第3話 仲良しな5人

午前の授業が終わり、お昼休みになると校内にある食堂にぞろぞろと生徒達が集まってきた。エスト達も教室を出て堂に向かうと途中に職員室からメリルが出てきた。


「あ!メリル先生も今日は食堂ですか?」


「はい。今日は食堂でいただきますよ。」


「じゃあ、一緒に行こう♪」


「はい!わっ!?慌てないで行きましょう。」


わーい!と複数人の女生徒に両手を取られ、引っ張られる形になりながらメリルは食堂に向かって行った。メリルの見た目は佳麗なのだが、口調は温和で柔らかく、話しやすい事から女生徒達に大人気だった。


「先生も大変だね。」


その様子を見ていたエスト達も職員室を過ぎ、その隣にある学園長室の前を通っていった。


****


ミューレル学園は大富豪ミューレル・セレニーが43年前に設立したアリエナ内でも歴史が浅い学校だった。元々ミューレル学園から北東の位置にある都立学校が、農産北東区域、商業西北区域、中央西区域の子供たちが通う学校になっていたが、出身区の違いによる差別やいじめがあからさまに存在していた学校だった。そこに勤めていた教師達も中央区出身者が多かったため、教師達にも差別的感覚が染みついていた。


それを激しく否定したミューレルは、子供たちが健やかに学べる場を設けたいと自ら出資金を出し学園を立ち上げたのだった。反対派が多かったが、ミューレルの考えに賛同した者達も少なくはなく、今ではその賛同者からの寄付金や、ミューレル達の説得に折れた都政からの補助金・助成金などで運営されていた。


それにより、都立学校には中央区の子供たちのほとんどが、ミューレルには商業区、農産区の子供たちのほとんどが入学するようになっていった。また、中央区に住む親達の中にもミューレルの考えに共感した者は多く、自分の子供を都立ではなくミューレルに入学させる者も少なくはなかった。



****


「エスト!もうちょっとゆっくり食べた方が良いよ。」


「ふぁ??」


ガツガツと夢中になって給食を食べていたエストは、コッペパンにかぶりつきながらキョトンと目を丸くしてカリンを見つめた。学園の給食は、流通が盛んな交易都市という事もあり、魚があり、野菜があり、肉もありとなかなかにバランスが取れた内容になっている。


「もう・・聞いてるの??」


「ダメだってカリン。こいつ何かに夢中になってる時、ぜんぜん他人ひとの話聞かねーもん。」


「そうそう。」


ドゥーエがフォローし、イリーナが頷きながらそれに同意するも、カリンは頬をプクッと膨らませたままだった。エストは「何の事??」と言わんばかりにパンを咀嚼しながら首を傾げていた。


クリードは「うふふ。」と体格に似合わない笑い方をしながらその様子を見ていた。


エスト、カリン、ドゥーエ、イリーナ、クリードの5人は仲が良く、いつも一緒に給食を食べていた。


エストとカリンは農産区の北東地域に、ドゥーエとイリーナは商業区の西北地域に、クリードは中央区西側の居住地域に住家があった。この5人が仲良くなった始まりは、入学式で隣同士になったカリンとイリーナが一気に打ち解けた事だった。そこに自然と互いの幼馴染であるエストとドゥーエが混ざるようになっていった。


そして、クリードは何かとエストと近い席になる事が多く、頻りに声を掛けるエストに引っ張られた形だったが、クリードはそれをとても喜んでいる様子だった。


そんなニコニコ顔のクリードだったが、給食を食べ終えると少し寂しげな表情に変化していた。


「クリード、どうしたの??お腹でも痛いの??」


その表情の変化に気づいたカリンがクリードを心配して話しかけた。


「う・・ううん!大丈夫だよ。も、もう少しで、僕たちも卒業なんだなぁ・・って思っちゃって。」


「お!!なんだクリード。卒業なんか気にして。そんなに俺たちと離れるのが寂しいのか??」


パンっとクリードの肩を叩いたドゥーエが、少し意地悪な表情でそう話しかけると、クリードはそのまま寂しそうに眉毛を下げたまま微笑んだ。


「う・・うん。寂しいよ。」


「お・・おお。素直に言われると照れるな。」


「あははは!!でも、そうよね。来年には洗礼があるものね。」


頬をポリポリ掻いて照れているドゥーエを見て、笑いながらイリーナが話したのは、『洗礼の儀式』の事であった。



神国イヴァリアが誕生した際、いくつか追加された法律があった。その中の1つが『洗礼の儀式』だった。


元々人族は揃って「女神イヴァ」を信仰していたため、各地にその教会は多く存在していたのだが、王国が神国となると神国から高位の司祭が派遣される事になった。


そして、「神国イヴァリア誕生後、12歳を迎える者はその誕生日に各地の主となる教会へ赴き、『女神の心』の洗礼を受け、祈りと誓いを奉げなくてはならない。」という法律が制定されたのだった。


『女神の心』とは各地の主となる教会に派遣された司祭が、女神より授かった別名「神玉(しんぎょく)」と呼ばれる玉だった。(また、神国誕生後、12歳以上だった人達の中で政治・教会・軍部(騎士団)に勤める者達は必ず『女神の心』洗礼を受け、祈りと誓いを奉げなくてはならなかった。その他の職業の人達も希望すれば誰でも受けれる事になっているのだが、予約は数年先までいっぱいになっていると言う。)




「ごめん。ちょっと意地悪言って悪かったよ。」


「だ、大丈夫だよ。ドゥーエ・・・うぅ。」


「な・・・何だよ。クリード、ごめん!!!泣くなって。」


「ち、違うんだ。こうやってドゥーエが、か、揶揄ってくれるのもあと1年くらいなんだなって思うと、また寂しくなっちゃって・・。」


「お!?おお・・・。」


「ふふ。クリードって可愛いよね。ね!エスト!!」


「うう・・カリンにまで揶揄われちゃった。」


謝ったが余計に反撃をくらってドゥーエは更に顔を赤くしていた。それを見て笑っているイリーナが泣いているクリードの背中をさすり、カリンはと言うとクスクスと口に左手を当て笑いながら、右手の人差し指でエストの腕を突っついていた。


むーー・・・と腕を組み、珍しくさっきから黙り込んでいたエストが急に立ち上がるとカリンに視線を向けた。突然の出来事に驚いた3人を他所にカリンはエストを見て黙って頷いた。


「クリード!イリーナ!ドゥーエ!」


「どうしたの?」


「何よ。」


「何だよ。」


「僕は・・・いや、僕とカリンは、来年どんな結果になっても皆と一生友達だと思っているよ。」


ポカーンと口を開けている3人の前に、エストはカバンからリボンで包まれた箱を取り出し置いていった。


「何これ??どうしたの??」


半笑いになりながらイリーナが箱を持ち上げる。


「ん。僕たちの友達の証だ!」


真剣な目をしたエストを下から覗き込みながら、3人はゆっくり箱を開けてみた。


「え?」


「は??」


「うううう。えーん。」


箱を開けると、イリーナとドゥーエは呆(ほう)け、クリードはもう泣いていた。


「ちょ・・・ちょっと、これウチの商品じゃない!?」


箱の中身を見て驚いたイリーナが勢いよく立ち上がった。


箱に入っていたのは腕の太さに合わせてサイズを調整出来る仕組みが施された腕輪が入っていた。イリーナが言う通りに、この腕輪は商業西区で一番と言われているウエステッド商会、イリーナ・ウエステッドの父が代表をしている商会で販売され始めたばかりの新作だった。その腕輪の表側にはゼラニウムの花の彫刻がふんだんに施されており、さらにその裏側にはE・K・D・I・Cと彫刻されていた。


「しかも・・これって私たちの名前の頭文字が彫ってあるじゃないの。」


「うん!!『この腕輪を大切な友達に贈るんだ。』って言ったら彫ってくれたんだよ!」


「彫ってっくれたって誰が??」


「それは・・・・・イリーナの父ちゃんが。」


「は!?!?」


言葉足らずなエストに慌てたカリンが、わちゃわちゃと両手を振りながら話の補足をし始めた。

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