストは少したじろいだ。
「な・・何??」
「ちょっと腕輪外して見せなさいよ。」
「え!?なんでその事まで???嫌だよ!?」
腕輪に手を掛けようとしてきたイリーナから逃げるエストは、カリンに目を向けると両手を合わせ、舌を出し「ごめーん。」のポーズを取っていた。
「あははは!エスト恥ずかしいの?」
「恥ずかしいよ!!」
少しムキになったエストを見てイリーナは驚いた。
「何??どうしたの?」
「うん・・今、顔を赤くして恥ずかしいって言った。」
「ああ・・・・・言ったな。」
イリーナの隣で見ていたドゥーエとクリードもポカンとしていた。
「カリンから聞いた時はちょっと信じられなかったけど・・・成長したのね。お母さんは嬉しいわ。」
「うん。お父さんも。」
「プー!クスクス。」
「はっ!?いつイリーナとドゥーエが僕の両親になったんだよ!!その目やめてよ。クリードも笑ってないで「ちょっと!その話、詳しく聞かせてくれない??」
「メリル先生!?」
生暖かい目でエストを見ていたイリーナとドゥーエの間から、メリルが顔を覗かせた。
わちゃわちゃしている彼らを他所に、城門を開ける笛の音が鳴り響いた。
その音にハッとしたエストは馬車に駆け寄った。馬車の窓は既に閉められてしまっていたが、見つめ合った2人は心の中であの約束を交わしていた。
城門が閉じられ、遠ざかっていくアリエナを見つめながらカリンは腕輪をそっと撫でていた。エストが腕輪を外すのを恥ずかしがった理由は、内側に刻まれたEとKの2つの文字を囲うようにハートのマークが刻まれていたからだった。ちなみにカリンがエストにお目々ぱちぱち+上目遣いコンボでねだったのは言うまでもない。
-イヴァリア歴12年8月27日-
カリンが居なくなってから、数日、抜け殻のようになっていたエストだったが、1週間も経つといつも通りのエストに戻っていた。そして、持ち前の優しさと明るさそのままに、少し大人びた顔つきになった彼の姿にメリルは目を細めていた。
―イヴァリア歴12年11月15日―
エストが洗礼の儀式を受ける日が来た。
カリンと同じように、様々な儀式を経て洗礼の間にやって来たエストは、『女神の心』の前で膝を付き、手を組み、首を垂れた。
司祭が杖を振るい、祝福の言葉を述べ始めた途端・・・・・・エストの意識は遠のいていった。
*****
真っ白な世界の中で目を覚ましたエストは、目の前に現れた1人の女性に目を奪われた。年齢は、今年25歳になるというメリル先生(聞いて怒られたが)と同じくらいに見えた。質素な白いドレスに身を包んでいるのだが、婉麗でとても品のあるその女性は、自分の全てを包み込んでくれるような、とても穏やかな瞳をしていた。
「ああ。あなたは勇者マサトの子ですね。この日を待っておりました。」
「・・・・・・。」
「どうしました?」
「はっ!!!え!?!?」
「ああ!私の名はグエナと言います。」
「いや・・・その前の・・・」
「勇者マサトの子??ですか?」
「はい、それです・・・って、えええええええええええええええええええええええええ!?」
エストは飛び上がった。
「どうしたのですか?大丈夫ですか???」
「僕、堕落の勇者の子供だったの!?!?」
「はい!そうです。ただ、人族はそのように「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!・・・・・はぁっはぁっ・・・どういう事!?!?!?」
息をするのを忘れるくらい動揺したエストは、両膝に手を付き、肩で息をしていた。
「あの・・・。」
「はっ!はい。すいません・・・驚きすぎちゃって。」
「いえ・・でも、まさか発言にかぶせてくるとは思いませんでした。」
苦笑いを浮かべた女性に、エストは何度も頭を下げた。
「あの・・・気持ちは落ち着かれました?」
「はい・・だいぶ・・あの、さっき言ってたのは本当の事なんですか?」
「はい。あなたは勇者マサトの子。間違いありません。」
「・・・・。」
返事をしないエストはガクッと項垂れていた。
「・・・・・・・。」
「あの、酷く・・落ち込まれてるようですが・・。」
「はい・・僕、勇者に憧れていたんです・・・アルストやユウタ・カザマのような勇敢な勇者に・・・それがまさか「堕落の勇者」の子供だったなんて・・。」
「それは違います。」
「え?」
毅然とした声で、エストの言葉を否定すると、彼女はエストの両肩にそっと手を置いた。
「マサトは勇敢でした。」
「え、、でも、物語では・・。」
「物語は物語です。真実はあなたが自分の目で確かめる必要があります。」
「確かめる????どうやってですか?」
「ふふ。それはまだ秘密です。」
そう言いながら悪戯っぽい笑顔を浮かべて、人差し指を自分の口元に寄せた。
「あなたは・・・。すいません。動揺し過ぎて・・・。」
「私はグエナと言います。この世界を司る女神です。」
「は?」
「ん?」
「女神ってイヴァだけじゃないんですか?」
「違いますよぉ。」
「え?ええええええええ「それはもういいです。」
エストは飛び跳・・止められた。
「今日はあなたに説明をするために、ここへ呼んだわけじゃないです。はぁ・・こんなに話が進まないとは思いませんでした。」
「何だかすいません。」
苦笑いを浮かべた女神に、エストは何度も頭を下げた。
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